Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

ラザレフ/日本フィル

2012年05月19日 | 音楽
 ラザレフ/日本フィルの定期。「ラザレフが刻むロシアの魂」のラフマニノフ・シリーズ3回目だ。曲目はピアノ協奏曲第3番。ピアノ独奏は上原彩子さんだった。

 第1楽章の出だしは、微かな音で、頼りなげに始まったが、もちろんこれは上原さんの解釈だ。展開部が終わって再現部へ入る前の長大なカデンツァも、ことさら激情的に表現するのではなく、むしろ淡々と演奏された。だが、音にこめられた集中力は、やはりたいしたものだった。

 第3楽章に入ると、上原さんらしさが全開になった。音楽への没入、歯切れのよいリズム、ノリのよさという要素だ。世の中には優れたピアニストは数多くいるし、この曲をレパートーにしている人も多いが、上原さんの音楽への没入は並みではない。一流とはこういうことかもしれない。

 オーケストラもよかった。いつものことだが、ラザレフは協奏曲がうまい。音楽の区切りがはっきりしていて、呼吸感があるからだろう。ラザレフがバックをつけると、ソリストは安心して、伸び伸びと演奏しているように感じられる。ロシア物だけではない。たとえば3月の横浜定期で聴いたブラームスのピアノ協奏曲第1番(ピアノは河村尚子)もよかった。

 今回はラフマニノフ・シリーズの3回目。このように継続して取り組んでくれると、オーケストラも聴衆もその作曲家と真っ向から向き合うことになる。そのメリットは大きい。単発でこの曲を演奏すると「名曲コンサート」になるおそれがある。継続して取り組むと、もっと幅広い文脈のなかで捉えられる。

 プログラム後半はチャイコフスキーの交響曲第3番「ポーランド」。音楽プロデューサーの平井洋さんがブログ「平井洋の音楽旅」で、「ちょっと楽しみ。(中略)このチャイコの3番は彼に合っていそうな気がする」と書いておられた(4月9日)。まさにそうだった。その説明は難しいが――。

 ともかくこれは目的意識のはっきりした演奏だった。長大な曲だが、アンサンブルにゆるみはなかった。ラザレフという大黒柱に支えられて、オーケストラという家の何本もの梁が、ゆるみなく組み立てられていく様子を見るようだった。

 3番以外にラザレフに合っていそうな曲はなんだろう、と考えた。チャイコフスキーは全部合っているといえばそれまでだが、そのなかでも3番、そしてそれと同クラスとなると、案外「マンフレッド交響曲」あたりではないだろうか。
(2012.5.18.サントリーホール)

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