【映画がはねたら、都バスに乗って】

映画が終わったら都バスにゆられ、2人で交わすたわいのないお喋り。それがささやかな贅沢ってもんです。(文責:ジョー)

「愛を読むひと」:新田バス停付近の会話

2009-06-24 | ★亀29系統(なぎさニュータウン~亀戸駅)

都会にもこういう昔ながらの風景があると思うとほっとするわね。
おいおい、「昔はよかった」なんて言い出すなよ。
どうして?
世の中には、長い間、昔の傷を抱えながら生きている人間だってたくさんいるんだから。
あれれ、いきなり、重たい話を始めちゃって、どうしちゃったの?
お前も観ただろう、「愛を読むひと」。
少年が初めて結ばれた年上の女性が、過去の出来事で重い罪に問われるというベストセラー小説「朗読者」の映画化ね。
そういう女性に何十年にも渡って純愛をささげる男の姿に胸が震える。
ま、待ちなさい。そういう映画じゃないでしょ。
へ?
少年は、たまたま女性に興味を覚える年ごろだっただけ。だから、大人になって劇的に再会したとき、彼女の窮地を救える立場にあったのに、結局背を向けてしまう。
いやいや、そうじゃない。彼女を救うには彼女自身が隠し通そうとしていた秘密を暴露しなくちゃならない。それよりは、彼女の人間としての尊厳を守るほうを選んだんだよ。分別と教養のなせる技だ。
そんなことない。勇気がなかっただけでしょ。女性は有罪になるか無罪になるかの瀬戸際なんだから、愛しているならなりふりかまわず助けなくちゃ。それが男ってもんでしょ。
じゃあ、彼女が刑務所に入ったあと、書物を自分の声で朗読したテープを延々と送り続けるのは、どういうことだよ。愛だろ、愛っ。愛を読むひとだろ。
とーんでもない。彼の心の中にあるのは、彼女を救えなかった後ろめたさだけよ。それが証拠に、彼女から手紙が来ても返事も返しやしない。原題だって、“愛を読むひと”じゃなくて、ただの“朗読者”よ。
ああ、お前は何にもわかっていないなあ。テープを送ることが返事そのものなんだよ。愛の表現なんだよ。それ以上何が必要だっていうんだ?
ことばよ、ことば。本じゃなくて、本人のことば。それが足りないばかりに、いったい何人の男女が別れたことか。
男のほうは、最後には年老いた女性を引き取るとまで言っているんだぜ。なのに、人の気も知らないで、これみよがしにとんでもない行動に出るなんて、この女、何考えてるんだかわからない。
何考えてるんだかわからないのは、男のほうよ。何十年振りに会ったというのに、家を用意したとか、仕事を用意したとか、そんなことしか、かけることばもない。
分別もあればしがらみもある。それが精一杯の愛情ってもんだろう。
そうやって、愛だ、愛だ、と言いながら結局はどっかで線を引いちゃうのよね。ずる賢い男たち。
ああ、こうして、男と女はすれ違うっていくっていうことか・・・。
少なくとも、“純愛”なんてきれいなことばを使う世界じゃないわね。
ズブズブのくされ縁ってことか?
愛の流刑地よ、愛の流刑地。
意味わからん。それより、俺たちの会話には、彼女の問われた罪に関する話題が全然出てこないんだけど、どういうわけだ?それはそれで世界の歴史にもかかわる、ものすごく重要な事件だと思うんだけど。
たしかにあの事件が二人の行動を支配していることはわかるし、そこを深く掘り下げて、今に続く忌まわしい歴史を検証する映画にすることもできたんだろうけど、スティーヴン・ダルドリー監督はあくまで愛に焦点を当てているんだから、私たちの会話もお門違いじゃないわよ。
歴史を考証する映画じゃないってことか。だから、ドイツの出来事なのに平気で英語でセリフを喋らせてるのか。
刑務所の中で、彼女が“the”“the”とか言いながら一生懸命英語を覚えるものだから、出所したあとのキャリアを考えてバイリンガルをめざしているのかと思っちゃったわよ。
それは、嘘だろう。
あは、恋愛に嘘はつきものよ。
しかし、ケイト・ウィンスレット、「タイタニック」の頃は、老け役は別人が演じていたのに、いまは自分で演じられるようになっちゃった。
昔のほうがよかった?
とんでもない。あの頃のケイト・ウィンスレットじゃあ、こんな陰影のある女性の役はとてもできなかっただろう。
でも、もしつきあうとしたら?
む、昔がよかったかも・・・。
ほーら、これだから、男は信用できないのよねえ。




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ふたりが乗ったのは、都バス<亀29系統>
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