わくわく CINEMA PARADISE 映画評論家・高澤瑛一のシネマ・エッセイ

半世紀余りの映画体験をふまえて、映画の新作や名作について硬派のエッセイをお届けいたします。

ビンラディンを追い詰めたCIA女性分析官「ゼロ・ダーク・サーティ」

2013-02-19 18:23:40 | 映画の最新情報(新作紹介 他)

37 キャスリン・ビグローは、「ハート・ロッカー」(08年)で米アカデミー賞9部門にノミネート、作品・脚本をはじめ6部門で受賞、女性監督として史上初の監督賞を得た。イラク・バグダッドを舞台に米軍・爆発物処理班の奮闘をドキュメンタリー・タッチでとらえた作品。しかし、作品の底に漂う米軍礼賛の語り口に疑問が残った。一体、米軍は他国で何をしているのか?と。そのビグローが発表した新作が「ゼロ・ダーク・サーティ」(2月15日公開)です。CIA女性情報分析官が、米同時多発テロの首謀者と目されたアルカイダの最高指導者オサマ・ビンラディンを追い詰めていく過程を再現した実録映画である。
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 20代半ばのCIA情報分析官マヤ(ジェシカ・チャステイン)は、ビンラディン捜索に巨額の予算をつぎ込みながら、一向に手掛かりをつかめない捜索チームに抜擢される。だが捜査は困難を極め、その間も世界中でアルカイダによって多くの血が流される。ある時、仕事への情熱で結ばれていた同僚が自爆テロに巻き込まれて死ぬ。その際、マヤの中の何かが一線を超える。彼女は、使命ではなく狂気をはらんだ執念で、ターゲットの居場所を絞り込んでいく。そして、ついにパキスタン郊外にあるビンラディンの隠れ家を突きとめ、2011年5月1日、完全武装のネイビーシールズが踏み込んで、宿敵を暗殺する…。
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 時代背景は、マヤがパキスタン・イスラマバードのCIA秘密施設に到着する2003年から、ネイビーシールズによってビンラディンの隠れ家突入が行われた2011年まで。ビンラディンに関する情報を引き出すために行われる拷問。敵方の連絡員の捜索。アルカイダの幹部による自爆テロ。苦難の末につきとめたビンラディンの潜伏先。映画は、心身ともにボロボロになりながら執念を燃やすマヤの捜索過程を、事実の丹念な積み重ねによってドキュメント・タッチでとらえていく。ビグローの演出はスリリングで見ていて飽きないけれども、ビンラディン=アルカイダ側の人間関係など、細部が込み入って不明な点もある。
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 映画のタイトルの意味は、(2011年5月1日)午前0時30分を意味する軍の専門用語で、ビンラディンの潜伏先にネイビーシールズが踏み込んだ時刻のことだそうだ。アメリカ側がビンラディン捜索に用いるのは、無人偵察機、ステルス型ヘリコプター、そして数知れない電子機器。うがった見方をすれば、そこには感慨も感動もない。自らの陣営の矛盾を突きながらも、やはりビグローの語り口に垣間見えるのは、愛国精神礼賛。いくらビンラディンを追い詰めることを口実にしても、所詮アメリカによる他国への侵入と、一方的な制裁であることに変わりはない。近く開催される米アカデミー賞では、作品賞など5部門でノミネートされているが、果たして結果はどうなるでしょうか。(★★★+★半分)


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