Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

ホドラー展

2014年12月26日 | 美術
 フェルディナンド・ホドラー(1853‐1918)は、好きな画家だが、その生涯を通しての画風の変遷とか、テーマの全貌とかはつかめないままだった。本展はそれをつかむ絶好の機会だ。

 本展は、ホドラーの作品と、同時代の作曲家・音楽教育家のダルクローズ(1865‐1950)の唱えた‘リトミック’との関連を解明する点に特徴がある。リトミックとは音楽教育の手法だ。大雑把な言い方だが、子どもの自由な感覚(表現意欲)を尊重した教育法といったらいいか。音楽にとどまらずに、舞踏や演劇にも応用された。

 舞踏の写真が多数展示されていた。なるほど、何人かの娘が輪になったり、横に並んだりしながら踊っている様子は、ホドラーの作品にそっくりだ。

 ホドラーの作品の本質が明らかにされた観がある。たとえば「感情Ⅲ」(1905)は、それがリトミックの一場面だと思えば、ひじょうに分かりやすい。だが、リトミックだけで片付けてしまうことは危険だ。ホドラー特有の要素がそこにはあることも留意すべきだろう。

 「感情Ⅲ」を例にとったので、そのついでにいえば、この作品には‘性’の要素があることは否定できない。4人いる女性の、同じようなポーズと衣装の繰り返しの、そのリズムが、最後尾のほとんど全裸の女性で破られている。リズムと同時に、破調のインパクトもまた大きい。

 本展でもっとも深い感銘を受けた作品は「オイリュトミー」(1895)だ。その壁画性は解説のとおりだし、シャヴァンヌからの影響も肯ける。繰り返しのリズムも「感情Ⅲ」と同様だ。

 でも、この作品にも、そういったコンセプトでは掬い切れない要素がある。それは‘死’だ。年老いた5人の男たちは‘死’に向かって歩いている。本作は‘死’の想念にとりつかれている。もちろん本展ではそのことも指摘されている。でも、その点に深入りすることは避けて、壁画性とかリズムとかとのバランスを取ろうとしている節がある。

 アルプスの風景画も面白かった。トゥーン湖とシュトックホルン山脈を描いた作品が5点ある。1910~13年の作品。同一地点の、季節も天候もさまざまな景色だ。でも、これらの作品は、モネのルーアンの大聖堂とはちがう。たんなる(純粋な)眼ではなく、生と死をその背後に見つめる作品だ。その点を閑却すると、(ソフトドリンクのような)口当たりのいい作品で終わってしまう。
(2014.12.24.国立西洋美術館)

↓主な作品の画像(本展のHP)
http://hodler.jp/highlight.html

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