【映画がはねたら、都バスに乗って】

映画が終わったら都バスにゆられ、2人で交わすたわいのないお喋り。それがささやかな贅沢ってもんです。(文責:ジョー)

「蟻の兵隊」:渋谷車庫前バス停付近の会話

2006-09-03 | ★田87系統(渋谷駅〜田町駅)

あそこに見える煙突は何?
渋谷の清掃工場だ。
へえ、こんな都心に清掃工場があるんだ。
ああ、渋谷のゴミはここに集まるんだ。ゴミは捨てればゴミだが、生かせば資源になる。
じゃあ、ゴミのように捨てられた兵隊を日本軍は資源として再利用したってこと?
「蟻の兵隊」の話か。
そう、戦争が終わっても日本軍に命令されて中国兵として内戦を戦ったのに、結局脱走兵とみなされて国に捨てられた人のドキュメンタリー。
ひどい話だよな。国って、人を捨てるんだぜ。
寝たきりで言葉も話せない老人のくやしさをこめた雄たけび、見た?聞いた?
壮絶だよな。言葉でなく、叫びでここまで怒りや悲しみを露にした姿なんて、初めて見たよ。正直、震えたよ。
人間とはこういうものかという、底の底を見たようで、まさしく言葉も出ないわね。
被害者であるはずの主人公が一瞬、加害者日本軍の顔になって中国人を責めるところも、よくぞ撮ったとしかいいようがないな。
そう、一瞬で被害者が加害者に変わるのね。戦争に苦しめられた側の人なのに、ちょっとした立場の違いでああも態度が変わっちゃうの。日本軍人に戻っちゃうの。人間の本質をかいま見たようでぞっとしたわ。
戦争の本質って、人間の本質と同じってことか?
うーん。難しいことはわからないけど、あの部下をほっぽっといて逃げちゃった上官とかも、最低よね。戦争って、なにもかもが最低よ。
「ヨコハマメリー」といい、「蟻の兵隊」といい、一瞬こちらがひるむような瞬間があって、今年はドキュメンタリーの当たり年だな。
「ミュンヘン」「ホテル・ルワンダ」「イノセント・ボイス」「ジャーヘッド」「蟻の兵隊」と並べれば、戦争映画の当たり年とも言えるわ。
戦争は決して終わっちゃいない。延々と続いているということだ。
「男たちの大和」みたいに、戦争責任を無視して、昔は大変だったね、なんて感慨にふけっている映画に比べれば、これらの映画のなんと神々しいこと。
まさに戦争映画の金字塔だな。
え、金字塔ってなに?
まあ、あそこに立つ煙突みたいなものだ。
なんだか、日本に捨てられた人たちを供養するお線香にも見えるわね、あの煙突は。
そう、いまだにあの人たちは脱走兵としか認めてもらえてないんだもんな。何度も言うけど、国は人を捨てるってことだ。
せめて、あなたは私を捨てないでね。
そーゆー話じゃないだろ。


ふたりが乗ったのは、都バス<田87系統>
渋谷駅前⇒並木橋⇒渋谷車庫前⇒東二丁目⇒東三丁目⇒恵比寿駅前⇒恵比寿一丁目⇒恵比寿四丁目⇒恵比寿二丁目⇒恵比寿三丁目⇒北里研究所前⇒三光坂下⇒白金高輪駅前⇒魚籃坂下⇒三田五丁目⇒慶応義塾大前⇒田町駅前

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