Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

デュトワ/N響

2016年12月12日 | 音楽
 デュトワ/N響の演奏会形式上演で「カルメン」。オーケストラが正確無比だ。オペラハウスのピットの中のオーケストラとは次元を異にする。フランス音楽の香りはなぜかあまりしなかったが、これだけきちんとした演奏を聴かせてくれれば申し分ない。

 カルメンはケイト・アルドリッチというアメリカ人。前傾姿勢で体をくねくね動かしながら妖艶に歌う。欧米で「カルメン歌手として人気になっている」(プロフィールより)とのこと。そうだろうなと頷ける。

 ドン・ホセはマルセロ・プエンテ。アルゼンチンのコルドバの音楽院で学んだそうだ。張りのある強い声が出る。ドン・ホセの内省的な面は感じられなかったが、これだけ直情的な歌唱を聴かせてくれれば、まずは文句ない。

 エスカミーリョはスター歌手のイルデブランド・ダルカンジェロ。どんなに華やかなエスカミーリョになるかと思ったら、意外に地味で、存在感が薄い印象だ。そのことが興味深かった。衣装を着て、演出が付いた舞台ならともかく、音楽だけだと、この役は意外に存在感が希薄なのかもしれない。それはカルメンとドン・ホセの心理劇に焦点を絞るための作劇術ではないだろうか。

 ミカエラはシルヴィア・シュヴァルツというスペイン系の人(生まれはロンドン)。第1幕と第3幕のそれぞれのアリアを情感たっぷりに歌った。フランス語の発音はこの人が一番よかった。

 版は、台詞の部分をエルネスト・ギローがレチタティーヴォに編曲した「ギロー版に基づく」(プログラムノートより)とのこと。正確にいえば、フリッツ・エーザーによる校訂版の台詞の部分をレチタティーヴォに置き換えた版だったかもしれない。そうだとすれば、新国立劇場での上演版と同じことになるが。

 歌劇場で観るならともかく、演奏会形式だと、レチタティーヴォの部分が妙に気になった。ギローが書いたレチタティーヴォを取り除くと、このオペラはどう聴こえるのだろう、と。各曲の明暗の対比が、もっと鮮やかに出るだろうことは想像にかたくないが、レチタティーヴォが介在するため、明確なイメージを得るには至らなかった。

 デュトワはアリアの後の拍手を許さずに、先に進もうとしたが、何人かの聴衆が拍手をした。幕全体を通した音楽の形を崩すまいとするデュトワの意図が明らかだったので、それに従ってみればよいのにと、わたしなどは思ったが。
(2016.12.11.NHKホール)

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