わくわく CINEMA PARADISE 映画評論家・高澤瑛一のシネマ・エッセイ

半世紀余りの映画体験をふまえて、映画の新作や名作について硬派のエッセイをお届けいたします。

3:11から1年後のメモワール「JAPAN IN A DAY〔ジャパン イン ア デイ〕」

2012-11-28 19:00:28 | 映画の最新情報(新作紹介 他)

8 リドリー・スコット監督はイギリス出身、「エイリアン」「グラディエーター」などで映画界での地位を確立した。2010年、彼と弟のトニー・スコットは「あなたの日常の1コマを撮影して送ってください」と呼びかけ、世界中から投稿された動画をもとに「LIFE IN A DAY 地球上のある一日の物語」を作り上げた。いわゆるソーシャル・ネットワーク・ムービーの誕生だ。そのあと三度この方法に挑んだのが、スコット製作総指揮、フジテレビとの共同プロジェクト「JAPAN IN A DAY〔ジャパン イン ア デイ〕」(11月3日公開)です。東日本大震災から1年後の2012年3月11日の24時間、人々がどう過ごしたかを記録した作品である。結果、日本を中心に12か国から8000本の動画が集まったという。
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 イギリスと日本の合作で、監督はフィリップ・マーティンと、フジテレビ所属の成田岳。2012年3月11日(日)。早暁まで都会で酒や音楽に興じる日本の若者たち、カメラをみつめる赤ん坊、自転車に相乗りする父子家庭の親子の対話などから始まり、家族を亡くした仮設住宅の男性、土台しかなくなった家で畑を作る女性、反原発デモ、そして14時46分の黙とう、日本に住み続ける外国人らの姿をパッチワークのようにつないでいく。そこには、被災地の人々の活力と、その他の地区との精神的落差が混在し、すべてが赤ん坊や家族の絆、鎮魂のイメージで、ハートウォーミングに穏やかにまとめ上げられている。
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 しかし全体的に見ると、300時間分集まったといわれる動画が、リドリー・スコットはじめ製作スタッフの思惑や、撮影側の作為に動かされているような感じは否めない。「投稿映像によるソーシャル・ネットワーク・ムービーというアイデアは革新的で、人類の新たなコミュニケーションのあり方を変化させ得るもの」(プロデューサー:早川敬之)、「スクリーンを通じて贈る日本人へのラブ・レター」(リドリー・スコット)。とは言うけれど、膨大な投稿画像は、まずふるいにかけられ、スタッフの意図のもとに編集される。そんな構図が見え見えなのが、子供のシーンを多用して、新しい生命の誕生で終わる製作方法です。
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 映画の宣伝文には「2012年3月11日。つながったのは人々の想い」とか、「日常を生きる人々の姿に、どうしてこんなにも心が動かされるのだろう」とある。そして、全体の雰囲気は“希望にあふれた”ハッピームード。その枠の中に収められたソーシャル・ネットワーク・ムービーなのだ。見たあと感じるのは「日本人は、そんなに一緒の思いを共有していないよ!」ということ。大震災の復興作業は進んでいないし、仮設住宅の人々の苦しみは続き、原発再稼働の動きも進行中。つまり本作には、庶民のパワーや怒りが余り表に出てこない。ただ鎮魂をうたえば済むというものではないだろうに…。(★★★+★半分)


極道+介護ヘルパー・草彅剛のキャラに感動「任侠ヘルパー」

2012-11-24 17:57:53 | 映画の最新情報(新作紹介 他)

