わくわく CINEMA PARADISE 映画評論家・高澤瑛一のシネマ・エッセイ

半世紀余りの映画体験をふまえて、映画の新作や名作について硬派のエッセイをお届けいたします。

東野圭吾のベストセラーの映画化「白夜行」

2011-01-30 18:20:24 | 映画の最新情報(新作紹介 他)

Img391 東野圭吾のベストセラー・ミステリー「白夜行」が映画化されました(1月29日公開)。この小説は、05年に舞台化、06年にはTBS系で連続ドラマ化、09年には韓国で映画化されている。いわば、3度目の映像化になるわけだ。累計200万部を売り上げたという原作はもとより、これだけ視覚化もされていれば、日本での映画化に当たってはネタばれは当然。それを承知で、どう見せるかが今回の焦点になる。監督・脚本(共同)を手がけた深川栄洋は、「愛された経験のない(主人公)二人が、これまでどんな道を歩み、二人に愛情を注ごうとした人々が、どういう末路を迎えたか、を見せている。映画が、見た人の心の中で、どんな化学反応を起こすのか、そこに興味があります」と語っている。
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 昭和55年(1980)、廃ビルの密室で質屋の店主が殺害される。事件は、被疑者死亡によって一応決着する。だが、担当刑事・笹垣(船越英一郎)だけは腑に落ちない。容疑者の娘で美少女の雪穂と、被害者の息子で暗い目をした少年・亮司の姿が忘れられないのだ。やがて、成長した雪穂(堀北真希)と亮司(高良健吾)の周辺で、不可解な事件が立て続けに起こる…。ドラマは、昭和から平成にかけての19年間、笹垣の目を通して事件の陰にひそむ雪穂と亮司の人生の推移を、過去と現在を結びながら追っていく。ここでは、暗い過去を秘めた若い二人の心理描写が見どころになる。だけど、堀北真希は綺麗すぎ、洗練されすぎていて、高良健吾は妙に陰にこもって、よく噛み合っていないような気がします。
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「精神的にきつい(撮影)現場でした。毎日、これ以上ないような精神状態で、現場に行きたくないと、ずっと思っていた」と、高良は言う。そんな重圧が、演技に出てしまったのかな。それよりも、醜悪な大人の世界で絶望的な少年・少女時代を送った雪穂と亮司を演じる子役たちの演技が切ない。余りにも重過ぎる宿命を負った幼い魂たち。深川監督は、撮影時33歳。PFFアワードに入選して注目され、09年の「60歳のラブレター」では、若いのにシニア世代の男女の愛を巧みに描きわけた。だが、その後の「半分の月がのぼる空」(10年)は、やや中途半端。透明感のある映像は素晴らしいが、人間心理への踏み込みがイマイチ。「白夜行」は、物語の牽引力には引き込まれるけれど、やはりちょっと物足りない。以後、「洋菓子店コアンドル」「神様のカルテ」などが公開。日本映画のニューウエーブ・深川監督、メジャーの中で才能を擦り切れさせることなく頑張ってほしいものです。


木村祐一監督の人生賛歌「ワラライフ!!」

2011-01-26 18:53:41 | 映画の最新情報(新作紹介 他)

Img390 芸人、構成作家、料理人、俳優と、さまざまな顔を持つ木村祐一の映画監督2作目が「ワラライフ!!」(1月29日公開)です。タイトルは“What a Wonderful Life !!”を縮めたもの(?)だとか。木村監督が、幼少のころの思い出から現在に至るまでの自身の体験をもとに、さまざまな出来事を掘り起こして作られた作品だそうだ。現在の生活と過去の記憶を組み合わせながら、家族の日常生活を積み重ねて描くというスタイルをとっています。
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 主人公は、東京でひとり暮らしをしている青年・修一(村上純)。彼は、恋人まり(香椎由宇)との結婚に向けて、ふたりで暮らす部屋を探している。ある日、訪れた不動産屋で応対に出たのは、小学校で同級生だった弘之(高岡蒼甫)。十数年ぶりの再会だが、子供のころのある事件のせいで気まずい思い出が残っている。そのころ、修一の両親の肇(吉川晃司)と慶子(鈴木杏樹)も引っ越すことになる。修一は、荷物が運び出される実家を眺めながら、明るく、にぎやかだった家族との過去の日々を思い起こしていく。
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 ほとんどストーリー性はなく、ホームドラマとしても余り葛藤はない。生活のディテールを丁寧に描写していく演出が見どころだ。「こだわったのは生活環境というか、家のたたずまい。家にある家財道具。冷蔵庫だったり、洗濯機だったり、車、その辺の加減ですね。金持ち過ぎず、いわゆる中流という表現をする美術や衣装です」と、木村監督は言う。そして、家族で行った海へのドライブ、ゲームのルールで争った弟とのケンカ、姉(田畑智子)とともにごまかして貯めたお年玉、ほのかな憧れを抱いた隣のきれいなお姉さん、バイクを盗んで追いかけられた警官のこと、などなどのエピソードがつづられる。
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 映画の全体の流れは、日常的なリアリズムの手法ではなく、ノスタルジックで感傷的な、作られた日常。キャストたちは、きわめて自然なやりとりをするけれども、登場人物はみ~んな良い人ばかり。それは、「日々生きている中で、だんだん“ありがとう”という気持ちが芽生えてくるんです」と語る木村監督のキャラクターのせいだろう。彼は、08年の「ニセ札」で映画監督デビュー。実際に起きた事件を題材にして、人間の欲望をコミカルなタッチで描いた。より毒があった、という意味では、デビュー作のほうが印象に残ります。


