わくわく CINEMA PARADISE 映画評論家・高澤瑛一のシネマ・エッセイ

半世紀余りの映画体験をふまえて、映画の新作や名作について硬派のエッセイをお届けいたします。

夢幻と欲望の淵を漂う降霊術姉妹「プラネタリウム」

2017-09-28 16:27:36 | 映画の最新情報(新作紹介 他)

 フランス出身の女性監督レベッカ・ズロトヴスキが手がけた「プラネタリウム」(9月23日公開)は、人気女優ナタリー・ポートマンと、ジョニー・デップとヴァネッサ・パラディの娘リリー=ローズ・デップが姉妹を演じるミステリアスな作品です。本作は、ふたつの実話からインスピレーションを得たという。ひとつは、アメリカに実在したスピリチュアリズム(心霊主義)の先駆者として名高いフォックス3姉妹。のちに下のふたりの妹は、長女に利用された詐欺的な行為だったと暴露する。もうひとつは、フランスの大手映画製作会社パテで、破綻しかかった経営を立て直し、フランス初のトーキー長編映画を製作、革新的な映画ビジネスをやってのけた人物ベルナール・ナタンのエピソード。このふたつの物語が、ズロトヴスキの想像力の中で出会い、刹那的で美しい物語として生み出されたといいます。
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 1930年代、パリが最も華やかだったとき。アメリカ人スピリチュアリストのローラ(ナタリー・ポートマン)とケイト(リリー=ローズ・デップ)のバーロウ姉妹は、ヨーロッパ・ツアーのため憧れのパリへと向かう。美しく聡明な姉ローラはショーを仕切る野心家で、好奇心旺盛で純粋な妹のケイトは自分の世界に閉じこもりがちな少女。ショーでは死者を呼び寄せる降霊術を披露、話題の美人姉妹として活躍し、金を稼いでいた。そんなふたりの才能に魅せられたフランス人映画プロデューサー、コルベン(エマニュエル・サランジェ)は、誰もやったことのない世界初の心霊映画を撮影しようと、姉妹と契約する。果たして、姉妹の力は本物なのか?見えない世界を見せられるのか? やがて、姉妹の運命が狂いだす…。
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 映画は、流麗なカメラワークで姉妹の転変を追っていきます。サスペンスの基底にあるのは、姉妹が見せる降霊術が、本物か、それとも詐欺行為なのか、という点にあります。だが、実際の映画撮影では、ケイトはうまく演じられない。コルベンと監督は、ローラに女優としての才能を感じ、彼女を主演に映画製作を進めることにする。「なにもかも、すぐ成功させたい。すべて欲しい」と、野心をむきだしにするローラ。彼女は、コルベンに惹かれていく。だがコルベンは、本当に力があるのはケイトのほうだと確信し、有害な電磁波を放つ機械をケイトに使う実験をする。こうして、信頼関係で結ばれたケイトとコルベンに対して、激しく嫉妬するローラ。次第に映画作りに狂気を伴っていくコルベンを、同僚や仲間は狂人扱いする。そして、コルベンとの危険な降霊術が原因で、ケイトは白血病になってしまうのだ。
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 当時は、ナチス・ドイツによって、ヨーロッパは戦乱に巻き込まれる直前にあった。3人は、そんな時代の波に翻弄される。フランス映画の変革を目指したコルベンは、仲間に疎外されたあげく、裏切られる。その裏側には、コルベンがユダヤ人だったという要素がある。そう、1930年代はナチス勃興の時代。こうした時代の暗雲と並行して描かれるのが、当時の映画界の様子です。新しいものを求め、乱痴気パーティと奔放な行動に明け暮れる映画人。コルベンのモデルになった実在のプロデューサー、ベルナール・ナタンはパテ映画の経営権を握ったが、ユダヤ人排斥運動の犠牲になったという。そして、フランス政府に捕まり、ナチス占領軍に引き渡された。彼自身は、フランスにトーキー映画を導入し、フランスの映画製作に足跡を残した。映画からは、そんな不穏な時代背景と、映画界の様子が浮かび上がる。
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 ズロトヴスキ監督は言う。「第2次世界大戦の前の時代は、恐ろしい状況だった。私たちが最初に映画について話し合った時、2015年の最初のテロリズムの波(パリ同時多発テロ)が押し寄せて、自分が住んでいる国を外国人の目を通して見てみる必要があることに気づいた」と。そして夢のようなバーロウ姉妹の世界、そこに漂う虚偽のような雰囲気。ダークで、神秘的な世界と言ってもいい。だが、全体に流れるトーンは、少女趣味ともいえるムードだ。物語には曖昧な部分もあるが、華麗でダイナミックな映像がプロットの不明な部分を押し流してしまう。加えて、小道具やファッションなどに女性的な感覚がうかがえる。それにしても、「レオン」であどけない少女だったナタリー・ポートマンが、ここまで進化したとは。彼女は更に、リリー=ローズ・デップを妹役に推薦したという。(★★★+★半分)



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