アブソリュート・エゴ・レビュー

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女経

2016-12-12 22:15:24 | 映画
『女経』 増村保造/市川崑/吉村公三郎監督   ☆☆☆☆★

 日本版DVDで再見。「じょきょう」と読む。三話入ったオムニバスで、それぞれ若尾文子、山本富士子、京マチ子の三大女優と増村保造、市川崑、吉村公三郎の有名監督の組み合わせになっている。非常にゴージャス感があるオムニバスだ。三話それぞれのタイトルも「耳を噛みたがる女」「物を高く売りつける女」「恋を忘れていた女」と洒落ている。

 まず「耳を噛みたがる女」は若尾文子と川口浩という、他でもよく見かけるコンビのやり手のホステスと金持ちのぼんぼんの恋愛もの。若尾文子は平気で男を騙すドライなホステス役だが、金持ちのぼんぼんである川口浩だけには本気で惚れている。一方、川口浩はゲーム感覚で女を落とすプレイボーイで、結婚前夜の余興として若尾文子を落とそうとしている。騙す女が騙され、失意のまま恋が終わるかと思いきや、ぼんぼんの心境にある変化が訪れる…。

 悪くないが、若尾文子の金にがめついホステスという設定は『赤線地帯』と被っていて既視感があるし、川口浩のぼんぼんはあまりに軽薄で中身がない。最後、若尾文子のある意外なセリフでほろりとさせる「ちょっといい話」なのだが、それ以上のものはあまり感じられなかった。

 次の「物を高く売りつける女」はかなりシュールな雰囲気の作品。市川崑節が炸裂していて、京マチ子版の『鍵』に似た感じの奇妙な味の物語である。失踪した作家(船越英二)がとある海岸をさまよっていると、謎めいた女(山本富士子)に出会う。女は夫を亡くし、寂しい独り身で海岸の家に住んでいるという。作家が女の家を訪ねると、まるでがらんどうのような家に女は暮らしている。このつかみどころのない女に庇護欲を刺激された作家は、しまいには家を買うと言い出す…。

 前半は、山本富士子の不思議ちゃんキャラが炸裂。無表情、棒読みなセリフ、唐突でつかめない言動。とにかく妙な女である。誘惑してるんだかなんだか、よく分からない。家に上がって二人きりになってからは、気づまりなようなエロティックなような、不思議な雰囲気でクラクラさせる。勧められるがままに作家が風呂に入ると、いきなり自分も入ってくるところでクラクラは絶頂に達する。そして後半になるといきなりどんでん返し。山本富士子もガラッと変貌する。鮮やかで、小気味よく翻弄される。と思ったらラストでもうひとひねりあって、実は思いもよらない爽やかで可愛らしいエンディングを迎える。いいなあ、これ。オフビートなユーモア、不思議なエロス、ツイストが効いたプロット、独特の映像センスと、短いながら見どころはたくさんある。本当にお見事で、三作中ベストは文句なくこれである。

 最後の京マチ子主演篇は「恋を忘れていた女」。なんとなくタイトルから想像できる通りの話で、他の二作のようなミステリー風のひねりには欠けるが、その分しみじみした情緒でまとめ上げた正攻法の一篇である。京都で修学旅行専門の宿屋を経営するやり手の女主人が京マチ子で、結婚しようとしている親戚の娘に「男にのぼせるなんて馬鹿なことはやめろ」と忠告するような女である。彼女が色々なエピソードを経て気持ちを変化させていくさまを描くが、そのため短い時間の中で色々なことが起きる。親戚の娘の結婚相談をはじめ、宿に泊まった修学旅行中の生徒がケガをする、昔の男が会いたいと言ってくる、なじみ客のおやじ(中村鴈治郎)が言い寄ってくる、などだ。三作の中でもっとも細かいエピソードが詰め込まれた一篇だが、中村鴈治郎がちょい役で登場したりするのが贅沢。

 画面の構図もよく練られていて面白く、美術も俳優陣もしっかりしているので見ごたえがある。短いけれどもテレビドラマくさくなく、ちゃんと映画の風格がある。ただし、話のポイントがいまひとつ絞り切れていない印象があることと、最後橋の上にたたずんで感慨に浸る京マチ子の絵が予定調和的なのが気になる。まあ、きれいにまとまったという見方もできるかも知れない。

 やっぱり一番面白かったのは第二話だが、いずれも丁寧な脚本、映像、演技、演出で楽しませてくれる高品質な短篇映画である。きれいな女優を三人堪能できるのもお得だし、それぞれ持ち味が違う作品が並んでいるのがまた愉しい。

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