アブソリュート・エゴ・レビュー

書籍、映画、音楽、その他もろもろの極私的レビュー。未見の人の参考になればいいなあ。

Mountain Dance

2012-12-01 22:03:13 | 音楽
『Mountain Dance』 Dave Grusin   ☆☆☆☆☆

 デイヴ・グルーシンといえば映画音楽、という印象をずっと持っていたが、この人はフュージョン界の大御所でもあるのだった。こんなことはジャズ/フュージョン・ファンにとっては常識なんだろうが、これまであまりこの手の音楽を聴かなかった私にとっては最近になっての発見なのである。

 以前書いた通り、私は『天国から来たチャンピオン』という映画が好きで、当然ながら音楽も気に入っている。特にラストシーンに流れるあの曲、明るくてちょっとユーモラスで、だけど途中で静かになるところではあまりにもロマンティックで切ないあの曲は、ちょっと耳にするだけで涙腺がゆるむぐらい好きなのだが、あの音楽を手がけたのがデイヴ・グルーシンだ。ロマンティックでノスタルジックで、親しみやすく、明るく、悲壮感がなく、人間的で暖かい。これぞデイヴ・グルーシンという名曲だが、そのデイヴ・グルーシンの代表的なフュージョン・アルバムがこの『マウンテン・ダンス』である。タイトル・チューンの「マウンテン・ダンス」も『恋の落ちて』の映画音楽として使われたらしいが、この映画は未見。

 アルバムはデイヴ・グルーシンらしい明るく、親しみやすいメロディがたっぷりで、どの曲にもヒューマンな暖かさが宿っている。気取りや軽薄さがなく、牧歌的な味わいもある。音はカラッと乾いていて、デイヴ・グルーシンのコロコロと軽快なピアノをはじめ、ベースやドラムの音もクリスプで心地よい。私はリバーブかけまくってカラオケ・ボックスみたいになってるスムース・ジャズ系の音が苦手なのだが、そういうのとは真逆のサウンドだ。デイヴ・グルーシンは主にピアノとローズを弾いているが、シンセサイザーやエレクトリック・ギターも入っていて、曲調もかなりポップ。しかし演奏はグルーシンのキーボードはもちろんマーカス・ミラーのベース・ソロもフィーチャーされ、聴き応え充分だ。ハーヴィー・メイソンのドラムも気持ちいいし、控えめながらツボを心得たパーカッションもいい感じだ。

 冒頭から「Rag Bag」「Friends and Strangers」「City Lights」と軽快で明るい曲が続き、「Rondo - "If You Hold Out Your Hand"」ではスローなテンポでローズのメロウな響きを聴かせる。が、曲調はやはり明るい。続く「Thanksong」はピアノだけの演奏。澄んだピアノの響きが美しい、ロマンティックな曲。その後再び軽快な「Captain Caribe」でピアノとシンセサイザーそしてギター・ソロをフィーチャーし、「Either Way」ではバンドでのしっとりした演奏を聴かせる。この「Either Way」の抒情的に始まり、サビでスコーンと爽やかに突き抜けるピアノのメロディは本当に美しく、デイヴ・グルーシンの本領発揮である。そして最後がタイトル・チューンの「Mountain Dance」。これも明るく軽快な演奏で、やっぱりグルーシンのコロコロ転がるメロディアスなピアノがとてもチャーミング。

 デイヴ・グルーシンの音楽には常にハートウォーミングな感触があって、そこが良さなのだが、そのせいで逆に先鋭性やクールさの点で物足りなさを感じる人もいるかも知れない。私も、彼のアルバムの中にはちょっと甘いと感じるものもあるけれども、このアルバムは乾いたタッチと演奏の冴えがグルーシン独特の溌剌感、幸福感と融合して素晴らしい奥行きを出している。良いメロディと良い演奏が絶妙に調和した、やはりこれは全方位型の傑作だと思う。


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