珍しい、しかも対応が難しい症例に遭遇して頭を悩ませているとき、同じような症例が報告されているのを見つけるとたいへん助かるし心強い。
1歳馬が食べ物が混じった鼻汁を垂らす。嚥下障害かと思ったが、内視鏡検査で大きな異常は感じない。
食道の内腔はその塊に圧迫されて湾曲しているが、内視鏡では内腔しか見えないので狭窄や湾曲がわからない。
その塊は披裂軟骨のすぐ後ろ、甲状軟骨の背中側、たいへん面倒なところにある。
血管や、呼吸や嚥下に関係する神経も多く走っている。
食道入り口の括約筋は輪状咽頭筋がその役割を果たしているのだそうだ。
シストがその中にあると切除・摘出は難しい。
が、タイミングよくEquine Veterinary Education に似た症例が報告されていた。
食道の筋層と粘膜の間にシストはできていて、仰臥位で正中を切開し、気管を脇に避けておいてシストを摘出できたとの報告。
私は仰臥ではなく右横臥で頚静脈の腹側を切皮した。
その方が、Tieback手術で扱い慣れた術野だからだ。
神経や血管が乗っていないところを選んで、縦走筋を鋏で分ける。
ポンポンに張ったシストが露出する。
破らないように注意しながら全部を剥き出しにする。
Equine Veterinary Educationの報告では、一部は粘膜とつながっていたので食道内腔が開いてしまったようだが、今回の症例では内腔を開けずに済んだ。
食道の筋層を縫合する。
切開するとクリーム状の粘液が流れ出た。
食道の粘膜には分泌腺があって食べた物をスムーズに飲み込めるように粘膜を潤しているが、おそらくその分泌腺を含んだ組織が内腔とつながっていないところにもできてしまっていて、どこへも出て行けない分泌物が徐々に貯まって膨らんだのだろう。
だから針を刺して抜いたくらいではまた徐々に膨らんでくるだろう。
こんなデザートを食べながらブログを見ている人が居たらゴメンなさい。
牛の膿瘍と言えば写真のような形態がお決まりですが(咽頭はみたことないです)破かないで摘出するのは難儀です。
姑息にドレナージでも彼らはタフなので応えてくれますが。
腺組織や咽頭では良い結果をもたらさないと思われる選択枝ですね。
手術前は膿瘍の可能性も考えましたが、熱感・疼痛・炎症像がないので、以前に見た症例の経験からも、非感染性のシストだろうと考えていました。膿瘍なら綺麗な摘出は無理で、切開、排膿、洗浄しかないでしょうね。