美術の旅人 Voyageur sur l'art  

「美術」との多様な出会い。見たこと、感じたこと、思ったこと。

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コレクション再発見東北の作家たち・速水御舟と人物画の名品 〜7/17 宮城県美術館

2017-07-12 10:21:35 | レビュー/感想
この展示会のタイトルにもなっているところだが、どうして東北の作家はこんなにモダニズムが好きなのだろう、会場を回って一番最初に浮かんだのがそういう疑問だった。ネガティブな言い方をすれば、東北には、近世の京都や江戸のような分厚い文化的な遺産がないからと言えるかもしれない。そこが節操なく次々と時代の影響を受けて新しい流行に乗ってしまう、伊達というのが反語になるような、カッコ良さを気取る野暮ったさから抜けきれない理由かもしれない。良くも悪しくも坂口安吾が揶揄する伊達政宗の嫡子なのだ。しかし、そのモダニズムも東京のコピーで終わらずに、風土に沈潜して、近世以前の魂に結びつくとき極めて、オリジナリティの高いものになり得るかもしれない。私の中でそこまで行ってるなあと思わせる画家は、萬鉄五郎であり、杉村淳であり、宮城輝夫であり、村上善男であり、棟方志功であった。杉村淳の「春近き河岸」、いかに東北人として誇るべき画家であったかを物語る、ケレン味のない現代ではもはや見られなくなった骨格の確かな名品だと思う。この前に立つと現実の岸辺に佇むように五感が総動員される。
高山登の場合は、枕木の物質的力にバランスするアノニマスな内部的なパワーがないとできえない表現となっていた。物質とも交換経路を持つ日本的な魂に基づいた現代禅画が浮かび上がってくる。他に展示されていた現代美術についても言えるが、それらは海外では了解不能なのではないか。欧米現代美術の潮流や歴史に引き寄せて解釈することはまるで困難な、意外にもドメスチックなものなのだ。高山登のこの質実剛健な禁欲性はむしろ曹洞宗の影響が強い東北の侍文化の流れかもしれないなどと思って、なんとなく腑に落ちる。
ところで東北の風土を縄文の魂と単純に結びつけてしまうのは、躊躇するところもある。戦後間もなく岡本太郎が出会った具体的なモノに即した衝撃から離れて、縄文という言葉自体がコマーシャリズムの中で薄っぺらな手垢のついたイデオロギーになっているからだ。観光振興の道具ならそれでいい。しかし東北に住んで創作に携わる者であるならば、カテゴリー思考から離れて縄文とはなんだという疑問をいつまでも持ち続けている必要があるだろう。縄文という名の説明不能なヌミノーゼは、創作の持続的エネルギー足り得る。
最後に一階の展示場を覗いた。いつもの作品が並んでいると思ってざっと見るつもりが、すごい拾いものをした。速水御舟である。岡倉天心のイデオロギーの感化から生まれた優等生、菱田春草以来、明治以降意図的に作られた日本画には私は正直なじめない。綺麗だなあ、上手だなあと思うだけでそれ以上心の深いところには落ちない。それであまり熱心に見ないのが習い性になっていたのだが、速水御舟の未完の大作のコンテ(婦女群像下図)にまず「あれっ」と思った。久しぶりに向こうから来たのである。和服を着た女性のデッサンなのだが、着物の下の肉体の存在感が一気にではなくじわじわ迫ってくる。これはわれわれが現実にモノを見て感じるときの感覚と同じだ。これは頭の中で作られた立体感を高度な技術で置き換えたようなものではない。不思議なのである。どうしてこんな風に描けるのかわからない。単なるコンテなのに確かに重量を持った女性が今ここにに存在している。掛け軸の「寒鳩寒雀」も驚きの一枚だった。表面は日本画の体裁であり材料だが、デューラーのリアリズムや中国の南画の本質を岸田劉生も羨む天才的力量で会得して、それ以前の日本画では見たことのない存在感の表現となっている。
故坂崎乙郎氏が確か速水御舟について書いてたという記憶があって、帰宅してから早速探して見た。氏の日本画論をまとめた「絵を読む」の中に取り上げられていた。私は、そこで語られる「炎舞」を描き神秘・象徴主義の画家としてポピュラーな御舟はあまり好まない。すなわち劉生の「美が多少概念的」になっているというひかえめな批評に同意したい。そういう理想に捉われない段階の、むしろ上記のような下図や小品のようなさりげない作品に、日本でもない西洋でもないリアリズムを天性の力量で実現した御舟の方が好きだ。しかし、「炎舞」を実際に見ずしてそう言えるのか。この作品は御舟の「ひまわり」(ゴッホ)ではないかという読みもある。昨年開催の「速水御舟記念特別展」は見逃したが、その作品の多くを収める山種美術館には機会があったらぜひ行って確かめてみたいものだ。(上のコンテは今回の御舟の展示品ではない。写真が撮れなかったので代わりに入れた。しかしそのデッサンの非凡さは感じていただけるだろう)




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