わくわく CINEMA PARADISE 映画評論家・高澤瑛一のシネマ・エッセイ

半世紀余りの映画体験をふまえて、映画の新作や名作について硬派のエッセイをお届けいたします。

戦場に咲いた愛と感動のドラマ「戦場のメロディ」

2016-11-02 13:58:18 | 映画の最新情報(新作紹介 他)

 1950年代初頭、朝鮮戦争当時、戦争孤児たちが10万人いたといいます。その孤児たちの中から生まれたソルリン児童合唱団の実話を素材にした作品が、イ・ハン監督の韓国映画「戦場のメロディ」(10月29日公開)です。主演は、アイドルグループ“ZE:A”のメンバーで、近日公開の「弁護人」などで俳優としても高い評価を受けているイム・シワン。ピアノ演奏や指揮者役にも初挑戦、過酷な戦闘アクションから繊細な感情表現まで、深みを増した演技力で魅了する。児童合唱団には約30人の子役がオーディションで選ばれ、4か月間におよぶ特訓で身につけた美しいコーラスを披露。このハーモニーが奇跡を呼び起こす。
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 朝鮮戦争真っ只中の1952年。愛する家族も大切な戦友も失ったハン・サンヨル少尉(イム・シワン)は、失意のまま最前線から釜山に転属。そこで待ち受けていた任務は、両親を亡くした多くの戦争孤児の世話だった。罪もない幼い子供たちが自分と同じ孤独感と必死に闘っている姿を目の当たりにしたサンヨルは、得意の音楽で皆の心を少しでも癒したいと思い、児童合唱団を作ることを決意する。チンピラの悪事に利用されていた少年少女も集め、ボランティアの孤児院院長パク・ジュミ(コ・アソン)とともに歌を教え始める。初めはぎこちなかった歌声に、やがてリズムと和音が生まれ、子供たちに笑顔が戻ってきたころ、戦地での慰問公演が決まる。だが、彼らの行く先は、死と隣り合わせの最前線だった…。
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 朝鮮戦争では、北朝鮮が南へ攻め込んだ際に、いったん韓国軍は南端の釜山まで追い詰められた。それは、半島の内戦の特異さだ。親を殺された子供たちは、孤児として例えようのない受難に遭遇する。映画では、孤児を使役して稼がせる“カギ爪の男”(イ・ヒジュン)なる男が登場する。彼は言う。「俺が拾った子供を合唱団に差し出したんだ。見返りはないのか!」と。また最前線ばかりではなく、民衆の間にも思想の対立が起こり、韓国国防軍による粛清の犠牲になった者もあったという。劇中、母を亡くして、目の前で父親を殺された兄妹、14歳のドング(チョン・ジュンウォン)と9歳のスニ(イ・レ)が登場する。ふたりで身を寄せ合って生きてきた兄妹が、なかなか合唱団に馴染めないくだりが印象的だ。
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 大学で音楽を専攻したというサンヨルが、子供たちとコーラスを作り上げていくくだりが見どころです。約30名の子供たちが選考会を経て、孤児院に集まる。サンヨルが指揮者となり、リズムの取り方から教えて、やがて声を重ね、みごとなハーモニーを奏でる。音楽監督のイ・ジェジンは資料を調べ、1950年代に歌われていたノスタルジックな曲を中心に選曲。「兄思い」「故郷の春」「若菜をつむ少女」などの韓国曲と、「楽しい我が家(Home,Sweet Home)」「牧場の小道(Stodola Pumpa)」などの外国曲が郷愁を感じさせる。とりわけ、ドングが歌う「故郷の春」を聴いていた子供たちが、次第にハーモニーを形成していくシーンが感動的。実際の彼らは、戦場や軍の病院などの慰問公演に始まり、1953年の休戦後はアメリカへ、1960年代には日本から東南アジア、そしてヨーロッパまで巡演を行ったという。
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 イ・ハン監督は、戦争の悲惨さをリアリズムでとらえると同時に、子供たちの間に生まれる愛と絆を対照的に描きます。冒頭の戦闘シーンの迫力、内戦のむごさ、戦争孤児、人々の受難。やがて、サンヨルとパク・ジュミが子供たちと歌でつながり、孤独な孤児の心に愛が育まれるくだり。また、子供たちの演技が素晴らしく、可愛い。太平洋戦争後、日本でも戦災孤児が大勢生まれました。東京の上野公園には孤児たちがたむろし、食事する家族の背後から彼らの手がニュッと差し出されたものです。戦災孤児が生まれるのは、いまでも同じです。中東、アフリカなどの戦闘地域では日常茶飯の悲劇。人間の歴史が続く限り、それは永遠に止まないのでしょうか。戦争の最大の犠牲者は、常に子供たちなのです。(★★★★)

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