【映画がはねたら、都バスに乗って】

映画が終わったら都バスにゆられ、2人で交わすたわいのないお喋り。それがささやかな贅沢ってもんです。(文責:ジョー)

「アイガー北壁」:枝川一丁目バス停付近の会話

2010-05-01 | ★業10系統(新橋~業平橋)

そそり立つようだなあ、この団地。
アイガー北壁みたいって言いたいんでしょ?
お、どうしてわかった?
わかるわよ、さっき観てきたばかりじゃない、ドイツ映画の「アイガー北壁」。
難攻不落とされるアイガー北壁に挑んだ男たちの物語だ。
雪と風にまみれた壮絶な映画だったわね。
ときまさに、1936年。ナチス政権は、国家の優越性を世界に示すため、ドイツ人がアイガー北壁を初登頂することを切望していた。
眼前にアイガーを望めるリゾートホテルがあって、政府おかかえ新聞社の男は、そこで酒や料理にうつつを抜かしながら、登山家たちの悪戦苦闘を余裕綽綽に眺めている。
頂上をめざしているときには興味津津に眺めていたのに、アクシデントが起きて登頂をあきらめ、下山することになったら、急にニュース価値がないと判断して帰り仕度を始める。現金なものだ。
しかもそのアクシデントが悲劇的な様相を呈してくると、こりゃ特ダネになると再び興味を示したりして、いやらしいったらありゃしない。
安全なところでのんきにアイガーを眺める連中と、そのすぐ目の前の北壁で起きている地獄絵図の落差に愕然とする。
目と鼻の先なんだけど、断崖絶壁で起きていることだから、手の差し伸べようもない。
ある意味、「アポロ13」のような映画だったな。
目的を達する姿を描く映画ではなく、いかに無事に帰還するかを描いた映画。
でも、次から次に襲ってくる障害の中で生気を失っていく登山家たちの姿には目をそむけたくなる。
最初は「炎のランナー」のように精悍な男たちだったのにね。
それがどんどんくすんでくる。そのリアルなこと。
この悲劇、日本で言えば「八甲田山」を思い出す。
神は我々を見放した、ってか。
ハリウッド映画でいえば、「ポセイドン・アドベンチャー」みたいな話でもある。
悪夢のような状況からいかに脱出しうるか、あるいは脱出しえないか。ある種、デザスター映画として観ることもできる。
でも、これが実際にあった話だっていうから、すさまじいわね。
演出も、半分ドキュメンタリーみたいな撮り方をしているから、過酷な運命に観客までが翻弄される。
岩から細い綱一本でぶらぶら、ぶらさがったままになってしまう姿が、すべてを象徴しているわね。
ああ、宙づりにさせられたような映画だった。
それって、まるで私たちの人生みたい。
なるほど、だから他人ごとと思えないのか。






このブログ、まあまあだったかなと思ったら、クリックをお願いします。




ふたりが乗ったのは、都バス<業10系統>
新橋⇒銀座西六丁目⇒銀座四丁目⇒築地⇒築地三丁目⇒築地六丁目⇒勝どき橋南詰⇒勝どき駅前⇒月島三丁目⇒月島四丁目⇒晴海一丁目⇒日本ユニシス前⇒IHI前⇒豊洲二丁目⇒豊洲駅前⇒豊洲四丁目⇒枝川⇒枝川一丁目⇒枝川二丁目⇒塩浜二丁目⇒塩浜橋⇒木場六丁目ギャザリア前⇒木場駅前⇒木場三丁目⇒木場四丁目⇒木場公園⇒東京都現代美術館前⇒白河⇒森下五丁目⇒菊川駅前⇒立川⇒緑三丁目⇒亀沢四丁目⇒石原三丁目⇒本所四丁目⇒東駒形三丁目⇒本所吾妻橋⇒業平橋駅前