お久しぶり……過ぎますね。
もしかしたら、ひっそりと続きを書き始めるかも知れないです。一応、自分の処女作ですし。リリとジルバの結末を書いてあげないと可哀想だとも思いました。結末は考えています。ただそこに行き着くまでが難儀ですね。 . . . 本文を読む
酒場の中ではランタンの光が暗闇を照らしていた。それでも比率としては暗闇の方が多い。隣の席に何人いるか分からないほどだった。
三人掛けの卓が八つくらいしかない小さな酒場だ。
皿に残った焼き豚の油を舐めるように平らげていたリリィは、今や夢の中だ。すーすーすーと嵐の後の静けさを醸し出していた。長い睫毛と、頬紅を付けたような桃色のほっぺたが、緩徐に動くたびにジルバは見とれてしまう。それを . . . 本文を読む
世界を信じるより、傍にいる誰かを信じた方が簡単だ。と言う言葉は、とある修道会を訪れたときに耳にしたものだった。ジルバは、もっともだ、とその修道士の説法を聞いていたのだが、リリィの腹の虫が治まらなかったのを見て、早くここから立ち去ろうと重い腰を上げた。それは秋も深まったある日の出来事だった。
刈られた稲穂の後が枯れ始めて田んぼにひびが入っていた。そんな村を見下ろしながら、ジルバ達は丘を上 . . . 本文を読む
――その青い一迅の風が、決闘の決着を暗示させた。
草を刈る切っ先が、赤い花弁を巻きあげ、鈍い褐色の火花を散らす。
影を背負うようにして佇む二人の剣士は、お互いの譲れぬ思いを、夜の帳を引き裂くようにして剣に乗せた。
不意に風が去った。ジルバは下段を刈る。リアは直線に突いた。
「ジルバ……」
「兄様の勝ちです」
膝から崩れ落ちるジルバに向かって、リリは駆け寄った。それは無意識 . . . 本文を読む
皆さま、新年あけましておめでとうございます。
今年の抱負は、先のことを考えてクヨクヨしない、です。
僕は、どこか卑屈になる節があり、自分でもなんとか直したいのですが、なかなかうまくいきません。
ところで皆さんは、三が日などはどのようにして過ごしましたでしょうか?
書き初めや、初詣などが定番でしょうか。なんといっても、お年玉は楽しみですね。
この年になると、貰える額ではなく、 . . . 本文を読む
~時間稼ぎのためのあとがきコーナー~
こんにちわ。作者の律氏です。お読み頂きありがとうございます。
『キリアド王国編』がようやく終わりました。ああ長かった。
ひどいですねー。我ながら、ひどいもんだと思います。こんなの人様に見せるというのはどうなんでしょうか?
――バカヤロ。コンナノ、ショウセツジャネエ。シュギョウシナオシテコイ。
まぁ何はともあれ、やっと終わったーという . . . 本文を読む
ハルカはジルバの気迫に押されて、じりっと後ずさりする。緊張が走った。
しかし、その時、
「ジルバっ。今日は肉よ。にくぅ! ちょっと聞いてる、のー」
と、リリが間の抜けた寝言を言った。
ハルカはくすりと笑い。ジルバはため息をついた。
「知っていますか。ジルバさん。赤き花の悪魔は、冷徹無比に残虐の限りを尽くし、人殺しを働くそうなのです」
ジルバはジョッキを置いて、テーブルの中央 . . . 本文を読む
「では私達はこれで。あの、この度は色々とありがとうございました。ジルバさん達がいなければ今頃どうなっていたか。これはほんのお礼です。どうぞ御納めください」
ハルカは懐から金貨の入った袋を出してテーブルの上に置く。目配せてお辞儀をする。ジルバは呻くように、ああと言っただけで袋に手をつけない。
「もう国を発たれてしまうのですか」
「用事を済ませたらな」
ジルバは、先程届いた一通の文を見る . . . 本文を読む
染み付いた雨と酒の匂い。喜怒哀楽雑じりの想いがそこには詰まっている。どんなに時が経ろうと変わらない。もう一度その匂いを嗅げば、思い出せる。それはあたかも世界に記憶された物語の断片のようであった。
リリはすでにテーブルに突っ伏して眠っていた。とても気持ちよさそうな寝顔である。ジルバは目尻で微笑した。
「お嬢様。そろそろ」
ユザはハルカに言った。ハルカは若干酔って潤んだ目をユザに向ける . . . 本文を読む
「それから、もう一つ気になっていることが……」
ハルカはそう言って、困惑した表情を浮かべた。しかし、それをすぐに打ち消し、口を開く。
「マルコの尋問には私と父上が立ち会いましたが、その際にマルコがうわ言のように呟いたのです。……白き神、白き神、白き神と何度も何度も繰り返して。その意味を尋問官が問うても、一向に喋ろうとしませんでした」
ジルバは、一瞬険しい表情を湛えて、やがて口元を自然に . . . 本文を読む
「あの男の様子はどうだ」
ジルバの質問に、ハルカは傾倒していた首をしゃんと伸ばし表情を引き締めた。
「マルコは……死にました」
ハルカの表情が翳る。微妙な空白が辺りを席巻した後、ジルバが口を開いた。
「死んだのか」
「ええ。父上が帰国してすぐ、マルコの尋問が行われたのですが、マルコは黙していて何も語りませんでした。……次の日、牢の中で血まみれになっていたそうです。自分で自分の喉を引 . . . 本文を読む
二人組は粛々と移動し、空いていた椅子に座る。二人のうちの背の高い方は、水を払いながらフードを外して、顔を見せた。栗色の艶めかしい髪が蝋燭の滲んだ灯りに映える。
「王女がこんな夜更けに城を抜け出して良いのですか」
アリスが声を潜めずに訊く。配慮の欠片も無い態度だが、ハルカは笑った。
「大丈夫です。いえ、むしろ今しか会えないでしょう。父上の帰還式で国中が一色の今なら――」
「会っても大 . . . 本文を読む
雨の王国。人が行き交う大通りを外れた、小道の脇。佇む一軒の宿屋。レンガ造りの宿屋、一階は酒場である。その酒場の隅のテーブル。珍妙な様相の三人が卓を囲んでいた。
「おかわりっ」
リリが鈍い鼠色をしたジョッキを掲げて叫んだ。蒸留をされてない安い酒では酔うはずがないのだが限度がある。リリは酔わざる限度を軽く三杯は越えていた。リリの頬には赤みが差していた。
「飲み過ぎです」
アリスは無感 . . . 本文を読む
ジルバは、剣を鞘に戻した。肘を曲げ、腰を少し揺らすだけでも、痛む。ジルバは苦悶の表情を浮かべた。しかし、痛みは徐々に弱まってきているようだった。
――痛みに慣れてきたか。あるいは、治ってきたか。どちらにせよ、もう動けはしないな。
「ジルバ……!」
不意にジルバは重みを感じた。リリに飛びつかれたのである。リリ一人を支えきれない、ジルバは少しよろめいた。
「リリ。やめろ」
だが、リ . . . 本文を読む
ユザは肩口に浅く刺さった短刀を、激しい痛みと共に抜き放った。倒れたマルコに馬乗りになって、自らの血がしたたる切っ先をマルコの眼球の前に置く。
「……やめでぐれ」
目をぎゅっと瞑ったマルコは、口元を歪めて、微かに言う。
「だめだ。あたしはお前を殺す。今すぐに、切り裂いてやる。――だが、お前を殺すかどうかを決めるのはあたしじゃない」
ユザはハルカを見上げた。ハルカは、ゆっくりと瞬きを . . . 本文を読む