わくわく CINEMA PARADISE 映画評論家・高澤瑛一のシネマ・エッセイ

半世紀余りの映画体験をふまえて、映画の新作や名作について硬派のエッセイをお届けいたします。

アンジェイ・ワイダと「灰とダイヤモンド」

2016-10-18 14:01:40 | 監督論

 ポーランドの巨匠アンジェイ・ワイダ監督が、10月9日に死去した。享年90。第2次世界大戦中は対独レジスタンス運動に参加。一貫して、戦中は反ナチズム、戦後は社会主義ソ連に翻弄された祖国を思う心をテーマにした。長編監督デビュー作「世代」(1954年)、「地下水道」(1956年)、「灰とダイヤモンド」(1958年)は抵抗を続けるポーランドの若者たちを描いて“抵抗3部作”と呼ばれた。その後、のちに大統領となるレフ・ワレサを委員長とする自主管理労組“連帯”に共鳴。社会主義政権ヘの懐疑を主題にした「大理石の男」(1976年)、「鉄の男」(1981年)を発表。後者は、カンヌ国際映画祭パルムドールを受賞。81年の戒厳令で映画人協会会長の座を追われたが、86年に復帰。民主化後の1989年から91年まで、上院議員を務めた。2013年の「ワレサ 連帯の男」は盟友ワレサの伝記映画である。
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 彼の作品中、もっとも印象に残るのは「灰とダイヤモンド」だ。そこで今回、この作品を見直してみました。第2次大戦中、ポーランドの対独レジスタンスには、ソ連と組んだ共産党系とイギリスに亡命政権を置いた自由主義系と、ふたつの組織があった。ソ連によるポーランド解放と介入は、自由主義系に幻滅をもたらす。彼らの一部は、テロリストとして共産党新政権に抗議した。映画の主人公マチェック(ズビグニエフ・チブルスキー)も、戦時中は対独戦争に身を投じ、戦後テロリストになった若者だ。終戦に沸く地方都市で、彼は新政権要人の暗殺を指令される。初め彼は、間違えて別の人間を殺してしまうが、その夜要人の暗殺に成功。その間、マチェックはホテルのバーで働くクリスティーナ(エヴァ・クジジェフスカ)と愛し合い、自分の生き方に疑問を抱く。だが、待っていたのは悲惨な末路だった。
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 1947年に書かれたイエジー・アンジェイエフスキーの同名小説の映画化だ。題名の「灰とダイヤモンド」は、19世紀ポーランドの詩人ノルビッド作「舞台裏にて」の一節から採られ、マチェックとクリスティーナの逢い引きシーンにも引用される。第2次大戦初め、ソ連はドイツに呼応してポーランドの半分を占領、大戦末期になると対独レジスタンスへの支援を拒否。戦後も、ソ連はポーランドに武力介入した。映画は、そんな複雑な政治状況を巧みに反映する。ナチスに対して共に戦った人々が、戦後は分裂して権力闘争するという不条理。そんな中で、テロリストとして翻弄される青年マチェック。彼は何のために戦ったのか? 映画製作当時、ポーランド映画人は脚本を当局に提出し、検閲を受けなければならなかった。ワイダ監督は、検閲に通った本作の脚本を、撮影時にクルーと共に改変したという。
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 この作品はモノクロだが、素晴らしい場面がいくつかある。まず、マチェックとクリスティーナが、雨の中、崩壊した教会で逢い引きするくだり。そこでは、キリスト像がさかさまにぶらさがって揺れている。古い墓石には碑文が彫られている。ノルビッド作の詩の一節だ。更にマチェックが要人を暗殺するくだり。雨上がりの夜、終戦を祝う花火が打ち上げられる。マチェックが相手を撃ち、倒れ込む体を抱きとめる。尾を引いて炸裂する花火が、ふたりをシルエットのように浮かび上がらせる。また、衝撃的なラストシーン(写真)。殺し屋としての生活に別れを告げ、ワルシャワに戻ろうとするマチェック。だが監視兵に見とがめられ、走り出す彼に弾丸が撃ち込まれる。白布が干してある洗濯場に逃げ込むが、その白布が血に染まる。瓦礫の上でのたうちまわり、ついに息絶えるマチェック。映画史上の名場面である。
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 こうしたシンボリックなイメージと、ドキュメンタリー・タッチの映像が混合されて、本作は新時代の前衛としてもてはやされた。やがてワイダ作品を先駆として、ポーリッシュ・リアリズムと呼ばれる一派が台頭。彼らの革新的な主題と映像は、世界中に影響を及ぼした。マチェックを演じたズビグニエフ・チブルスキーは、薄い色のサングラスをかけ、ふるえるようなギラギラした感性で青春の焦燥と絶望を表現。混迷する1950~60年代の怒れる若者たちを共感させるアンチヒーローとなった。そして、ほぼ同時代に生きたジェームズ・ディーンとも比較された。もっぱらワイダ作品で活躍、1967年、40歳の時に事故死したあたりもジミーを彷彿とさせる。本作は、1959年のヴェネチア国際映画祭で国際映画批評家連盟賞を受賞。政治的な意味合いを持つ作品だが、青春映画としても名作のひとつに挙げられる。

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