後期ゴシック彫刻・市民運動・演劇教育

小学校大学教師体験から演劇教育の実践と理論、憲法九条を活かす市民運動の現在、後期ゴシック彫刻の魅力について語る。

〔123〕『"機関銃要塞"の少年たち』と『弟の戦争』を読み比べるとおもしろいですよ。

2017年01月17日 | 図書案内
  ロバート・ウェストールの話が続きます。
  『"機関銃要塞"の少年たち』(1980年、越智道雄訳、評論社)をブックオフで手に入れたのは2,3年前のことでした。なぜか低価格でありながらも汚れのまったくないきれいな本でした。すぐに読まなかったのは、この本が戦時下の英国の子どもたちを描いていて、当然ながら翻訳本ということもあり、私には少々馴染めなかったからです。しかし、ウェストールの処女作でありながら、英国の権威あるカーネギー賞受賞作をいずれは読みたいと思っていたのでした。
  前ブログで紹介した、ウェストール短編集『真夜中の電話』を読んで勢いがつきました。本書を読み進めるにつれて、徐々に引き込まれていきました。ナチスドイツに空爆される戦時下の北部イギリスの様子が実にリアルで克明です。
  仲間と機関銃要塞という秘密基地を造るあたりから、ぐいぐい物語に没入していきました。ある日、ドイツの兵隊が不時着するところから、物語は佳境に入るのです。個性をしっかり描きわけられた数人の子どもたちとドイツ兵との交流から、戦争とは何かを問う一種の反戦文学とも言えそうです。内容はそれほど平易なものではなく、たんなる児童文学でもありません。大人の鑑賞にもしっかり堪えうる物語でした。

『"機関銃要塞"の少年たち』を読んですぐに思い出したのは、ウェストール作品の白眉『弟の戦争』でした。それはこんな本です。

『弟の戦争』ロバート・ウェストール/作 原田勝/訳、徳間書店、1995年
〔内容紹介〕イギリスで子どもの選ぶ賞ほか複数受賞。ぼくの弟は心の優しい子だった。弱いものを見ると、とりつかれたみたいになって「助けてやってよ」って言う。人の気持ちを読み取る不思議な力も持っている。そんな弟が、ある時「自分はイラク軍の少年兵だ」と言い出した。湾岸戦争が始まった夏のことだった…。人と人の心の絆の不思議さが胸に迫る話題作。

  『"機関銃要塞"の少年たち』は第二次世界大戦時のことですが、『弟の戦争』は湾岸戦争をモチーフにしています。時代はそれぞれ違うし、前者がリアルな戦争体験を下敷きにしているのに対して、後者は弟が「自分はイラク軍の少年兵だ」と憑依する物語です。異なる手法で戦争に迫るウェストールはただ者ではありません。
  『弟の戦争』のディテールはすっかり忘れてしまったので、近々再読したいと思っています。
  宮崎駿さんは大のウェストールファンだと聞いていますし、ウェストール作品の挿絵も描いています。『ブラッカムの爆撃機―チャス・マッギルの幽霊/ぼくを作ったもの』(岩波書店)の編集もしています。彼はウェストール作品のどこを評価しているのでしょうか。
  引退会見で次のように語っています。

宮崎 僕は、自分の好きなイギリスの児童文学作家で、もう亡くなりましたけど、ロバート・ウェストールという男がいまして、その人が書いたいくつかの作品の中に、本当に自分の考えなければいけないことが充満しているというか、満ちているんです。この世はひどいものである。その中で、こういうせりふがあるんですね。「君はこの世に生きていくには気立てが良すぎる」。そういうふうに言うせりふがありまして、それは少しもほめことばではないんですよ。そんな形では生きていけないぞお前は、というふうにね、言っている言葉なんですけど。それは本当に胸打たれました。
 つまり、僕が発信しているんじゃなくて、僕はいっぱい、いろんなものを受け取っているんだと思います。多くの書物というほどでなくても、読み物とか、昔見た映画とか、そういうものから受け取っているので、僕が考案したものではない。繰り返し繰り返し、この世は生きるに値するんだってふうに言い伝え、「本当かな」と思いつつ死んでいったんじゃないかってふうにね、それを僕も受け継いでいるんだってふうに思っています。

  ウェストール作品、お次は未入手『ブラッカムの爆撃機―チャス・マッギルの幽霊/ぼくを作ったもの』を読まなくては。

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