アブソリュート・エゴ・レビュー

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ブルージャスミン

2017-01-11 20:44:01 | 映画
『ブルージャスミン』 ウディ・アレン監督   ☆☆☆☆☆

 iTunesのレンタルで鑑賞。ひっじょーに面白かった。例によってドタバタ・コメディかと思ったら、ものすごくブラックかつ辛辣かつ残酷、しかも洒脱で機知溢れる物語だった。笑ったりニヤニヤできる部分は数多いけれども癒しやほのぼのとは無縁の、痛烈なアイロニーがギュッと凝縮された映画である。

 主人公のジャスミン(ケイト・ブランシェット)はニューヨークでセレブ生活を満喫していた見栄っ張りでタカビーな女だが、生活が破綻してサンフランの妹のところへ居候にやってくる。血のつながらない姉を好意的に受け入れる妹に比べ、セレブ意識が抜けないジャスミンはまったく嫌な女である。いやいや歯医者の受付の仕事をやり、室内装飾のコースを受講するためにPCの勉強を始める。苦労して根性が治るかと思っているとたまたまセレブな男との出会いがあり、またしても安直で虚飾な幸せを手に入れるために嘘をつきまくってしまう。しばらくは順調に進むがこのままハッピーエンドになるはずもなく、やがて自業自得の強烈なしっぺ返しがやってくる…。

 破産後にサンフランシスコで奮闘するジャスミンの現在の物語と並行して、それ以前にニューヨークで実業家の夫(アレック・ボールドウィン)とセレブ生活を満喫していた頃のエピソードも、時系列をシャッフルして挿入されるので、彼女のビッチぶりが鮮やかに引き立つ仕掛けになっている。たとえば冒頭、妹のアパートに転がり込んだジャスミンは当然いつまでも居座るつもりだが、過去に妹夫婦がニューヨークを訪れた時は広壮な自分の屋敷にも泊めず、五日間観光につきあうだけで愚痴をこぼしまくっていたのである。いやー、ビッチだな。こういうエピソードが実に意地悪く、互いを引き立てあうように配置されている。

 また、この手の皮肉なストーリーだけなら他の監督でも撮れるかも知れないが、やはりアレン監督ならではと思わせるのは、ジャスミンのビッチぶり、そして夫アレック・ボールドウィンのうさんくささのデフォルメのさじ加減である。絶妙というしかない。ちょっとひいて見ると結構わざとらしいストーリーで、偶然都合の良い出来事が起きたりするし、決してリアリスティックではないのだが、その作り物っぽさ加減が逆に辛辣なユーモアとなり、洒落た軽みとなり、また映画全体にヴォードヴィル的な愉しさを醸し出しているのだ。これはまさにアレン監督のタッチがもたらすマジックである。

 そして、それに見事にこたえたケイト・ブランシェットの演技がまた素晴らしい。このアレン監督のカメラ越しには非常に自然でリアルに見える芝居ながら、実はわずかにデフォルメされている。ちょっとコメディ演技寄りではあるが、決してコメディ演技ではなく、濃厚な生々しさがある。もし彼女がコメディ演技に徹していたら、ラストのあのジャスミンのダイアローグの迫力は出なかっただろう。

 結局、虚飾と見栄の果てにはドツボしかないという、キビシクも滑稽なお話である。しかしそれをただ説明的に見せるのではなく、虚飾と見栄に魅入られた人間の恐ろしさを肌感覚で観客に知らしめるところが、この映画の凄みであり、アーティスティックな陶酔である。観客はジャスミンの愚かさを笑いながらも、自分の中にあるジャスミン的要素がズキンズキンうずくのを感じ、背筋が寒くなるに違いない。「勝ち組負け組」的マインドの人間をとことん嘲笑するが如き、容赦のない映画だ。

 それからもう一つ、先に書いたようにこの映画では現在と過去がシャッフルされており、その結果ジャスミンのセレブ生活がなぜ破綻したかという経緯は小出しにされるのだが、最後に、ある意外な真相が判明する。観客はあーそうだったのかと納得しつつ、更に背筋が寒くなる仕掛けだ。なんとも巧い。アレン監督の物語巧者ぶりが光る。



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2 コメント

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Unknown (尾崎杏子)
2017-01-14 16:43:44
初めまして。ブルー・ジャスミン、おもしろかったですねえ。私は映画館で観ましたが、映画館まで行った甲斐がありました。
ウディ・アレンらしくシニカルな物語で、笑えるけど悲惨なんですよね。ケイト・ブランシェットの演技はさすがです。
Unknown (ego_dance)
2017-01-18 12:02:50
はじめまして。この映画は映画館に出かけていく価値がありますね。すごく面白かったです。ラストシーンのケイト・ブランシェットは、なんだか顔がいびつなんですよね。こわいです。メイクもあるんでしょうけど。

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