園子温の猛毒ブラック・コメディー「冷たい熱帯魚」

2011-01-23 18:44:22 | 映画の最新情報(新作紹介 他)

Img389「愛のむきだし」(09年)で話題を呼んだ園子温(その・しおん)監督の新作が「冷たい熱帯魚」(1月29日公開)です。前者が究極の愛のせめぎあいを描いた作品だとすれば、今回は究極の人間不信と暴力をテーマにした衝撃作。ドラマの主要素は、家族の崩壊、打算的な人間関係、人間の肉体に対する絶対的な暴力、即物的なセックス、次世代に対する不信、といったところだろうか。主人公は、小さな熱帯魚店を営む社本(吹越満)。彼の家庭は崩壊寸前だ。妻の妙子(神楽坂恵)が、冒頭、ふてくされた態度でレトルト食品を用いた食事を用意するシーンが、すべてを物語る。そして、この継母を嫌う社本の娘・美津子(梶原ひかり)は超反抗的で、スーパーで万引きまでやってのける。
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 そこにつけこむのが、巨大熱帯魚店のオーナーである村田(でんでん)だ。彼は、稀代の悪党で、美津子を店員として雇い、妙子を誘惑する。更に社本は、村田の悪徳商法に巻き込まれる。村田は、妻の愛子(黒沢あすか)らと共謀して、高級魚のビジネス話を持ちかけては、融資者を殺害していたのだ。この、でんでんと黒沢あすか(ともに好演!)が演じる夫婦の悪逆行為がすさまじい。犠牲者の遺体を山奥の古小屋に持ち込み、慣れた手つきで風呂場で死体の解体作業を行うのだ。小屋の中は、マリア像や十字架、ロウソクの灯りで飾られている。この異様な雰囲気は「愛のむきだし」でもおなじみだ。臆病な社本は妻子を村田の人質に取られた形で、やむなく彼のバラバラ殺人に加担することになる…。
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 この作品は、監督の実体験と、埼玉の愛犬家殺人事件や、その他の事件にインスパイアされて生み出されたものだとか。徹底した人間不信を、絶対的な暴力で暴き立てる。現代の不毛な状況の中で、肉体への加虐が正当化され、論理化される過程が、圧倒的なパワーで展開されていく。主人公の社本が、やがて暴力に傾斜し、周囲を制圧していくくだりが凄まじい。こうした暴力と死の世界が、ダーク・ファンタジーとして、また悲喜劇としてとらえられる点が、園ワールドの特色だろうか。薄暗い店内で熱帯魚の水槽を照らす照明の不気味さ。「愛のむきだし」で男女を追いつめていく新興宗教を思い出させる村田の邪悪さ。得体の知れない薄気味悪さを発散させる社本の娘。暴力や相互不信で何が解決できるのか、と思いながらも、登場する人物の奇妙なリアリティーに引き込まれてしまいます。


韓流女優キム・ユンジンの感動作「ハーモニー/心をつなぐ歌」

2011-01-21 18:34:58 | 映画の最新情報(新作紹介 他)

