元・還暦社労士の「ぼちぼち日記」

還暦をずっと前に迎えた(元)社労士の新たな挑戦!ボチボチとせこせこせず確実に、人生の価値を見出そうとするものです。

地方公共団体の違法派遣受入(偽装請負)は当該労働者を直接雇用しなければならなくなる場合も!!

2016-01-16 18:17:54 | 社会保険労務士
 地方公共団体で協会・団体の職員に対し直接指揮命令をしていませんか。<偽装請負の恐れもあります>

 労働者派遣法の改正(H27.10.1施行分)の第40条の6については、企業については、大きな影響を受けると考えられていましたが、地方公共団体(都道府県・市町村等)もそれ以上に大きな影響を及ぼすかもしれません。というのも、地方公共団体にとっては、労働者派遣法という法律そのものが、いままで直接かかわってくることはあまりなかったようです。しかしながら、派遣法は、船員を除き、国家公務員・地方公務員を含めたあらゆる労働者、あらゆる事業に適用になります。ところが、あまり派遣労働者を使ったり、また逆に他の民間への派遣労働として派遣することはなかったようですので、いままで縁のない法律と思われていたようです。

 それが、この条文は、いわゆる派遣職員を使用するとかではなくて、「偽装請負」とみなされ実態は派遣と認められたときは、その請負業者の労働者を地方公共団体(都道府県・市町村等、以下「県市等」といいます。)で直接雇用しなければならない恐れが出てきたからです。「偽装請負」って何、違反行為はしていないといわれるかもしれませんが、まずは労働者派遣法第40条の6から順に説明して参ります。県市等において、本来、採用試験や面接を行い、厳正に採用していた職員について、この偽装請負をしたことによって、地方公共団体は試験採用を行うことなく、またなんら採用の意思がないのにかかわらず、その請負をしているところの、そこで働く労働者を直接に採用(強制採用)しなければならないことになりかねません。県市等においては、罰金を払うことならまだすぐにできるアクションですが、直接雇用しなければならないという地方公務員上どうかというような、こういった事態は是非とも避けなければなりません。

 派遣法第40条の6 労働者派遣の役務の提供を受ける者・・が、次の各号のいずれかに該当する行為を行った場合には、その時点において、当該労働者派遣の役務の提供を受ける者から当該労働者派遣に係る派遣労働者に対し、その時点における当該派遣労働者に係る労働条件と同一の労働条件を内容とする労働契約の申し込みをしたものとみなす。ただし、労働者派遣の役務の提供を受ける者が、その行った行為が次の各号のいずれかに該当することを知らず、かつ、知らなかったことにつき過失がなかったときは、この限りではない。
 1 派遣禁止業務への派遣受け入れ 2 無許可等の派遣元からの派遣受け入れ 2 派遣可能期間の制限を超えての派遣受け入れ 4いわゆる偽装請負に該当する場合

 派遣先が採用する意思があるかどうかにかかわらず、違法派遣を行った場合はそのペナルティとして、違法行為を行ったその時点をもって、派遣先から当該派遣労働者に対して、同じ労働条件で労働契約の申し込みがなされたものとみなされます。いわゆる「派遣先からの擬制の労働契約の申し込み」がされることになるのです。それに対して、派遣労働者が承諾の意思表示を1年以内にすれば、契約の理論に従って、申し込み・承諾という合意がなされたことになり、労働契約成立となります。その契約の成立により、派遣された労働者は、派遣元の労働者から、派遣先に直接、雇用された労働者ということになります。いままで、契約は合意のもとに成立するということでしたが、「擬制の申し込み」がなされるとはいえ、いや、実際は派遣先が申し込んでいないのに、派遣先との間で労働契約が成立するという、違法派遣のペナルティとはいえ、いわば強制的な、従来にない契約の根幹をゆるがすような規定となっております。

 さて、違法派遣とは、1、2、3、の派遣禁止業務への派遣受け入れ、無許可等の派遣元からの派遣受け入れ、派遣可能期間の制限を超えての派遣受け入れは、いずれも派遣を使用していなければ、全く関係ない条項ですので、違法派遣に問われることはありません。ところが、問題は4のいわゆる偽装請負に該当する場合ですが、実態は「派遣」なんですが、派遣の受け入れ側が派遣と認識していない場合が考えられます。

