lunas rotas

いつまでも、完成しないことばを紡いでいこう

まとまらないままの感想「文化と状況的学習」

2006-10-24 00:25:27 | Weblog
 先日発売になった「文化と状況的学習」を読んだ。状況論を面白い切り口で語っている。特に理論編の2つの論考は,状況論をbaseから語った理論ではなく,背景やネットワークを語ることで状況論を記述しており,まさにそれがネットワーク構築を主眼に据える状況論ならではだと感じた。しかし状況論の入門書にはなりそうもない。いや,考えてみれば,状況論にbaseも入門も何もないかもしれない。複雑に入り組んだり錯綜している実践こそが状況的学習なのだから。それ故,フィールドワーク編で描かれるのは,実践に埋め込まれた状況であり,そこに調査者自身も埋め込まれて研究・調査するさまなのだ。調査者もネットワークの中に存在している。
 柳町の「両者の組織化のされ方を詳しく観察し記述し,今までの母語話者評価の研究が一言で「評価」と片付けてしまっている実践とは一体どういう社会的事態なのか,その前提の部分に立ち戻って考察していくことではないだろうか」という部分には共感を覚えた。強烈なまでのヒエラルキーと規範のはびこる教室で,学習者は何を学ぶのだろう。実践から離れて何かを蓄積することはあっても,実践者とはならない。ユカタン半島の産婆のように「足をぶらぶらと下げ」るだけだ。
 もうひとつ,この本は状況論についての論考という面だけでなく,研究というのはどのようにしていくのかについても考えさせられるものだ。研究テーマを立て,それをどうクリアにしていくかという様がフィールドワーク編では見られ,興味深い。何もディスコース分析だけが研究方法ではないことが分かる。非言語部分のデータや当事者分析など(知識としてはそのようなものがあると分かってはいても,いざどうすればいいのか焦点化できないものを),ここに収められた論考では鮮やかに研究がなされていて惹きつけられた。そして印象深かったのは,ソーヤーが博士論文を書くにあたって味わった「言語研究」という枠と自分の研究分野とのことばにならないズレに対する葛藤。私自身の学位論文での研究は,何か大きく枠組みがズレたまましていたような気がしてならない。私の研究したいことは,自分が行った枠組みで分析されるべきものではなかったと感じている。かと言ってどうすれば良かったのか,皆目見当が付かない。まだまだ勉強不足。言語教育にとらわれることなく,研究の方法をもっと追究すべきだったのだろう。ソーヤーが状況的学習論や科学社会学に出会ったように・・・。しかしそれには時間がかかりそうだ。1年2年でできることではない。

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2 コメント

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ふむふむ (ヴァン)
2006-10-25 02:04:48
ekoさんが言った枠組みはどんな枠組みですか?”分析されるべきものではない”ものは一体どういうものかな~ 面白い!



”両者の組織化”の両者は母語話者と非母語話者の事ですか?前提っていうのはどんなことかな、もしかしてこれは学習者は状況や要素によって学習自体の効率の話かな?!



状況論という言葉を聞いたのは初めてだけど、それは多分”状況によって生み出された産物”についての事かな。自分は今まだ探しているのは脳研究における必要な統一のシステム論だから、なかなか”外”から考えるのは怖いです。なぜかというと、ある程度には、文化、社会、言葉、など色んな”現象”は、人間と現象自体から生み出されたのです。もし現象自体だけを集中したら、どんなテーマでも(せめて人間や生物)完全に応用や理解するにはいくつの難しいところがけるかもしれません自分はそう考えています。





なんかekoさんが使っている日本語は本の中に書かれている日本語より難しい漢字がするな…



あ! 感じ 、だった!



ダジャレでしたごめんなさ~~~~~~いw



 

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ヴァンさん、ありがと (ekoeko)
2006-10-25 08:14:55
ふむふむ、とコメントをいただき、ヴァンさんありがとう!脳システムについて脳で考えるってどんな感じ(“漢字”じゃない)なんでしょうね。状況論ってのも面白いですよ。すごく簡単に言ってしまえば、一方的に「先生」が教えることで学習なんて起こるんじゃなくて、状況によって学習が起こったり、何かの実践に参加していくことで学習がなされるというような考えのものです。

ヴァンさんの言う

> 文化、社会、言葉、など色んな”現象”は、

> 人間と現象自体から生み出されたのです。

には、とっても共感します。脳システムについて考えるときも、こういう理論が関係してくるんでしょうね。そういう分野の話も聞きたいですわ。

今度、ゆっくり話そう!
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