アブソリュート・エゴ・レビュー

書籍、映画、音楽、その他もろもろの極私的レビュー。未見の人の参考になればいいなあ。

World Live '88

2017-05-02 23:33:37 | 音楽
『World Live '88』 カシオペア   ☆☆☆☆☆

 最近買ったカシオペアのCD。88年のライヴ音源だが、神保・櫻井のリズム隊脱退が89年なので、いわゆるカシオペア第一期終焉直前のライヴということになる。カシオペアはメンバーを変えながら今も存続している(現在は第三期)わけだが、やはり神保・櫻井込みのカシオペアこそが真正カシオペアだったと考えるファンは多いだろうし、私もそう思う。そういう意味で、このライブCDにはカシオペア黄金期最後のきらめきが収められていると言っていいだろう。

 ただそれにしては、このCDはマイナーである。第一期カシオペアが残したライブ音源は『Thunder Live』『Mint Jams』『Live』そしてこの『World Live '88』と四つあるが、その中でもっともマイナーなのは間違いなくこれだ。出来が悪いんだろうかと思ったが、聴いてみるとそんなことはない。いつものようにゴキゲンな演奏である。おそらく、有名曲や人気曲があまり入っていないことがマイナーな理由だろう。今ではボーナストラックとして「HALLE」「ASAYAKE」が入っているが、これがないと私程度のファンにとっては知らない曲ばかりである。

 が、繰り返すが演奏はいい。第一期メンバーの最終段階とあって四人の一体感は凄まじく、タイトな上にタイトな、針の穴をも通す精密かつ力強い演奏は文句のつけようがない。まさにキレッキレの演奏である。そして、私のようにリズム隊に注目するリスナーにとって嬉しいのは、櫻井のベースの饒舌さである。ライヴというのはやればやるほど遊びが増えていくものだが、ここで聴ける「ASAYAKE」のベースラインは初期のスタジオ・バージョンから大きく変化し、饒舌になり、もはやAメロ部分でもバキバキいわせまくっている。メッチャ快感である。それから人気曲「HALLE」をちゃんと聴いたのは初めてだったが、爽快感のあるメロディが美しく、やはり快感である。

 お約束のドラムソロ・ベースソロももちろんあり、これがまた凄い。「Magnetic Vibration」の中で短いドラムとベースの掛け合い(というかリズム隊だけの演奏)があり、「Supersonic Movement」の中であらためてドラムソロとベースソロがある。いずれも『Mint Jams』『Live』とはまた違って非常にアクレッシヴな、豪速球を投げこむようなソロで、内容的に引けを取らないどころかこっちの方が上じゃないかとすら思う。とにかくすごい迫力だ。フレーズも全然違うし、少なくとも櫻井のファンは必聴である。

 もう一つ、本ディスクの大きな特徴はブラスセクションが入っていることである。これはおそらく好みによって賛否が分かれるだろう。ゴージャス感はあるが、カシオペアの持ち味である精悍でシャープな演奏を味わいたい向きにとっては、夾雑物がない四人だけの演奏の方が好ましいかも知れない。が、どっちにしろオマケ程度なので大勢に影響はない。私としてはなくてもいいが、あっても気にはならないレベルである。

 さて、この翌年に神保と櫻井のリズムセクションが抜けるわけだが、最初に書いた通り、この二人がいた頃がカシオペアの絶頂期だったというファンは多い。この二人が抜けてカシオペアを聴かなくなったという人も結構いるようだ。私もそれに同意なわけだが、これはバンドのケミストリーというか魅力というものの不思議さを示す好例だと思う。その後に加入した日山・鳴瀬のコンビも決してヘタではなく、ベースの鳴瀬などカシオペア以上のベテランであり、日本を代表するベーシストである。テクニック的には申し分ないし、アグレッシヴなプレイではむしろ櫻井以上だ。が、カシオペアというバンドの中に置くと明らかに劣るのである。劣るというのが適切でないなら、魅力が減退すると言ってもいい。なぜだろうか。

 もちろんプレイヤー同士の相性というものがある。ノリの方向性が一緒か違うかということで、たとえば野呂と神保の疾走感溢れるノリはぴったりだったというような意見をネットでよく見かける。が、ノリが違う者同志が一緒にやることによって醸し出される魅力というものもあるので、必ずしもこれだけで魅力の減退は説明できない。私が思うに、初期カシオペアの魅力とは神経質なまでの緻密さであり、カッチリした潔癖症であり、それらが必然的に生み出すアンサンブルの、まさに針の穴を通すばかりのスリルだったと思う。どんなにゆったりした曲をやっても、全員がひとつの音符を8分の1か16分の1ぐらいに分割し、狙い定めて音を出しているような感じがするのだ。この研ぎ澄まされた緻密な緊張感に触れた時、リスナーはああカシオペアだなと思う。

 そして、この感覚を感じさせる点において、神保・櫻井コンビの方が日山・鳴瀬コンビより、あるいはその後の熊谷・鳴瀬コンビ、神保・鳴瀬コンビよりも上なのである。だからと言ってそれは必ずしも櫻井の方が鳴瀬より優れたベーシストだということを意味せず、演奏する音楽のタイプによっては鳴瀬の方がいいということが当然あり得る。が、ことカシオペアの音楽に限っては、神保・櫻井のリズムセクションが最適だったし、魅力を最大限に引き出せていた。このライヴ音源を聴くとつくづくそう思う。
 
 まあそんなわけで、これはその神保・櫻井込みのカシオペアの輝きを堪能できる第四のライヴ音源であり、ファンなら決して見逃せない一枚と言えるだろう。

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