 この偽装請負とは規定によると、「労働者派遣法等の適用をまぬがれることを目的として、派遣契約を締結せずに派遣労働者を受け入れる」ことを言います。一般的な例としては、請負契約を結んでおき、請負事業の独立性に反して注文主が請負事業者に直接指揮命令する事例が該当します。その偽装請負として取り上げられた判例があります。
 『請負契約においては、請負人は注文者に対して仕事の完成義務を負うが、請負人に雇用されている労働者の具体的な作業の指揮命令はもっぱら請負人にゆだねられている。よって、請負人による労働者に対する指揮命令がなく、注文者がその場屋内(事業所・事務所内)において労働者に直接具体的な指揮命令をして作業を行わせているような場合には、たとい請負人と注文者との間において請負契約という法形式が採られていたとしても、これを請負契約と評価することはできない。そして、注文者と労働者との間に雇用契約が締結されていないのであれば、(請負人・注文者・労働者の)3者の関係は、(*1)労働者派遣に該当すると解すべきである。』(パナソニックプラズマディスプレイ事件 H21.12.18最高裁)

 県市等においては、○○協会や○○団体というようなものと同じ室内において仕事をしているようなことが見受けられます。当然仕事の内容は、県市等に関連する仕事ですし、同じ机を並べているわけですが、本来は県市等とは別の組織のはずです。そこで、県・市等の仕事をその協会・団体に委託(?)していても、本来は独立しているのですから、協会・団体そのものに対してその仕事についての説明をやるべきですが、同じ場所にいる関係上、日常的に指揮命令が直接そこの職員にしているというような場合が考えられます。すなわち、本来許可を受けて派遣業者(=派遣元)として行うべきなのに、許可を受けてない協会・団体から労働者を派遣してもらっていると考えられ、偽装請負となる恐れを生じます。上のパナソニックプラズマディスプレイ事件において、「注文者」を「県市等」、「請負人」を「協会・団体」、「請負人に雇用されている労働者」を「協会・団体に雇用されている労働者」と言い換えれば、同じ構図になっていることが分かります。本来は、協会・団体の職員ですから、指揮命令は協会・団体の上司が命令を下さなければならないところ、県市等から直接指揮命令が出されると、偽装請負の構図が生ずる恐れが生じます。

 国から「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準を定める告示」(昭61労告37号)が出されていますが、その要件をめぐっては議論があり、この偽装請負認定については、はっきりした区別が難しいところもあります。新たな設備の借り入れの初めての技術指導等は、本来の請負においても行うことは認められていますが、日常的に技術指導を行うことまでも認められているとは言い難くところでしょう。指揮命令と取られかねないことになり、偽装請負になる恐れもあるところでしょう。

 いずれにしても、県市等においては、協会・団体の業務とその指揮命令等について、整理をしておくべきでしょう。でないと、偽装請負と認識した労働者(=協会・団体の職員)がいた場合は、その時点で、県・市等からの労働契約の申し込みを受けたと労働者は捉え、承諾の申し込みをすれば、県市等と労働契約成立と捉えかねられません。そこで、県市等としても、その労働者の労働提供を拒絶をすれば、厚生労働省県労働局需給調整事業課がどうなのかを判断する(行政として、助言・指導・勧告等の所管、助言・指導・勧告等は法第40条の8)ことになりますし、労働者は直接裁判に訴えることもあり得ます。そうなれば、県市等としても、対応に追われますし、それだけの時間と労力の無駄となります。ちゃんと、疑問のないように整理しておくべきでしょう。
 ただし、国・地方公共団体が当事者となった場合は、違反行為の終了日から1年の猶予期間をもって、採用等の措置を講じるとされているところであり、地方公務員法等の関係ですぐに採用はできないことなどの関係でしょうか、1年の猶予期間が設けられています。(法40条の7)

 *労働者派遣とは、自己の雇用する労働者を当該雇用関係の下に、かつ、他人の指揮命令を受けて、当該他人のために労働に従事させることを言います。一般の労働者は、雇用主と働く職場の主(=使用者)が同じですが、派遣労働者は雇用主と使用者が違い、働く場所が雇用主ではなく別の使用者ために、使用者の職場で働くことになります。いわゆる、「雇用」と「使用」の分離がなされます。

参考;雇用法改正 日本経済新聞出版 安西愈著

コメント    この記事についてブログを書く
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 有期の黙示の労働契約更新は... | トップ | 遺言で特定の人へ多めの財産... »

コメントを投稿

社会保険労務士」カテゴリの最新記事