一冊の詩集と出会いました。
作者の溝呂木 梨穂(みぞろぎ りほ)さんは、
生まれてすぐ起きたトラブルで、
体の自由や、言葉を表に出す機能を失ってしまいます。
それから20年間。
ご家族や一部の方を除いて、
梨穂さんには感じたり考えたりする能力はないと思われてきました。
そんな梨穂さんに、お母様のたくさんのご努力の末の、
素晴らしい出会いがありました。
パソコンや文字盤や装置、指談などで言葉を引き出す柴田保之先生(国学院大学人間開発学部教授)によって、
孤独の闇に光が射したのです。
それまでご自分の中でだけ紡がれてきた梨穂さんの思いは、
ようやく 外へ表すことができるようになったのです。
その後さらに、小原田さんというご夫婦との出会いによって、
「詩集」という形での広がりが生まれました。
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札幌にも、重度重複障がい児が通う学校があります。
もう十数年も前ですが、見学する機会がありました。
先生たちは研究熱心で、
どの授業も楽しいアイディアとパフォーマンスに溢れていて、とても驚きました。
その学校は、教員だった私の転勤先候補の1つでしたが、
転勤を希望する「勇気」を、私は持てませんでした。
理由の一つが、「怖かった」から・・・。
もしももしも・・・
何もわからない、感じていないようにしか見えない生徒たちが、
本当は そうではなかったら・・・?!
実はとても高い知性や豊かな感性を持っているのに、
外に出す手段がないだけなのかもしれない・・・としたら・・・?!
それはどんなに もどかしく、つらく、やるせないことでしょう・・・。
そう思うと、怖かった・・・。情けない自分でした。
梨穂さんの詩集を読んで、「やっぱり そうだったんだ・・・」と、まず思いました。
障がいがあってもなくても、内面は同じ・・・
だからもちろん、知性も感性も個性も様々なのだと思います。
梨穂さんは、素敵な出会いによって、
「詩人」として生きることができるようになった・・・
そのことを、あぁ、よかったなぁ・・・と、心から思います。
病気や事故で植物状態になり、
もうご本人は何も分かりはしないし回復もしない、と
医療機関で判断された方にも、
実は「思い」は存在し、回復方法もあるのだということを
広める活動をしている方たちもいます。
溝呂木 梨穂さんと柴田先生の出会いのきっかけにもなった、
山元加津子さんが中心となっている「白雪姫プロジェクト」です。
私たちは、知らないのに、知っていると思いこんでいることがたくさんあるようです。
溝呂木 梨穂さんの詩集も、そんな思い込みを改めさせてくれる力を持っているように思います。
以下、梨穂さんの文章の抜粋です。
「私は、重度障がい者で、まわりから見たら、何も考えていない、何も感じていないと思われる人だけれども、この詩は、紛れもなく、私のものだし、私の言葉です。・・・・・・・・・私のように障がいのある方や、障がい者に対して理解のある方に読んでもらいたいのはもちろんですが、これまで障がい者の気持ちに関心のなかった方にも読んでいただければうれしいです。私たち、重度障がい者と言われる人たちも、同じ人間だし、同じように物事を考え、感じて生きているのだから、その存在を受け入れてもらいたいというのが、私の願いです。」
梨穂さんの詩
「緑の声と光」 より一部抜粋です
人間として生まれて生きてきたけれど
私は誰にも振り返られることもなく
理想だけを糧にして生きてきた
夜の闇の中でも
人間としての理想は決して捨てずに
ただ未来だけを信じて生きてきた
緑の光を探しながら
私は一人生きてきた
わずかな希望は私にも言葉があることを信じられ
それがかたちになったことだ
・・・・・・・・・・・・・・・・(2012.6.23)
目に見えることだけを信じ、自分は分かっているという思いこみ・・・
「驕り」を、
梨穂さんは、東田直樹さん同様に、
私たちに教えてくれます。
そして、詩として表された素敵な言葉の世界も・・・