わくわく CINEMA PARADISE 映画評論家・高澤瑛一のシネマ・エッセイ

半世紀余りの映画体験をふまえて、映画の新作や名作について硬派のエッセイをお届けいたします。

突撃取材! マイケル・ムーアの新たな挑戦

2009-11-27 18:36:57 | 監督論

Img199 アポなし突撃取材でおなじみのドキュメンタリー作家、マイケル・ムーア。彼の最新作「キャピタリズム~マネーは踊る」(12月5日公開)のテーマは、ずばり「マネー」。サブプライム・ローンの焦げつき、リーマン・ブラザーズの経営破綻に端を発した、100年に一度といわれる世界同時不況の元凶にメスを入れます。レーガンからブッシュに至る大統領たちによる巨大企業中心の政策の中で生まれた金融危機、そして自宅と職を失った人々の大量発生。とりわけ、7千億ドルという公的資金(税金)で救われ、役員だけが甘い汁を吸う投資銀行や保険会社をターゲットにウォール街に突入、取材を拒否されるや、周囲に「犯行現場、立ち入り禁止」の黄色いテープを張りめぐらしてしまうムーアの行動力が痛快だ。
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 ムーアは、デビュー作「ロジャー&ミー」(89年)で、故郷である米ミシガン州フリントで起こったGM工場の大量解雇事件に迫りました。そして、アメリカの銃社会が抱える問題点を鋭くえぐった「ボウリング・フォー・コロンバイン」(02年)で世界的な注目を浴びる。次いで、「華氏911」(04年)では9・11同時多発テロ事件以降の社会を背景にブッシュ大統領の無為無策の姿勢を暴き、「シッコ」(07年)では公然とは触れられなかった医療問題にメスを入れた。アメリカ社会が核爆弾のように抱える矛盾や不正を糾弾していく、ムーアの歯切れのいい舌鋒には、いつもながら快哉を叫びたくなります。でも、彼が権力者からうとまれ、突撃取材もままならなくなり、時として主張が空回りするのも事実です。
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 でもムーア自身は、そんなことは意にも介さない。「キャピタリズム」では、「僕らの生活を支配している資本主義(キャピタリズム)が相手だ」と、彼は言う。いまのアメリカは、「1パーセントの最富裕層が底辺の95パーセントより多い富を所有し、独占的に利益を得る社会」だとか(それはアメリカだけでなく、日本でも同じような状況だけど)。不況のあおりをくった庶民の表情を的確にとらえ、経済閣僚や学者や神父にまでインタビューを試み、ウォール街に乗り込むムーアの活力は健在だ。この作品の試写会が東京・有楽町の大ホールで行われたとき、観客の多くが若い世代だった。映画が終わったとき、会場から大きな拍手が沸いたのは、彼らの多くが経済不況の影響を身近に感じていたからでしょう。

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公園の夕暮れ


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