アブソリュート・エゴ・レビュー

書籍、映画、音楽、その他もろもろの極私的レビュー。未見の人の参考になればいいなあ。

神津恭介、密室に挑む

2016-10-09 12:31:21 | 
『神津恭介、密室に挑む』 高木彬光   ☆☆☆★

 高木彬光のミステリ短篇集を再読。名探偵・神津恭介ものが六篇収録されている。タイトル通りどれも密室を扱っていて、不可能興味が横溢する短篇集となっている。色んなアイデアが盛り込まれていて悪くない。

 短篇それぞれの趣向にざっと触れると、「白雪姫」が殺人現場のまわりの雪に足跡がないといういわゆる「雪の密室」もの、「月世界の女」は「月の世界に戻る」といってホテルのロビーで消失してしまった女の話、「鏡の部屋」はいわくつきの鏡がある部屋で起きる密室殺人、「黄金の刃」は密室に加えて「おれが殺した」と豪語する男に鉄壁のアリバイがあるという事件、「影なき女」はまったく同じシチュエーションで三連続の密室殺人が起きるという複雑怪奇な事件、「妖婦の宿」は男に囲まれた小悪魔的な女が殺される事件、といった具合だ。どれもオカルトっぽい味付けがしてあるのが高木彬光風味なのだろうか。といっても横溝正史や江戸川乱歩のようなおどろおどろしさは全然なく、味付け程度なので、日本のミステリはその方が売れるというような商売上の理由かも知れない。
 
 トリックや意外性はまあまあで、ひとつひとつはそれほど飛びぬけたものでもないが、同じ密室でこれだけ色々な異なる仕掛けを考案するのは大変だろうし、不可能興味が連打されるので続けて読むとかなり満足感がある。「影なき女」と「妖婦の宿」が傑作として有名らしいが、個人的には「月世界の女」が好きである。殺人すら起きない小粒な事件だが、雰囲気も事件の顛末も洒落ている。かぐや姫がモチーフになっているのもロマンがあるし、展開は奇抜で、不可能興味は申し分ない。ミステリ・マニアが読めばすぐ仕掛けが分かるのかも知れないが、私はすっかり騙されてしまった。

 傑作と言われる「妖婦の宿」はまあまあだろうか。機械的トリックではなく心理の密室、と言われればまあその通りだが、このトリックはちょっと卑怯じゃないかと思うし、肝心のネタも途中でなんとなく分かってしまう。「影なき女」はものすごい不可能犯罪で、一体どういう結末になるのだろうと途方に暮れるが、謎解きはさすがに苦しい。無理やり感があってあんまり好きじゃない。謎やトリックは派手であればあるほどいいという人なら好きかも知れないが、私はトリックや謎の派手さには大して重きをおかない主義だ。

 ところで日本三大名探偵のひとり、と言われることもある神津恭介だが、やはり他の二人(明智小五郎と金田一耕助)に比べると印象が薄い。天才で眉目秀麗、女のような美貌の名探偵という設定だが、性格が優等生過ぎて面白味がない。愛嬌というものがなく、人間味が感じられない。初期の御手洗潔みたいに無理やり奇矯な性格にするのもどうかと思うが、これじゃ人間の厚みや奥行きというものがなさ過ぎである。だからワトソン役である松下との会話も面白くならない。

 天才で美貌の名探偵なんだから、いっそのこと男色者にしてしまえば面白いキャラになったかも知れない。『パタリロ』に出てくるバンコランみたいに。なんて書くとファンに怒られるんだろうな。

 


最新の画像もっと見る

コメントを投稿