わくわく CINEMA PARADISE 映画評論家・高澤瑛一のシネマ・エッセイ

半世紀余りの映画体験をふまえて、映画の新作や名作について硬派のエッセイをお届けいたします。

南海放送発の告発ドキュメンタリー「放射線を浴びたX年後 2」

2015-11-21 14:27:13 | 映画の最新情報(新作紹介 他)

 1946年、広島・長崎への原爆投下からわずか10か月後。太平洋のマグロ漁場で、米国による核実験が始まった。その後、多くの漁船が操業する中で100回以上続けられた核実験。闇に葬られたビキニ水爆実験の真相に迫るドキュメンタリー「放射線を浴びたX年後」(2012年)は、大きな反響を呼んだ。この事件に光をあてたのは、高知県の港町で地道な調査を続けた教師や高校生たち。彼らの足跡を丹念にたどったのがローカルTV局・南海放送(愛媛県)のディレクター、伊東英朗。8年間に及ぶ取材の結果を放映したのち、映画化にこぎつけた。そのシリーズ第2弾が「放射線を浴びたX年後 2」(11月21日公開)です。
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 今回の主人公は、東京で広告代理店を経営する川口美砂さん(59歳)。故郷・高知県室戸市で映画「放射線を浴びたX年後」を見たことがきっかけで、元漁師だった父の早すぎる死に疑問を抱き始める。当時「酒の飲み過ぎで早死にした」と言われた父。果たして、本当にそうなのか? 高知県南国市在住の漫画家・大黒正仁さん(ペンネーム:和気一作)もまた、映画との出会いがきっかけとなり父の死に疑問を抱く。そして、愛する父への思いが、ふたりを動かし始める。いっぽう、取材チームは放射線防護学の専門家とともに、1950年代に雨水の中に高い放射線物質が測定された沖縄、京都、山形を訪れ、独自に土壌調査を行う。民家の床板をはずし、半世紀ぶりに現れた土。果たして、その結果はどうだったか?
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 太平洋核実験は、米国によって1946年から1962年まで中部太平洋のマーシャル諸島ビキニ環礁やクリスマス島などで行われた。1954年3月1日に爆発させた“ブラボー”は、広島に落とされた原爆の1千倍以上の破壊力があるとされ、近海で操業中の第五福竜丸が被ばく、同年9月に無線長の久保山愛吉さんが死亡した。また、太平洋核実験によって大気中に放出された放射性物質が日本列島にまで達し、雨とともに降下したことで全国各地の野菜や飲料水、牛乳などさまざまなものが汚染。そして大量の死の灰を浴び、40代、50代の若さでガンを発症して亡くなっていったマグロ漁船の乗組員たち。また、汚染された魚は廃棄された。しかし、慰謝料200万ドルと引き換えに、日米間で真相は隠蔽されたという。
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 今回の“パート2”では、川口美砂さんが、かつてのマグロ船乗組員を探して話を聞き取っていくくだりが軸となる。2015年元旦から毎月室戸に戻り、“パート1”の上映会を主催していた元漁労長・山田勝利さんの協力を得ながら、元乗組員や遺族たちと出会っていく。膨大な記録や資料、当時の報道から明らかになってきた予想を上回る核実験の被害の大きさ。それは、海や空気、土壌だけではなく、漁師たちの体と心にも大きな爪痕を残した。激しく汚染された漁場で死の灰が混じる雨や海水を浴び、魚を食べていた漁師たち。だが、川口さんらの取材を拒否する人々もいることをカメラはとらえる。彼らは、なぜ口をつぐまなければならなかったのか? かつての核実験は、いまも日本に影響を及ぼしているのか?
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 伊東英朗監督は言う。「いま、新たなX年後に向けてカウントダウンが始まっている。しかし、半世紀前の事件では、放射線を浴びたX年後、何が起こったのか・起こっているのか、まだわかっていない。ぼくはいつも、もし、1946年から1962年の間に行われた120回を超える核実験中、政府が検査を続けていれば…と考える。1954年、わずか数か月で放射線検査を打ち切ったあとも、100回以上の核実験がマグロ漁場で続けられた。誰がどう考えても、海上での従事者の健康、ほとんどの日本人の口に入る食品(魚)の安全を考えると、検査をやめることは非常に不自然だ。また、放射能の雨についても、観測されていた放射線の数値が、天気予報のように日常的に知らされるべきではなかったか」。
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 更に、同監督は続ける。「第五福竜丸の事件から57年後の2011年3月。福島で原発事故が起こり、放射能検査が始まった。ところが、その年の12月、安全宣言がされた」と。福島の事故の際には、多かれ少なかれ日本全国に放射能が拡散したはずだ。また当時の新聞の片隅に、放射能が地球を半周したという記事があったと記憶する。半世紀以上前の核実験による被害は、完全に3:11以後の汚染状況に連環するのである。それは、子孫にどんな結果をもたらすのか。「放射線を浴びたX年後 2」は、ナレーションとインタビュー中心、TVマンらしい現実の切り取りかたである。欲をいえば、いま生きている漁師たちや、取材拒否した人々にも、もっと肉薄してほしかった。それは“パート3”に期待しよう。(★★★★)



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