21 西谷弘監督、池上純哉脚本の「任侠ヘルパー」(11月17日公開)は、切り口が斬新で面白い。なにより、極道+老人介護問題という一見相反する要素を絡ませたアイデアがグッド。そして、草彅剛演じる若き極道・翼彦一のキャラクターがバツグンだ。ヤクザの元組長で、介護施設でヘルパーとして働いていた過去を持つ。彼が堅気になろうとして、コンビニ店員をしていたところ、元組員の老人・蔦井(堺正章)が強盗に入り、その余波で彦一も刑務所行きに。出所した彼は、店員仲間の成次(風間俊介)と港町に行き、暴力団・極鵬会に身を預ける。その組織のシノギの一つが老人介護施設の運営。闇金で破産した老人たちを介護施設に入れ、生活保護や年金をせしめる。彦一は、その仕事に就かされる。
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 暴力団と介護施設の結びつきは、あり得ないことではない。これに、観光福祉都市宣言プロジェクトを提唱する、坊っちゃん育ちの市議会議員で弁護士の八代(香川照之)が絡む。彦一にとって、老人たちへの憐みや、自身の更生への願いはない。彼は、あくまで極道のスタンスを保ちつつ自分の筋を貫く。そのためならば、暴力団にぶちのめされても、議員と対立しても己を曲げない。悪臭漂う最悪の施設を改修する際、彦一は入居者に言う。「お前たちも、自分のために働け」と。結局、それが寝たきり同然の老人たちに生気を取り戻す機会を与える。このあたりの陰陽を巧みに使い分ける、草彅の演技がみごとである。
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 その他、リアルな設定が多い。蔦井の娘・葉子(安田成美)の認知症の母は特別養護老人ホームに入るが、手間がかかりすぎると追い出され、彦一の施設に移って気力を取り戻す。議員の八代は、貧困ビジネスを目の敵にして彦一の施設を潰そうとする。また、極鵬会の組長(宇崎竜童)や若頭(杉本哲太)らは、老人から搾り取ることだけしか頭にない。こうしたことは、現実にありそうな話だ。映画は、センチメンタルな要素を排除し、日常の人間の姿をシビアにとらえる。なにより彦一をめぐる夢物語に堕していない点がいい。ただし、彦一が窮状に面した際、昔の仲間(黒木メイサ)が突然駆けつけるくだりが唐突だ。TVシリーズは見ていないし、見るつもりもないが、この辺のディテールの省略が残念。
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 私事で恐縮だが、6年前、母が93歳で死亡した。それまで10年間ほど、埼玉県の老人介護施設で過ごした。最初は当方の自宅近辺のケアハウス、二度目は沿線ぞいの介護施設。入居一時金も月額利用料も安くはない。それが双方とも追い出された。理由は「手間がかかる。他の入居者に迷惑がかかる」。確かに母は超ワガママだったが、しばしばデイケア施設や病院に追いやられた。そして最後は、余り構われることなく老人病棟で死んだ。起業で乱立する介護施設の弊害である。葉子の母のケースを見ていると、つい身につまされる。こんな施設に対しては、任侠ヘルパー・彦一の一喝が必要なのではないかな?(★★★★)


舞台は北の離島、吉永小百合の話題作「北のカナリアたち」

2012-11-21 19:20:32 | 映画の最新情報(新作紹介 他)