Img393 キム・ユンジンは、アメリカに本拠を置く韓流の演技派女優です。99年のヒット作「シュリ」では悲劇のヒロインを演じ、米ドラマ「LOST」(シーズン1~6)でも話題になった。彼女が、「セブンデイズ」以来3年ぶりに主演した韓国映画が「ハーモニー/心をつなぐ歌」(1月22日公開)だ。韓国で唯一の女子刑務所・チョンジュ(清州)女子刑務所の合唱団をモデルにした作品。ユンジンは、お腹にいる赤ん坊を夫の暴力から守ろうとして、夫を死に追いやり、懲役10年の刑を受けた受刑者ジョンヘを演じる。ジョンへは、刑務所内で息子を出産。だが現行法により、生後18か月になると子供を手放さなくてはならない。このことが、ドラマのキーポイントのひとつになる。
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 ジョンへの同房の女性は4人。夫と浮気相手を殺害したため死刑宣告を受けた元音大教授のムノク(ナ・ムニ)。その他、詐欺罪を犯した元クラブ歌手、コーチの首をへし折った元プロレスラー、性的暴行を加えようとした義父を死に至らしめて、入房してきたばかりのユミ(カン・イェウォン)。彼女らのキャラクターを巧みに描きわける導入部がみごと。ジョンへは、刑務所内の融和と受刑者の心を癒すために、合唱団の結成を提案して許可される。期限は6か月。自らはひどい音痴のジョンヘが音頭を取って、紆余曲折の末にムノクの指揮、新任刑務官(イ・ダヒ)のピアノ演奏で、合唱団が設立される。そして4年後、クリスマスイブにソウルで開かれた全国合唱大会に出演、感動の幕切れを迎える…。
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 実話に基づいたこの作品の監督・脚本を手がけたのは、「デュエリスト」や「TSUNAMI-ツナミ-」の助監督をつとめたカン・テギュで、今回が長編監督デビューになる。丁寧な演出とカット割りで、受刑者たちの心理の綾や、合唱団の成立までを描く手腕は新人離れをしている。とりわけ、受刑者と肉親たちの愛や相克を点描しながら、女性たちが罪を犯して収監された裏事情―彼女たちにとっての過酷な社会環境を浮きぼりにする語り口に引き込まれる。キム・ユンジンは、いままでのクールな雰囲気とはひと味ちがって、明るくコミカルな面も見せる。だが、なんといっても、ジョンヘが生後18か月の息子を養子に出さざるを得なくなるくだりは、涙なくして見られない。
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 また、合唱団が歌うコーラス曲のかずかずが聴きどころ。グリーグの「ソルヴェイグの歌」、日本では「あなたなしでは」の題名でカバーされている70年代のヒット曲「エレス・トゥ」、そしてアイルランド民謡「ダニー・ボーイ」、人気の男性シンガー、イ・ムンセの89年の曲「この世界を生きてみれば」などなど。本編でのコーラスは吹き替えだが、ジョンへの同房の受刑者を演じるチョン・スヨンとパク・ジュンミョンはミュージカル界のスターであり、彼女らがコーチ役をつとめたという。ある意味では類型的なドラマ設定だけれども、緻密な脚本と演出があり、加えて人間性と社会性を十分に反映させた内容であれば、素晴らしい映画が出来上がる、ということの証明のような秀作です。


ジェラルド・バトラーのネオ・ノワール「完全なる報復」

2011-01-17 17:55:51 | 映画の最新情報(新作紹介 他)

Img387「オペラ座の怪人」「300<スリーハンドレッド>」などの肉体派スター、ジェラルド・バトラーが、はじめてプロデューサーと主演を兼任した作品が「完全なる報復」(1月22日公開)です。彼自身が設立した製作会社イーブルツインズの第1回作品にあたるクライム・サスペンスだ。バトラーが演じるのは、米・フィラデルフィアの模範的な市民クライド。あるとき彼は、自宅に乱入してきた二人組強盗に腹部を刺され、最愛の妻と幼い娘を惨殺される。だが、事件を担当したエリート検事ニック(ジェイミー・フォックス)は、主犯格の男に極刑を求めず、司法取引を行い、わずか数年の禁固刑による有罪を宣告。姿をくらましたクライドは、10年後に犯人や司法関係者に対して、すさまじい復讐を開始する…。
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 映画の重要なモチーフになる司法取引とは、検察が被告に捜査協力させる見返りとして、量刑の軽減や罪状の取り下げをすること。この作品に登場するニックは、法律に基づく正義を絶対視し、“有罪率96%の男”という異名を持つ敏腕検事。法律に欠陥があることも熟知しているため、道徳的ジレンマを感じながらもクライドの恨みを買う司法取引を進める。いわば、アメリカの司法制度が抱える矛盾を突いた作品だ。犯人の片割れは、死刑に際して注入された異種の薬物で苦しみ悶えながら事切れ、出所した主犯はバラバラ死体となって発見される。いつの間にか危険なパワーを身につけたクライドは、その後、刑務所に収容されたにもかかわらず、弁護士や判事、司法省職員を狙った大量殺人を企てる。
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 監督は、「交渉人」「ミニミニ大作戦」などのF・ゲイリー・グレイ。一人の男が、檻の中から都市全体を人質に取るというアイデアを発展させて、社会的な主題をエンターテインメントに仕上げてみせた。プロデューサーの一人、ルーカス・フォスターは、「われわれは、この映画の外観を“ネオ・ノワール”と呼んでいる」と語る。当初、製作陣は、ジェラルド・バトラーが地方検事ニックを演じることを想定して企画に取り組んだとか。だが、バトラーの心境に変化が生じて、クライドが抱く心の痛みに魅せられていったという。ドラマ展開に、やや無理な設定があるけれども、処刑人クライドと司法側との力まかせの激突がみどころ。そういえば日本でも、先ごろ検察の独断と背信行為が話題になりましたね。

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寒風に漂う香り…


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