ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

マイケル・ムーアの世界侵略のススメ

2016-05-25 23:57:08 | ま行

あのマイケル・ムーア監督
7年ぶり(そんなになるか!)の新作です。

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「マイケル・ムーアの世界侵略のススメ」73点★★★★


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ドキュメンタリーを“おもしろく”した
21世紀の功労者、マイケル・ムーア監督の新作は

「世界各国に行って、その国のいいところを略奪しちゃえ!」
というドキュメンタリー。

イタリアの有給休暇の多さに「はあ?」と絶句し、
フランスの学校給食のおいしさに「なんで?」と驚き、
ノルウェーの刑務所の開放感に「うそだろ?」とあんぐりする。


疑り深い彼のリアクションと、
“笑いのツボ”は健在。

しかし、今回の彼はいままでと違う。

マイケル・ムーアはもう怒っていない。
マイケル・ムーアは希望を持っているのだ。
ヤケクソじゃなく、おそらく本気で。

いままでになく
「楽観的」なのは、なぜか?


終盤、ベルリンの壁跡を前に彼は
「物事が意外にも急激に良い方向へシフトし、
変化する現実もある」と打ち明ける。

これまで怒って、憤って
先頭に立ってアメリカの「おかしい!」を指摘してきた彼が

テロや対立、不穏が世界中に溢れるいま
時代と逆のスタンスを取っていることが
興味深い。

彼はいままでと同じく、
世間の数歩先を行ってくれるのだろうか――??

そんな希望を、少し感じました。


それにしても
日本の「いいところ」を侵略に来てくれなかったのは残念。

まあ、実際いまの日本は
全然魅力的じゃないんだろうな。


★5/27(金)からTOHOシネマズみゆき座、角川シネマ新宿ほか全国で公開。

「マイケル・ムーアの世界侵略のススメ」公式サイト
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素敵なサプライズ ブリュッセルの奇妙な代理店

2016-05-24 23:57:55 | さ行

昨日はベルギーでしたが
今日はお隣り、オランダ発のダークコメディ。


「素敵なサプライズ ブリュッセルの奇妙な代理店」64点★★★☆


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オランダの大富豪の家に生まれたヤーコブ(イェルン・ファン・コーニンスブルッヘ)は
母の死で天涯孤独の身となった。

生きることに意味を見いだせない彼は
巨額の資産を寄付し、自殺の計画を立てる。


そんな彼が出合ったのが、
ブリュッセルにある謎の会社「エリュシオン」。

そこは、葬儀会社が裏家業として営む
「あの世への旅立ち」を手助けする会社だった――。


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死にたい人を後押しする会社――という発想のコメディ。


死にたい青年ヤーコブは、あの世行きを手伝う会社で
いつ、どこで死ぬかわからないという
“サプライズコース”を選択する。

だが、彼は
同じくサプライズコースを選択した
アンネ(ジョルジナ・フェルバーン)という
キュートな女性と出会い、

二人で“あの世行き”からの
逃避行がはじまる――という話。


冒頭からゆる〜く、でも、暗〜いムードがあって
とにかく
ユーモアが独特。


「人生はマラソンだ!」もそうだったけど、
オランダの笑いの感覚って
不思議に乾いてて、ブラックで

クール&ドライな北欧の笑いとは
また違うテイストというか

「笑っていいのコレ?」
かなりニッポン人感覚と違う(笑)

なので
微妙にとっつきにくかったりもして
ワシには、もうひとつツボらなかったのですが

そこが
おもしろさでもあるんでしょうね。

「コーエン兄弟を彷彿とさせるブラックコメディー」とか
「チャーリー・カウフマンのようなシュールさ」といった
海外評もありましたぞ。

にしても
「神様メール」の神様も、本作の「あの世行き」を手伝う会社も
ブリュッセルにある、というのが
なんかおかしかったです。


★5/28(土)から新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次公開。

「素敵なサプライズ ブリュッセルの奇妙な代理店」
公式サイト
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神様メール

2016-05-23 23:41:42 | か行

「トト・ザ・ヒーロー」(91年)
ジャコ・ヴァン・ドルマル監督の新作です。


「神様メール」70点★★★★


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神様は、実は
ブリュッセルのアパートに家族と住んでいた。

神様はパソコンで
人類の運命を左右しては、イヒヒと笑うイヤなヤツ。

神様の10歳の娘エア(ピリ・グロワーヌ)は
そんな父を見て
なんとか世界を救おうと思い立つ。

そして、彼女が取った方法とは――??

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見る人によって20点にも90点にもなりそうな
不思議な映画。

だってまず
神様を根性のねじ曲がった
嫌なオヤジに設定しているんですよ。

本当に見ていて
胸くそ悪くなるほどのDVおやじで(苦笑)
人間たちを苦しめて、悦に入っている。

で、
その娘、つまりキリストの妹である少女エアが
おやじの非道を正すべく、ある行動に出る――という展開。


どうやってついていったらいいのか
最初は迷うとこなんですが

ダークでシュールで、
ファンタジックな映像と

苦いセンスがユニークで、
けっこう余韻がいい。


神様のいじわるっぷりにも
今日の宗教観に対する思いがあるんだろうなと感じるし、

そのいじわるが
戦争を引き起こすという大きなものから
「スーパーのレジの列に並ぶと、必ず隣の列から先に進む」とか
セコいけど「あるある!」なネタなのにもウケた(笑)

