ある地方の小さな町に僕は居た。安い旅館に泊まっていた僕は夜になって外に出た。辺りに繁華街などはなく、暗く静かな街並みだった。すれ違う人もなく、僕はのんびりと初めて訪れる土地の空気を吸いながら歩いていた。やがて一軒の赤ちょうちんが目に入った。僕はお店に入った。古ぼけた小さなカウンターに地元の常連らしきオジさん2人組が酔っ払いながらおシャベリしていた。カウンターの中には60代位と思われる店主とバイトらしき女の子が働いていた。僕はカウンターの隅に座り、日本酒を注文した。お店のテレビは何やら番組を写し出していた。まるで時間が止まっているかのような雰囲気の中、僕はフーっとした気分でいた。やがてオジさんたちは機嫌良さそうに帰っていった。一人だけになってしまった僕は静かに何杯目かを呑んでいた。お店の人は特に僕に気を使うこともなく、僕も特に話しかけることもなく…その雰囲気が何故か心地良かった。そのうちテレビはドラマを写しだしていた!僕は一瞬ハッとなった。その番組は以前出演したドラマの再放送だった。「ワッ、俺が写ってる。俺がしゃべってる。」僕はグラスの方に目をやりながら呑んでいた。テレビを観ていた店主とバイトの子はチラチラと僕の方を見始めた。そして店主が初めて話しかけてきた。「あのう、テレビの人、お客さんですよね。」「えぇ。」その会話をキッカケに3人はなごやかにシャベリ出した。店主もバイトの子も呑みながら素朴で温かく楽しい時間が流れた。12時閉店のはずが、気がつくと2時を回っていた。僕は別れの挨拶をしてお店を出た。「あ~ぁ、いい時間だった…」するといきなり後ろから声がした。「また来て下さい!絶対また来て下さいね!」振り向くとそのバイトの子だった。彼女は僕に向かってずっと手を振っていた。愛らしい笑顔だった…。あのお店はまだあるのだろうか?64歳だったあの大将は元気でいるだろうか?レモンサワーの好きだったミカちゃんは元気でいるだろうか?
何年も行っておらず、もう一度行ってみたいと思うお店が全国に何軒かある。そんなお店を巡る旅をしてみたい。
何年も行っておらず、もう一度行ってみたいと思うお店が全国に何軒かある。そんなお店を巡る旅をしてみたい。