わくわく CINEMA PARADISE 映画評論家・高澤瑛一のシネマ・エッセイ

半世紀余りの映画体験をふまえて、映画の新作や名作について硬派のエッセイをお届けいたします。

2016年 公開映画ベスト・テン

2017-01-04 14:30:17 | 映画の最新情報(新作紹介 他)

新年、おめでとうございます。
恒例の2016年公開映画ベスト・テンを選んでみました。今回は外国映画部門のみで、日本映画はパス。詳細は、以下の通りです。

                      ※

[外国映画]
①「山河ノスタルジア」
(監督:ジャ・ジャンクー/中国・日本・フランス)
②「ラサへの歩き方 祈りの2400㎞」
(監督:チャン・ヤン/中国)
③「シアター・プノンペン」
(監督:ソト・クォーリーカー/カンボジア)
④「トランボ ハリウッドに最も嫌われた男」
(監督:ジェイ・ローチ/アメリカ)
⑤「イングリッド・バーグマン~愛に生きた女優~」
(監督:スティーグ・ビョークマン/スウェーデン)
⑥「最愛の子」
(監督:ピーター・チャン/中国・香港)
⑦「イレブン・ミニッツ」
(監督:イエジー・スコリモフスキ/ポーランド・アイルランド)
⑧「孤独のススメ」
(監督:ディーデリク・エビンゲ/オランダ)
⑨「すれ違いのダイアリーズ」
(監督:ニティワット・タラトーン/タイ)
⑩「弁護人」
(監督:ヤン・ウソク/韓国)
                    ※
 昨年は、中国語圏と東南アジアの作品に秀作が多かったと思います。とりわけ、中国のジャ・ジャンクー監督の大ファンで、長編デビュー作「一瞬の夢」以来、彼の作品を追い続けている。彼ほど、己の情感をみごとに映像化できる作家は他にいない。近作「四川のうた」「罪の手ざわり」も、庶民の生活から中国に潜む矛盾をあぶり出した異色作だった。そして、新作「山河ノスタルジア」は、ヒロインと彼女とかかわった男ふたりの転変を、3つの時代―26年間の時の流れのなかでとらえていく。三角関係にあった若い時の3人が、川原で花火を打ち上げるシーン。オーストラリアに渡ったヒロインの息子が、海辺で母の面影を思うくだり。とりわけラスト、ヒロイン・タオが雪降りしきる汾陽の戸外で、若き日を思い出して踊り出すシーンに万感の想いがこめられた。もちろん、ドラマの陰には新富裕層や海外への移民の問題、家族関係の崩壊など、いまの中国が抱える矛盾が潜んでいます。
                    ※
 また、「こころの湯」「胡同のひまわり」などで常に庶民の視線に寄り添ってきたチャン・ヤン監督の「ラサへの歩き方 祈りの2400㎞」は、五体投地を続けながら聖地ラサに向かうチベットの村人たちのドキュドラマ。撮影には1年以上かかったそうだが、「まず他者のために祈り、それから自分の幸せを祈るものだ」という巡礼の思想に胸が熱くなった。香港出身でアメリカにわたったピーター・チャン監督の「最愛の子」は、子供の行方不明事件を追って、経済格差や一人っ子政策といった中国が抱える問題を映し出した佳作。これらの作品が問いかける矛盾や問題は、中国のみならず世界的に普遍的なテーマだと思います。
                    ※
 加えて、東南アジアから新感覚にあふれた作品がやってきました。「シアター・プノンペン」は、カンボジア映画界初の女性監督ソト・クォーリーカーのデビュー作。1970年代後半、クメール・ルージュによってカンボジアの民衆が虐殺された時代をくぐり抜けた1本の恋愛映画。主人公の女子大生は、映画の最終巻を復元しようとする過程で、過去の悲惨な歴史と対峙する。クォーリーカーは、歴史に対する糾弾を通して映画への究極の愛をつづった。また「すれ違いのダイアリーズ」は、ニティワット・タラトーン監督が教育問題に迫ったタイ映画。都会の堅苦しい学校と僻地の水上学校の生活を対比しながら、教育とは何かを静かに問いかける。2作ともに、異なる次元を巧みに融合させた映像が印象的でした。
                    ※
 映画人の評伝・伝記にも優れた作品が登場。名女優の足跡をたどったドキュメンタリー「イングリッド・バーグマン~愛に生きた女優~」は、彼女の出身地スウェーデンの作品。バーグマン(1915~1982)は、家庭を捨ててハリウッドに渡り、その後イタリアのロベルト・ロッセリーニ監督との不倫が原因でハリウッドから追放された。だが本来の彼女は温かく大らかで、子供たちを心から愛したさまが映画から浮きぼりにされる。「自分の好きなように生きる」ことが、女優バーグマンをいかに大きく育てたかが明らかにされます。アメリカ映画「トランボ ハリウッドに最も嫌われた男」は、戦後の赤狩りで人生を無にされかかった脚本家ダルトン・トランボ(1905~1976)を主人公にした伝記ドラマ。権力との闘いを貫きながら、己の生き方にこだわったトランボの姿こそ芸術家の真のあり方だと思う。
                    ※
 日本映画は見た本数が少ないので、ベスト・テン選出はパス。そんななかで印象に残った作品が、日本の権力の暗部を告発した「日本で一番悪い奴ら」(白石和彌監督)と、即興的な演出で若者の心理に食い込んだ「セトウツミ」(大森立嗣監督)でした。また、黒沢清監督の「ダゲレオタイプの女」は外国映画(フランス)の扱いだったけれども、世界最古の写真撮影方法を通して映像に対する究極の愛を吐露した異色作。そして何よりも、自分の撮りたい映画を外国人キャストを起用して、外国で撮影したという挑戦の姿勢に頭が下がる。
 映画を見るという行為は、作者(監督)が提示するテーマと対峙し、いかに消化するかということだと思う。そして創り上げられた映像に、いかに映画の未来を見据えるか。加えて、映画の可能性・将来性を探ること。今年も、斬新で衝撃的な映画を沢山見られますように。

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