日常の「ムカッ!」「イラッ」
やっぱり神様が操作してるんだ!ってね。


で、そんな神様をなんとかしようと
娘のエアがやるのは
父のパソコンに入っていた
人間たちの「余命」をメールで全員に知らせるというもの。

これまた、なんで?!と思うんですが
意外と、そのストーリーの行く先はおもしろく

自分も「神様メール」で
余命宣告を受けた気分になってみると

確かにいまの自分をじっくり
考えられるような気もしました。

ファンタジックな映像センス、
予測不能なシュールさ
ビターさ、可愛らしさなどから

ヤン・シュヴァンクマイエルの世界や「アメリ」、
ミシェル・ゴンドリーを混ぜ合わせたような感じもしました。


★5/27(金)からTOHOシネマズ シャンテほか全国で公開。

「神様メール」公式サイト
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海よりもまだ深く

2016-05-17 23:18:20 | あ行

うん!一番好きなタイプの
是枝流・ニッポンの家族ドラマ。


「海よりもまだ深く」78点★★★★


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夫亡き後、団地で一人で暮らす
母(樹木希林)。

最近ちょくちょく訪ねてくる
長女(小林聡美)との話題は、長男の良多(阿部寛)のことだ。


父に似て、ギャンブル癖のある良多は
15年前に文学賞を1回取ったきりの作家。

いまは探偵事務所で働いているが
元妻(真木よう子)に愛想を尽かされ
一人息子の養育も危ういらしい。

そんななか
良多が母を訪ねて団地にやってくるが――。


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是枝裕和監督の新作。

「歩いても 歩いても」系、一番好きなタイプの
市井の人々を描くオリジナル作品で


ともかく、まあ
「なんでもない、あなたのおうちを覗いてみた」ような映画なんですが

こういうの好きなんで
たまりません(笑)


まず
小市民、いや小人物すぎる
セコくてダメな主人公(阿部寛)がすごくいい。


「大器晩成もいい加減にしたら」と言われるような
中年男役を
後頭部の寝ぐせふう、絶壁加減もそのままに演じていて

見ていると
ダメだなあ!とイラッとしつつ

「まあ、焦らず、こんなんでもいいやね」と
思わせるようなキャラクターなんですねえ。

さらに
「うちのおかんのこと、のぞいてた?」というような
母親役、樹木希林氏のリアルさ。

ほか小林聡美氏、真木よう子氏ら
芸達者組による
実家&親あるあるネタに
笑いが止まりませんでした(笑)。

とにかく
登場人物全員が、自然に呼吸しているような、
セリフのゆったりさ、タイミングが気持ちいいし

穏やかな風が吹き抜ける団地の風景も、
実に心地よかった。


この家族がこれからどうなっていくのか
まだまだ余白もあって

ワシ的には
阿部寛氏のこのキャラクター、寅さんシリーズみたく続けばいいのに!
切に思いました(笑)


★5/21(土)から全国で公開。

「海よりもまだ深く」公式サイト
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ふたりの桃源郷

2016-05-13 23:35:16 | は行

25年、追えるドキュメンタリーって
やっぱり、すごいですよ。

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「ふたりの桃源郷」74点★★★★


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舞台は山口県の山奥。

電気も水道もないその土地に暮らす老夫婦の
25年間を追った
山口放送制作のドキュメンタリーです。


なんといっても
“25年間の記録”というボリュームがすごい。


1971年生まれの佐々木監督は
先輩が撮った夫婦の取材を引き継ぎ
ここまでに昇華させたそう。

この長期取材は間違いなく
テレビならではの“恵み”だったと思います。


そして映画は
老夫婦――寅夫さんとフサコさんの
歴史と絆を追っていく。

夫婦の日々も興味深いのですが
でも、この映画で結局描かれているのは
「老いた両親を持つ、子のあり方」のほうなんです。


夫婦の3人の娘たちは
老いた両親に「一緒に暮らそう」と涙ながらに頼む。

だが「子に面倒も、迷惑もかけたくない」と夫婦は言う。


しあわせな夫婦だなあと思う反面、
やはり親子とは別の「個」なのだと考えさせられます。


だって彼らは
「自分の子の負担になりたくない」けど、
見知らぬ若い国民たちの世話にはなっているんだよね・・・。
それは当然の互助なんだけど
多くの親が同じ心理を持つのを見ると
やっぱり、親にとって子ってなんだろう?と考えてしまう。

自分だったらどうするかなあと。

そんな
複雑な思いもよぎりつつ、
映画の後半、状況が変化していきます。


なんと
三女夫婦が彼らの山を維持するために
仕事を辞めて山奥に移住してくるというのですね。


なかでも
「(彼らを看るのは)自分の親にできなかった罪滅ぼしだ」と言う
三女の夫がえらい!

じいちゃんの
「人間、何かすることがないとボケる!一日中テレビ見てたらボケる!」と言うシーンも
「ごもっとも!」と喝采だ。


最後、つがいを片方をなくした鳥のように
山に向かってよび続けるおばあちゃんが、
実に切ない。

そして、さらにその先まで
追ったことも素晴らしいと思いました。

吉岡秀隆氏のナレーションもいいですね。


★5/14から全国で公開

「ふたりの桃源郷」公式サイト
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