アブソリュート・エゴ・レビュー

書籍、映画、音楽、その他もろもろの極私的レビュー。未見の人の参考になればいいなあ。

男はつらいよ ぼくの伯父さん(その2)

2017-07-13 20:12:48 | 映画
(前回からの続き)

 寅と満男も佐賀で別れ、満男は柴又に帰ってきて憮然としている博に家出を謝罪し、受け入れられ、皆の拍手でめでたしめでたしとなる。この場面の、博の「家出息子の帰還を迎える頑固おやじ」の典型的芝居も、お約束をうまく使っていてイイ感じなのだが、なんといっても秀逸なのは佐賀で満男が泉と別れるシーンだ。満男は帰りが遅くなったことで泉の叔父さんに叱られ、泉とも気まずくなる。家を出て、送ってくれた泉と別れる時、唐突にキスしようとして失敗する。そして逃げるようにバイクにまたがり、「あー、ブザマー!」と叫びながら走り去るのだが、いや、この場面の満男のブザマさは本当に見事である。思春期のブザマさの本質をあますところなく表現している。

 しかし本当にこの映画には印象的な場面が多くて、ちょっと思い出せるだけでも寅が満男に酒の飲み方を教える場面、「おれは汚い」という満男に博の若い頃の話をして聞かせる場面、佐賀で弱気になった満男に小野小町の話をして喝を入れる場面、満男と泉の母のチグハグな会話、家出した満男が電話でさくらと話して泣く場面、キスに失敗して泉とブザマに別れる場面、とらやへの帰還シーン、寅が電話でとらやのみんなと話をする場面、など枚挙にいとまがない。

 最後近くの、寅が電話でとらや一同と話をする場面は、おいちゃん、おばちゃん、タコ社長などが口々に電話に向かって「早く帰って来いよ、寅さん!」と叫び、賑やかに笑いさざめく(満男がちょうど帰還した直後で、みんな幸福感でいっぱいになっている)のを、寅はただ一人寒さに背中を丸めながら、電話越しにじっと聞くというもの。寅が旅先からとらやに電話するシーンは数限りなくあるが、ここまで寅の孤独を浮き彫りにするような、哀切な電話シーンは初めて見た。テレビ番組で言えば、まるで最終回のような特別な雰囲気が漂っている。寅が皆の前から姿を消す日も近い、という予感がするのだ。

 また、満男が実質の主人公というストーリーの都合上自然とそうなるのだろうが、寅が急速に満男のメンター的存在へと変貌しつつあるのが分かる。これまでも、ふとした折に「人間って何のために生きているのかな?」などという満男の哲学的問いに答えたりしていた寅だが、本作では冒頭の酒の飲み方講釈に始まって恋の悩み相談、小野小町の話、などはっきりと満男の導き役を演じている。

 そのきわめつけが、泉の叔父に向かって満男を弁護する場面である。檀ふみの嫌味な旦那であるところの尾藤イサオが、いやが上にも嫌味ったらしく、上から目線で、薄笑いを浮かべながら、昨夜帰っていった満男の批判を口にする(保護者に断りもなくバイクでやってくる、泉を連れ出して夜遅く帰る、云々)と、寅は礼儀正しく、しかし毅然と反論する。彼女が寂しがっていることを知って、それを慰めるために東京からはるばるやってきた甥を、私はむしろ誉めてやりたい、と言うのである。この時の寅は最高にかっこいい。もし満男がこの場にいて寅のこの言葉を聞いたら、必ずや涙したことだろう。

 そしてこの直後、「悪い人じゃないが、なんというか、心が狭い人で」と詫びる檀ふみに、あの「幸せになって下さい」の一言を残して、寅は佐賀を去るのである。

 お約束であるエピローグの正月シーンも、後藤久美子が再登場してひときわ華やかだ。この場面も諏訪家のみで、とらやは登場しない。それにしても、寅は満男のガールフレンドである泉ちゃんにまでハガキを出しているんだなあ。

 色々とシリーズの定石破りが多い本作、寅よりも満男の方がメインになっているのが評価が分かれるところかも知れないが、そのことが逆に寅の魅力を、これまでと違ったやり方で引き出しているとも言える。私は傑作だと思う。

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