わくわく CINEMA PARADISE 映画評論家・高澤瑛一のシネマ・エッセイ

半世紀余りの映画体験をふまえて、映画の新作や名作について硬派のエッセイをお届けいたします。

スリリングなサバイバル・ドラマ「ノー・エスケープ 自由への国境」

2017-05-03 16:55:32 | 映画の最新情報(新作紹介 他)

「ゼロ・グラビティ」で話題を呼んだメキシコ出身の映画人父子が、厳しい現実に斬り込んだ異色作を発表した。父のアルフォンソ・キュアロンが製作(共同)を担当、息子のホナス・キュアロンが監督・脚本・編集・製作を兼ねた「ノー・エスケープ 自由への国境」(5月5日公開)です。メキシコ=アメリカ間の移民問題にいち早く目をつけて、構想8年を費やした作品。奇しくも、アメリカではトランプ政権が発足し、メキシコとの国境にいつ壁が作られるかが注目されている。国境からアメリカへの不法入国を試みる移民たちが陥った危機をスリリングなタッチで描き出すという、現実世界とリンクした意欲作になっています。
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 メキシコとアメリカの国境、3,152kmの見えない壁。家族に会うためにメキシコからアメリカへ不法入国を試みる男モイセス(ガエル・ガルシア・ベルナル)を含む15人の移民たち。彼らは、トラックのエンジン・トラブルで荒れ果てた砂漠を徒歩で越えることになる。有刺鉄線でできた国境をくぐり、アメリカ国内に侵入する不法移民たち。だが、歩みの差から、ふたつのグループに別れる。遅れをとった移民たちが待ってくれるように叫んだとき、突然銃弾が襲いかかる。獰猛な犬を連れた襲撃者(ジェフリー・ディーン・モーガン)は正体不明だが、執拗に移民たちを抹殺しようとする。摂氏50度の砂漠、水なし、武器なし、通信手段も逃げ場もなし。生き残ったモイセスと若い娘アデラ(アロンドラ・イダルゴ)は、必死で相手のライフルの銃弾を避けて逃走。そして、モイセスはある命懸けの行動に出る。
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 劇中ではサムと名付けられた不法移民ハンターの存在が不気味だ。岩陰から移民たちを標的にして、次々と撃ち倒していく男。現実にも、不法移民の流入を“侵略”と見る退役軍人らが自警団を結成、重武装で警備しているという実態があるそうだ。まず凶暴な犬に追跡させて、移民を狙い撃つ男。まさに、狂気の反移民主義者だ。これに対して、メキシコ人移民たちの立場も必死だ。メキシコでは、国民の半数が貧困生活を送り、麻薬カルテルの争いのために治安も悪化している。彼らは、そんな危険な故郷の町から、安全で豊かといわれるアメリカを目指すのだ。演出は、シンプルなハンティング・アクションというサスペンスの形をとりながら、追跡+逃走という図式を借りてメキシコ移民の立場と悲劇をとらえる。
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 ホナス・キュアロン監督は語る。「アメリカ南西部を旅した時に、移民に関するストーリーや、移民の過酷な道行きの物語を直接聞いた。ぼくは心を動かされ、すぐに本作のアウトラインを書かずにいられなくなった」。そして手法的には、最小限の会話で展開されるハラハラ、ドキドキのノンストップ・サスペンスに仕上げた。その上、多彩なテーマを巧みに組み込んでいる。更に、彼は言う。「より良い生活を求めようとする移民たちが直面する悲惨な経験に光を当て、さまざまなテーマを反映した作品を目指した」と。移民たちが踏み込んだ砂漠地帯は、彼らの不毛な心象風景でもある。2年以上かけて舞台となる砂漠を探して回った結果、メキシコのバハ・カリフォルニア・スル州の砂漠がロケ地に決まったそうだ。
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 主人公モイセスを演じたガエル・ガルシア・ベルナルも移民問題に深い関心を寄せていて、監督が脚本を書き始めた時から出演を熱望、製作総指揮にも名前を連ねている。また、サムの相棒犬トラッカーには、演技ではなく警備の訓練を受けた犬を起用。この犬が岩場を這い上がって駆け抜け、移民たちを追いつめる過程が緊迫感に溢れている。本作は2015年度作品となっているが、狂気のハンター、サムの姿は、明らかにアホ・トランプとその追従者、人種差別主義者のような存在を象徴するものと言っていい。クライマックスは、砂漠の岩場でのモイセスとサムとの対決。その結末が、なんともリアルで痛快です。(★★★★)

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