ある人名録を読んでいたら、英語関係の某氏を紹介したところに、「~州にある名門校~大学を優等(cum laude)で卒業」と書いてあるのが目に止まった。この書き方はミスリーディングだ。確かに、cum laudeはwith honorの意味のラテン語だから、「優等で」と訳せなくはない。だが、日本語で「優等で卒業した」と言えば、「首席 [総代]で卒業した」と解釈するか、もう少し広義に言っても、「成績優秀者の上位数名の一人として卒業した」と解釈する日本人が多いはずだ。
じつは、cum laude が日本語の「優等」とはズレることに関しては一度言及したことがある(→こちら)。そこに書いたことの繰り返しだが、日本人は次の点に注意すべきだろう。
米国の大学の卒業式では、cum laude, magna cum laude, summa cum laude の順で卒業生の卒業成績は高くなるが、最優等のsumma cum laudeでさえも、日本で言うところの「総代、首席」とは限らない。すなわち、大学が設定する成績基準さえ満たせば、summa cum laude は複数の卒業生に与えられる。
繰り返しになるが、大事な点は、「最優等」のsumma cum laude でさえも、「優等生の“一人”として」である可能性は大きいのであり、日本で言う「首席」あるいは「総代」とは限らない(米国では valedictorian がこれに相当する;次席はsalutatorian)。私が知っている米国M大学の場合、卒業成績が上位4~5%に入っていれば、その全員がsumma cum laude で卒業する。ましてや、某氏のように、三段階の最下位であるcum laude で卒業したのなら、その成績保持者はかなりの人数に上ったはずだ。米国M大学の場合、50%に入っていれば、全員がcum laude卒業者だ(ちなみに、magna cum laudeは上位20%だ)。大学によっては、大半の卒業生がcum laudeの“栄誉”にあずかれるだろう。と言うことで、「優等(cum laude)で卒業」という表記は、結果的には人(=日本人)を大いに惑わすものなのだ…。某氏が著名な英語関係者だけに、こういう書き方は好ましくないと思う…。
【参考】YouTubeでWestern State College of Colorado (2009) の卒業式を見てみると、ここで問題としているcum laude 卒業生は43名まで画面で確認することができる(こちら)。また、magna cum laude の場合12人まで映し出されている(こちら)。最優秀とされるsumma cum laude の場合は14名まで映し出されている(こちら;3分辺りから)。
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cum laudeは「優等」か?(続)
“cum laude”を「優等で」と訳すことの曖昧さに関しては、上掲の記事で理解してもらえたものと思う。したがって、インターネット上の次のような使われ方もやはり人を惑わすものである。
1)1829年 ユトレヒト大学にて、詩編45編に関する学位論文が最優秀賞(cum laude)を得る 。
2)ビジネス・スクールでは成績優秀者に与えられるベーカー・スカラーを得て、ロー・スクールの場合は優等(cum laude)で卒業した、まさに秀才。
3)彼女は1981年に高校を卒業後、 プリンストン大学に入学。社会学を専攻し、アフリカ系アメリカ人研究を副専攻にした。1985年に、「優等(cum laude)」の成績で卒業し、学士(文系)の学位を得た。(ミシェル・オバマ フレッシュアイペディアより)
例1)の場合、ユトレヒト大学の評価方法に関しては不案内だが、cum laudeが「最優秀賞」ということはあり得ないだろう。完全な誤解だと思われる。例2)、例3)は私が昨日言及した曖昧さを抱えている。前者の例2)の場合、「まさに秀才」と書いているところから推測して、同文を書いた人はやはり完全な誤解をしているものと思われる。
海外の大学などにおける成績優秀卒業者の分類に馴染みのないほとんどの日本人にとって、「優等で」と書かれると、それを“日本式に”理解するしかないのだ。少なくとも英語関係者の経歴からはその曖昧性は消えて欲しいと思う…