6 吉永小百合の作品では、「キューポラのある街」(62年)、「泥だらけの純情」(63年)、「愛と死をみつめて」(64年)など日活時代のものが印象に残っている。逆境に立ち向かう、けなげな青春像。以来半世紀、彼女ほど容貌もキャラクターもほとんど変わらない女優は珍しい。別にサユリストではないけれど、彼女の話題作「北のカナリアたち」(11月3日公開)を見てきました。原案は、湊かなえの「往復書簡」に収録された「二十年後の宿題」。監督は「顔」「大鹿村騒動記」の阪本順治。撮影は「剱岳 点の記」で監督をつとめた名カメラマン・木村大作。ロケ地は、稚内、サロベツ、利尻島、礼文島ということで期待大でした。
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 吉永が演じるのは、北海道の離島に赴任した小学校教師・川島はる。彼女は、小さな分校の生徒6人の歌の才能に気付き、合唱を指導することで彼らの未来を照らす。だが、心に傷を抱えた警察官・阿部(仲村トオル)との感情の交流、生徒の事故と夫・行夫(柴田恭兵)の死によって追われるように島を出て行く。20年後、東京で暮らす彼女のもとに、教え子の一人が起こした殺人事件の知らせが届く。そしてはるは、真相を知るべく、かつての教え子と再会するため北へ向かう。彼女が、成長した生徒たち(森山未來、満島ひかり、勝地涼、宮﨑あおい、小池栄子、松田龍平)のもとを訪ねるくだりがポイントになる。
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 北の大地を舞台にした、生と死、人間が背負う業、愛と殺人のドラマ…。テーマは面白いのだが、全体にメロドラマ・タッチで、本来にじみ出るはずの深く暗い情念に欠けた作品になっています。特に、はると病を抱えた行夫夫妻の微妙な関係、はると阿部の愛情関係の細部が不明瞭で、これでは肝心のドラマのヘソが絶たれたといってもいい。それに、過去と現在のフラッシュバックが多すぎて説明過多。成長した生徒たちのキャラも軽い。殺人犯を演じる森山未來を除いて、ご贔屓の満島ひかりや松田龍平の茫洋とした表現に不満が残ります。いわば、脚本(那須真知子)が緻密さに欠けているということでしょう。
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 取り柄は、礼文島に建てられた分校から望む雄大な利尻富士や、厳寒の北の風景をとらえた木村大作の見事なカメラアイ。映画のタイトルは、生徒たちが歌う「かなりや」(西條八十作詞、成田為三作曲)から採られたのだろうが、「歌を忘れたカナリア♪…」は、登場人物が抱える時の流れの欠落にも通じます。はると生徒たちが、エゾカンゾウ群生地で歌う過去の場面、事件が明らかになった際に成人した彼らが思い出の教室で歌うくだり。これらのシーンを見ていると、木下惠介監督の名作「二十四の瞳」(1954年)を思い出す。そのサスペンス版(?)としても、中途半端な出来になったと思います。(★★★+★半分)


井筒監督、フィルム・ノワールの成果は?「黄金を抱いて翔べ」

2012-11-16 18:32:59 | 映画の最新情報(新作紹介 他)

3 髙村薫のデビュー作で、ベストセラーになった犯罪小説「黄金を抱いて翔べ」が映画化されました(11月3日公開)。監督・脚本(共同)は、「パッチギ!」(05年)、「ヒーローショー」(10年)などで切れ味鋭いエネルギッシュな演出ぶりを見せた井筒和幸。大阪に本店を置くメガバンクの地下に眠る240億円相当の金塊強奪を企てる6人の男たちの挑戦を描く。彼らは、それぞれ心の奥に闇を抱えており、複雑に過去が絡み合い、強奪作戦に影を落とす。そのキャラクターの交錯が、映画最大の見どころになっている。
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 犯行の中心になる実行犯は、過激派や犯罪者相手の調達屋をしてきた幸田(妻夫木聡)。リーダーは、彼の大学時代の友人である北川(浅野忠信)。二人を中心に集まったのは、爆破工作専門で元北朝鮮のスパイ・モモ(チャンミン)、銀行担当のシステムエンジニア・野田(桐谷健太)、チームの相談役で謎の男・ジイちゃん(西田敏行)、北川の弟でギャンブル依存症の春樹(溝端淳平)。これに、大阪の裏社会の男(青木崇高)、過激派同盟の幹部(田口トモロヲ)、モモを追う謎の人物(鶴見辰吾)、北川の妻(中村ゆり)らが絡む。
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 つまり、金塊強奪作戦に、元北朝鮮のスパイで裏切り者として追われる男や、過去に幸田がかかわった過激派、情報を公安に流している二重スパイといった闇社会の要素が加わってくるのだ。だが、各キャラクター、展開、プロットに不明な部分が多く、仲間内のジョークに彩られたような内容で、スリルやサスペンスの切れ味が鈍い。加えて、出演者の個性が弱く、いつしか誰が誰だが区別がつかなくなる。東方神起のチャンミンが演じる元北朝鮮のスパイや、暗い過去を持つ幸田のプロフィールも、もって回った描写で新味が感じられない。つまりは、全体的に茫洋としたフィルム・ノワールになってしまった。
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 井筒監督は、「反逆と反骨の人生を求める男たち」「寄る辺なき孤独や息苦しさを感じる男たち」「孤高を生き続ける男たちの冒険と快哉」「この日本版フィルム・ノワールの持つ、愉快で豪快で、そして哀れな世界観を感じ取ってほしい」とコメントしている。だが本作には、「パッチギ!」や「ヒーローショー」で見せたストレートな感情の奔流が感じられない。どちらかというと、TVバラエティー的な犯罪ショーといったらいいだろうか。文字通り“黄金を抱いて翔ぶ?”結末などはアナログ過ぎて、かえってビックリ!です。(★★★)

