学校教育における「居場所」論再考⑨ ~チャレンジスクールの実践例~

2017-02-12 10:41:36 | 日記
第2章 都立高校の学校改革の現状と分析

第3節 チャレンジスクールの実践例

○六本木高校の現状と課題 ~50種類以上の自由選択科目、出席率・単位取得率の低下~
 2006年には、チャレンジスクールは桐ヶ丘高校、世田谷泉高校、六本木高校、大江戸高校の4校になる。その中の「六本木高校」を以下に紹介する。

 六本木高校は、不登校・中退経験者の受け入れを掲げる高校である。六本木ヒルズは間近に見える別の都立高校に開校。1・2年生約300名中、不登校や高校中退の経験者は7割余り。

 授業は①朝8時50分からの午前部、②午後1時からの昼間部、③午後5時20分からの夜間部、の3部制(昼夜間定時制)を取っている。必修科目(国語、数学、英語など)以外の授業は、50種類以上もある自由選択科目が自分で講座を選ぶ。その中には、メーキャップ、ジャズダンス、コンピューターグラフィック、声優等の基礎表現といった科目があり、生徒の通常意欲を高めようとしている。以前に不登校を経験した生徒は「やりたいことができて楽しい」「友だちがたくさんできた。入学できてよかった」等、評価する声があがっている。

 しかし、問題点がないわけではない。それは学校運営システムにおける問題だ。六本木高校は、生徒が自主的に教室に入るのが理想と考え、①始業時のチャイムを鳴らさない、②開始後15分まで出席扱い、というシステムを取っていた。それによって、「生徒は15分遅れで集まるようになった」「出席は十分」「来年もう1回取ればいい」という生徒が増えた。その結果、1年目の出席率は平均65%、単位取得率55%、ほとんど単位を取得できなかった生徒もでてしまったという。

 そこで、六本木高校は今後の課題として、①非常勤講師を増員、②出席率と単位取得率の各10%アップ、といった学校経営計画をたてることになった。以上の課題を克服する方法は以下の通りであるという。
①始業、終業のチャイムを鳴らすことにした。
②遅刻や早退は3回で欠席1回とし、扱いを厳しくした。
③学校を休んだ生徒には1年目以上こまめに保護者へ連絡。
 六本木高校は普通の高校と同じ時期に実施された2月の前期入試の倍率は3.37倍。大きな期待がある中、まで試行錯誤だという。(読売新聞2006.5.16)

 ただ、前期入試の倍率が3.37倍という高い倍率は、学校へ行きたくてもいくことができない「不登校・中途退学者」の器にはたしてなり得ているのか、という疑問が残る。定時制高校統廃合によって、不合格者の行方の問題が克服されたわけではなく、加速された可能性が高い。したがって、その器に収まりきれなかった生徒たちをどのような学校が抱え込んでいくか、という別の視点が必要になり、つまりここにオールタナティヴとしての高校(サポート校等)の存在意義の必要性が浮き上がってくるのかもしれない。

○東京都立大江戸高等学校の例 ~心の問題に、手厚い体制~
 次に紹介するのは、同じ「チャレンジスクール」の一つ、昼夜間定時制の東京都立大江戸高等学校である。開校4年目。全生徒のうち、不登校・中途退学者の生徒が6割。同高の特徴は「生徒の心の問題に、手厚い体制」を整えているということ。朝から夜までの12時間以上、保健室やカウンセリングルームに、生徒たちが入れかわり立ちかわり訪れるそうである。①養護教諭3人、②養護教諭は早番・遅番の2人体制、誰かが必ず保健室にいる体制、③経験豊かなベテランの養護教諭が対応、⑤部屋での飲食や携帯電話の使用禁止、⑥授業中は全員教室へ行かせることで、けじめをつけさせている、という。

 公立学校へのスクールカウンセラーの配置は、1995年にスタートし、高校では2005年度巡回を含め、約700校に配置している。同高のカウルセリングルームは週4日開き、臨床心理士のスクールカウンセラーは週1回来校。3回間は心理学専攻の大学院生3人が交代で務める。保護者や担任の相談も受け、面談希望者は2週先まで予定がつまっているそうである。気になる生徒の情報は週1回、副校長、養護教諭、カウンセラー、学年担任が集まる会議で共有。生徒の悩みの内容は「学校内での人間関係」が大半。保護者は「うちの子が学校でうまくやっていけるか」など、である。

 今日、学校が「安心と癒しの場」として位置づけられ、保健室やサポート校が安心できる緊急避難場所、疲労を癒す場所としての意味が強くなってきている。大江戸高校の特徴は、このタイプの学校だ。また、たんに保健室や養護教諭に依存させないような配慮も見られる。
 生徒を指導・支援していくうえで、教師集団の役割関係の明確化が必要だと考える。たとえば、生徒への対応をめぐって、「ATスプリット」と呼ばれる方法の観点が必要なことが多くあった。

「ATスプリット」とは、医療界用語である。つまり、「ひたすら受容するだけではいけない」という考え方である。これを学校における生徒と教師の関係で捉えなおすと、①「リミセット・セッティング」を行う役割、②「ホールディング」という役割、である。この二つの役割を学校における生徒と教師の関係性で捉えなおしていくと以下の通りである。①は生徒のやることをなんでも受け入れるのではなく、「許容範囲」をきちんと設定し、その範囲を超えた場合、教師は生徒の壁になり、(その状況に応じて)突き放すことを辞さない姿勢である。②は生徒を丸ごと受け入れ、抱きしめてやる姿勢である。

 いうまでもなく、突き放すだけでは生徒は自立できないし、学校を信用しなくなる。しかし、たんに受け入れるだけでは生徒の依存心ばかりが高まり、現実を直視できない自己が形成されてしまう。一人の教師が相矛盾する役割を担うこともあろうが、こうした矛盾を克服するには、①と②の役割を截然と区別できる役割が理想である。従来の学校の場合でいえば、生活指導部(リミセット・セッティングをする側)と担任団(ホールディングをする側)との関係である。生徒の処遇をめぐって対立した場合、両者の役割がうまく機能していないと、学校の秩序も保てないし、生徒の自立も守れない。緩めのシステムで学校が運営されていると、①の役割が弱くなり、生徒に「なんでもあり」の雰囲気を感じ取られてしまう。だからといって、①を強化すれば、生徒にとって居心地の良い学校ではなくなってしまうだろう。そうであればなおさら、教師のキャラクターに応じて役割を明確にしていくことが必要になっていくのではないかと考える。

続く

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