わくわく CINEMA PARADISE 映画評論家・高澤瑛一のシネマ・エッセイ

半世紀余りの映画体験をふまえて、映画の新作や名作について硬派のエッセイをお届けいたします。

フランス女優、世界を駆ける!「TOMORROW パーマネントライフを探して」

2016-12-28 13:37:18 | 映画の最新情報(新作紹介 他)

 2012年、21人の科学者たちが権威ある学術雑誌“ネイチャー”に、私たちがいまのライフスタイルを続ければ、人類は滅亡するという論文を発表した。当時、妊娠中だったフランス女優で監督のメラニー・ロランは、自分の子供の将来を案じて愕然とする。そして何とかしなければと、監督・俳優・活動家・ジャーナリストの友人シリル・ディオンを相棒にして、世界中の“新しい暮らしを始めている人々”に会いに行く。その結果出来上がったのが、異色のドキュメンタリー「TOMORROW パーマネントライフを探して」(12月23日公開)です。そして、そこから人類を絶滅から救う方法という新地平を見出して話題になり、2016年セザール賞ベスト・ドキュメンタリー賞を受賞、フランスで大ヒットする異色作となった。
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 映画は農業、エネルギー、経済、民主主義、教育の5つの章に分けられ、章の終わりにはトークが入る。ロランとディオンはカメラマンを伴って、ヨーロッパ、アメリカ、インドと世界への旅に出て、新スタイルの生き方を模索する人々のインタビュー行脚をし、新発見の道程の中で斬新なドキュメンタリーを作り上げた。登場するのは、フランスのオーガニック農場、脱石油や地球温暖化防止のための地域作りをするイギリスのトランジション・タウン、町の花壇や道に野菜やハーブを植えてシェアするイギリスの試み、すべてのゴミをリサイクル活用させるプロジェクトを推進中のサンフランシスコ、アイスランドやデンマークのグリーンエネルギー、そして学力はトップレベルというフィンランドの教育などなど。
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 公共の土地に作物を植えて共有、2018年までに100%自給自足という目標を持つイギリスのトッドモーデン。2025年までに二酸化炭素の排出をゼロにする目標を掲げ、市民の50%が自転車移動するというデンマークのコペンハーゲン。2025~2030年に再生可能エネルギー100%を目指すフランスのレユニオン島。とりわけ驚くべき発見がいくつかある。町独自の地域通貨を創設したイギリスのトットネス、市内の店やレストランでも使える地域通貨を成功させたブリストル、それは地元企業の振興にも寄与し、地産地消のグリーン・エコノミーだ。また民主主義の章では、市民による市民のための憲法作りが行われたアイスランドのレイキャビクが登場。いずれも、世界や国家の枠を乗り越えた地域主体の生き残り作戦だ。
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 それを象徴するような例が、革命的な民主主義の村といわれるインドのカザンバッカムです。村長エランゴ・ランガスワミーは、すべての家庭の人々が平等に代表として選出され、議論する集会を開いたという。彼はカースト制度最下層出身で、ガンディーが提唱した“共和国としての村”の理念に沿い、多くの難問を解決、インドにおける生きる伝説といわれる。おやおや、いまだに極端な女性蔑視が残るインドで、こんな試みに成功した例があるとは。いずれにしても本作は、人類存続のための基本的テーマを投げかける、例を見ない作品になっています。それは、マイケル・ムーアの熱狂的突撃精神とは異なる。また、核問題についての映画は過去にあったが、こうした身近で日常的な主題の作品は見たことがありません。
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 メラニー・ロランは言う。「映画のなかで示した先駆者たちは皆、私たちの手の届くところにいて、私たちと同じような暮らしのなかから未来を生み出している」と。また、シリル・ディオンは語る―「壊滅的状況だと告発するだけではダメと考えるようになっていた。未来への展望を示すものにする必要があるだろうと」。本作は、細部の情景描写(カット)と軽快な音楽でつながれていく。総花的なとらえ方ではあるが、視点は的確といっていいでしょう。結論は、絶望から希望へ。いっぽうで、果たしてそうなのか? とも考えてしまいます。本作はミクロ的な世界に焦点を当てて展開していくけれども、マクロ的な世界を考えた場合は、どうなのか? 果たして、これで人類に希望がもたらされるのか?と。(★★★★)
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 ぼくは、ふと妄想します。地球という星はすでに極めつきの老齢期に入っている。地殻変動、地震、台風、水害、異常気象、四季の喪失、人口増加に食糧難、難病の蔓延、人為的な問題では飽くことなく続く戦争とテロと虐殺。近い将来、この地球は、文字通り足元から瓦解していくのではないでしょうか? 偉い学者先生も気象の専門家も、なにも言わないけれども……。はてさて、2017年はどんな年になっていくでしょうか。何はともあれ、良いお年をお迎えください。

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