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連載記事「昭和と映画」

今回のテーマは「豪華絢爛!ハリウッド・ミュージカル


人生の終焉をどう迎えるか?「みんなで一緒に暮らしたら」

2012-11-10 18:06:56 | 映画の最新情報(新作紹介 他)

Photo ジェーン・フォンダは、1970年代に反戦・反体制・ウーマンリブの闘士として名を馳せた社会派女優です。1979年には、すでに原発事故をテーマにした「チャイナ・シンドローム」にも出演している。もうすぐ75歳になる彼女が、死ぬまでにしたい事柄(バケツ・リスト)だった「もう一本、フランス映画に出演したい」という願いが40年ぶりにかなった作品が、フランスの俊英ステファン・ロブラン監督の「みんなで一緒に暮らしたら」(11月3日公開)です。テーマは高齢化社会の問題。老いや病、ボケ、死に直面した平均年齢75歳の男女の友人たちが「人生のエンディングをどう迎えるか?」を、行動で示します。
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 舞台はパリ郊外。昔から誕生日をともに祝ってきた5人の友人たち。アルベール(ピエール・リシャール)とジャンヌ(ジェーン・フォンダ)夫妻。ジャン(ギイ・ブドス)とアニー(ジェラルディン・チャップリン)夫妻。そして一人暮らしのクロード(クロード・リッシュ)。彼らには、年を重ねるごとに悩みが増えてくる。自分の病が進行していることを知ったジャンヌは、人生の最期をどう過ごすかを考える。あるとき、デート中に発作で倒れたクロードが、息子に強制的に老人ホームに入れられるという事件が発生。その窮地を救うため、ジャンヌらは共同生活を始めようと考える。彼らは、早速ドイツ人青年ディルク(ダニエル・ブリュール)を世話係に雇い、アニーの一軒家に引っ越してくる…。
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 監督・脚本を手がけたステファン・ロブランが、自らの祖父母らにアイデアを得て、5年がかりで企画を実現したという。そして、高齢を迎えた人々の悩みや危機を温かく見つめる。シリアスなテーマを、笑いと涙とほろ苦さをもってつづる手法がユニークだ。日記と愛犬の散歩が日課で、ボケ気味のアルベール。いまも活力を失わないジャンヌ。口うるさくワガママで、共同生活には反対のアニー。高齢を理由にNPO活動を拒否されて立腹のジャン。若い女性が大好きなクロード。彼らの生態を見つめ、老人問題を研究することにした学生のディルク。齢を積み重ねた人々の「人生で、友情がいちばん大切…」という主張を軸に、彼らの家族もひっくるめた愛、友情、怒りがユーモラスなタッチで描かれます。
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 加えて、なによりも惹きつけられるのが、監督の言う「熟年層の性の問題」です。独身の元カメラマン、クロードは、心臓発作を起こしながらも、若い女性との色事を繰り返すゼツリン男。かつて、彼とジャンヌやアニーとの間にも、何かあったらしい。本作では、老人のセックスが、ややあからさまに描写されるが、ジェーン・フォンダは「なにより重要なのは性的刺激」と語る。そういえば、仲間同士で共同生活をするという考え方は、すべてを共有しようとした1960~70年代のヒッピー族を彷彿させます。友人といっても他人同士、ともに生活することになれば、いろいろな軋轢も出てくるだろう。でも、究極の共有思想で結ばれれば、高齢化社会の一つの帰結・結論になるかも知れません。(★★★★)

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栃木県の那須湯本で

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