わくわく CINEMA PARADISE 映画評論家・高澤瑛一のシネマ・エッセイ

半世紀余りの映画体験をふまえて、映画の新作や名作について硬派のエッセイをお届けいたします。

史実の映画化「ハイドリヒを撃て!『ナチの野獣』暗殺作戦」

2017-08-13 14:56:06 | 映画の最新情報(新作紹介 他)

 イギリスの監督ショーン・エリス(兼脚本・撮影)が手がけた「ハイドリヒを撃て!『ナチの野獣』暗殺作戦」(チェコ=イギリス=フランス/8月12日公開)は、第2次世界大戦中に実施された<エンスラポイド作戦>をベースにした作品です。同作戦は、大英帝国政府とチェコスロバキア駐英亡命政府によって計画された“ユダヤ人問題の最終的解決”推進者ラインハルト・ハイドリヒ暗殺計画のコードネーム。類人猿作戦とも訳される。ヨゼフ・ガブチーク曹長、ヤン・クビシュ軍曹ら7人の男によってプラハ(チェコスロバキア)で実行された。その後、ヒトラーの血の報復命令により1万人以上の市民が殺されたという。“金髪の野獣”と称されたハイドリヒ暗殺事件は、いままでにフリッツ・ラング監督「死刑執行人もまた死す」(1943)、ルイス・ギルバート監督「暁の7人」(1975)でも映画化された。
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 第2次世界大戦中期、ナチスがヨーロッパのほぼ全土を制圧していた頃。1941年冬、イギリス政府とチェコスロバキアの亡命政府が協力して極秘作戦を練る。その指令を受けて、ふたりの軍人ヨゼフ・ガブチーク(キリアン・マーフィ)とヤン・クビシュ(ジェイミー・ドーナン)が、パラシュートでプラハに潜入。当時、チェコの統治者でホロコースト計画を推し進めていたのが、ヒトラー、ヒムラーに次ぐナチスNo.3と言われたラインハルト・ハイドリヒ。ふたりの目的は、ナチス親衛隊長ハイドリヒの暗殺、コードネーム<エンスラポイド(類人猿)作戦>だ。ヨゼフとヤンは、チェコ国内に潜伏するレジスタンスの協力を得て、ハイドリヒの行動を徹底的にマークして狙撃する機会をうかがう。1942年5月27日、ついにハイドリヒを狙撃するが、彼らを待ち受けていたのは壮絶なナチスの報復だった…。
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 前半はスローな展開、クライマックスは撃ち合い。映画はドキュメンタリー風にヨゼフとヤンの足取りを追う。ふたりは、レジスタンスの案内で協力者モラヴェツ家に匿われる。ヤンはその家のお手伝いマリー(シャルロット・ルボン)に、ヨゼフは連絡係のレンカ(アンナ・ガイスレロヴァー)という美しい女性に惹かれる。ふたりは、同志と綿密に暗殺計画を練る。いつもの通勤経路で、車上のハイドリヒが減速してゆっくりと角を曲がる時がチャンスだ。やがて、その時がやってくる。自決用の青酸カリが仕込まれた木彫りの人形をモラヴェツ夫人に手渡すヤン。そして、決行の日がくる。だが、ヨゼフの銃が故障し発射できないというアクシデントに見舞われる。その後、激しい銃撃戦が始まる。やや気の弱いヤンと、リーダー型の意志の強いヨゼフ。そのふたりに恋愛模様が加わって、ドラマは進行する。
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 このドラマのユニークな点は、暗殺と抵抗運動がもたらすものが指摘されていることです。抵抗組織の幹部のひとりは言う。「奴を殺せば、ヒトラーはこの街を潰す。家族や知人は皆殺しにされるぞ」と。また、レンカとマリーは「私たちの行動は正しいの」と問う。更に、幹部のひとりは「チェコが地図から消えるのが怖い」と呟く。報復として、市民たちがナチスの生贄にされることを怖れるのだ。これに対して、ヨゼフは「愛国者なら、国のために命を落とす覚悟が必要だ。なにを怖れているんだ」と反論。イギリスからは作戦中止の知らせも届くが、作戦は強行される。イギリス政府とチェコ亡命政府の指令の是非とジレンマ。事件後、プラハには非常事態宣言が出され、街は完全に封鎖。ナチスの親衛隊が大勢の市民に銃を向けて報復を始め、ヨゼフとヤンもレジスタンス仲間の裏切りで追い詰められる。こうした無謀な作戦によって、逆にチェコ国民が窮地に追い込まれるという矛盾を衝く。
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 ショーン・エリス監督は、2001年にエンスラポイド作戦のドキュメンタリーを見たのがきっかけで事件を知り、作戦に関わった兵士たちの勇敢さに惹かれたとか。以後、膨大な歴史的資料を調べ、製作のための準備に15年の歳月を費やした。また、当時のプラハの雰囲気を再現、物語に真実性を持たせるため、撮影は全編プラハで敢行。そしてクライマックス、教会での戦闘シーンで75年前に起こった悲劇を生々しく再現。しかし、この種の反ナチス映画を見て、いつも思うことがある。やたらにドイツ兵士をなぎ倒していく連合軍&抵抗勢力。加えて、報復による市民の犠牲。ナチスの幹部を血祭りにあげるのはいい。でも、ドイツ人兵士にも家庭があり、恋人がいるのではないか。戦争という名の大量殺戮がもたらすもの。見ていて、こうしたジレンマに陥ってしまうのだが、如何だろう?(★★★+★半分)
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★そして“いま、そこにある危機”とは……アホ・トランプvs.気狂い正恩の対決、and
その間でうろうろするオバカ晋三……という構図ですね。

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