アブソリュート・エゴ・レビュー

書籍、映画、音楽、その他もろもろの極私的レビュー。未見の人の参考になればいいなあ。

怪人カリガリ博士

2012-09-06 23:20:32 | 映画
『怪人カリガリ博士』 ロジャー・ケイ監督   ☆☆

 珍しい映画の日本版DVDが出ていたので、つい購入してしまった。これはあのオリジナルの『カリガリ博士』ではなく、1963年に作られた一種の翻案作品である。リメイクというわけじゃなく、眠り男も出てこないしストーリーもまるで異なるが、基本のアイデアは共通している。非常にマイナーな映画だと思われるが、なぜこんなものを入手したかというと、これは澁澤龍彦の映画評論集『スクリーンの夢魔』の中の「カリガリ博士あるいは精神分析のイロニー」の章で取り上げられている映画なのである。別に褒めてあるわけではない。むしろ精神分析映画が芸術的には失敗することを宿命づけられているというイロニーを論じているのだけれども、澁澤龍彦の筆によるあらすじ紹介を読むと奇妙に魅力的に思え、前々から観てみたいと思っていたのである。

 実際のところ、かなり奇妙な映画であるとは言える。ホラー映画みたいな紹介の仕方をされているが決してホラーではない、不条理サスペンスというのが一番当たっているだろう。若い独身女性ジェーンはドライブしていて車がパンクしため、歩き回って大きな邸宅にたどり着く。そこにはカリガリと名乗る男が住んでいて一夜の宿を提供してくれるが、ジェーンはやがて自分が軟禁状態にあることに気づく。またカリガリは彼女に猥褻な絵を見せたり、薬を盛ったり、入浴時に覗いたりする。邸宅には他にもカリガリの友人達が滞在しているが、その友人女性の一人をカリガリが召使に命じて鞭打たせているのを見たりもする。カリガリが不能者だと推測したジェーンは、彼を誘惑することで優位に立とうとするが、やがて驚くべき真相が明らかになる……。

 意味ありげだけれどもよく分からない出来事、セリフが続き、どことなくシュールな空気が漂う。観客にスリルを感じさせようとする演出があちこちでなされているもののテクニックは稚拙で、あまり怖くはない。脚本が『サイコ』のロバート・ブロックだというのもウリの一つらしいが、『サイコ』の緻密な演出とは雲泥の差である。『サイコ』より後の作品なのだが、雰囲気的にはもっと古い映画のように感じる。ちなみに、ジェーンがカリガリの部屋から逃げ出すラスト近くの場面では書割の廊下が歪み、オリジナルの『カリガリ博士』のドイツ表現主義を連想させるようになっている。

 とりあえず、本作最大の目玉がラストのどんでん返しであることは間違いない。それまでの良く分からない、モヤモヤした出来事の数々が、これによってようやくはっきりと説明される。大仕掛けなどんでん返しであることは確かで、予備知識なしで見たらそれなりにびっくりするだろう。ある種残酷で、ハッピーエンドなんだかバッドエンディングなんだか分からない結末である。これを澁澤龍彦は精神分析映画の宿命と断じ、「このとき、わたしたちの受けるショックは、それがどんなにはげしいショックであろうと、偽物の芸術的感動、知的感動であって、それ以上には出ないのである」と醒めた書き方をしている。

 ユニークな映画だとは思うが、それほど出来がいいわけでもないし、精神分析映画、あるいはオリジナルの『カリガリ博士』に格別の興味を抱いている人でなければ、観る必要はないだろう。

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