ってなわけで、また一時間ちょっとくらいでぱぱっと書いてみました。
今回の出演メンバーは、←この人と←この人。それからこの間のお返しとしてこのお方にご出演いただきました。例の如く無許可だけど、ごめんなさい!(お前
**********
「うちなぁ、前からずっと思とることが一つあんねん」
蒼い髪の女が、なんとも残念そうに呟く。
「何を?」
カウンターには、黒い髪と白い髪の女が二人。お猪口を傾けつつ、黒い髪の女が聞き返す。
「うちって、ホンマはモテモテちゃうんやろうか、って」
「それはいいことじゃないか。些か自意識過剰が過ぎる気もするがな」
笑いを含んで答える女に、彼女は溜息一つ。
「人間やったらそれでもえぇわ。問題は、人間以外に…っちゅうところやし」
溜息の先には、変わらず瞳を閉じたままの白い髪の女がいた。
「それは災難なことで…一つ滅すれば問題もないのでは?」
白い女が、刺身へと箸を伸ばしながらそんなことを言う。脂ののった極上の鰤を口へと運ぶ彼女に、また一つ。
「当の本人がよぅ言うわ」
蒼い髪の女と、白い髪の女。
二人の出会いは、半月ほど前になる。
片や居酒屋の看板娘(というには年齢が行き過ぎているのだが、見た目は若い)にして退魔士。片やマフィアの頭目。恐らくは、探せば二人に関する情報など、その世界では幾らでも出てくるだろう。要するに、その筋では有名な二人。
出会った瞬間に悟った、決して相容れぬお互いの関係。
人と妖、退魔士と魔人、護ろうとする者と滅ぼそうとする者。友峨谷涼香とパティ・ガントレット。
昔であれば何処か似ていた二人ではあるが、今は何から何まで正反対。共通することといえば、女であることくらいのもの。
下手をすれば、出会った瞬間にお互いの首が飛んでいそうな、そんな関係。当然の様に出会った二人は、当然の様に斬り結びあい、当然の様に別れた。
その二人が、あの日出会った居酒屋で、再び対峙していた。
あの日との違いといえば、涼香の親友である恵那がその場にいたことくらいだろう。親友である彼女は、親友であるがゆえに看板を下ろしても堂々と入り込んでくる。医者である以上、中々時間に自由がないというのが彼女の言い分ではあるのだが、涼香からすればいい迷惑である。
そんな二人が看板を下ろした店内で賑やかにやっていたところに、パティは再び現れた。あの日と同じように、まるでその時間を狙いすましたかのように。
「…もう看板なんやけど?」
一瞬ではあったが緊張を隠そうともしなかった涼香を見て、恵那は全てを悟った。非現実的なものを信じない彼女ではあるが、涼香のやっていることはよく知っている。二人の出会いも、やはりこういう場面だったのだから。
そして、恵那はふと笑い言った。
「いいじゃないか、私もいるんだし。今更一人くらい増えたところで問題もないだろう」
そうして、歪な時間が過ぎていく。
まるでお互いに真剣を喉元に当てあいながら酒を酌み交わすようなおかしな時間。
油断はない。あるのは恐らく、お互いに殺気のみ。
それでも三人は笑いながら、酒を酌み交わす。まるで長年の親友の様に、身を刺す殺気すらも酒の肴と言わんばかりに。そして恵那は、そんな二人を眺めながらまた小さく笑う。
大きく、時計が三つ鳴った。時はまさに丑三つ時、いわば彼女達にとっての時間。
「ほな、いこか」
「そうですね」
「どうでもいいが、やりすぎるなよ」
交わす言葉は、最低限。
* * * * *
舞いの舞台となったのは、以前と同じ小さな公園。この時間帯、通りかかる人もいない。
言葉はなかった。余計な言葉を交わすくらいなら、剣を交わしたほうがいい。
前回の戦いで、二人の間には決定的な違いしかないことは分かりきっている。ならば、それ以外のものは不要。静寂と闇が支配する観客のいない舞台で、二人の舞いが激しさを増していく。
一つ、剣を斬り結び。
二つ、拳を重ねた符で受け止め。
三つ、放たれた雷を開いた瞳が殺す。
抜き身の二人が交わす一合一合は、全てが一撃で相手を屠ることが可能な煌き。それゆえに、例えようもないほどに美しい。
恵那は、少しでも近付けば自分自身が鱠きりとなりそうなその演舞を見つめる。今まで見たどのようなミュージカルよりもリズミカルで感動的なその演舞は、一種の芸術とも言えた。
軽い金属音を響かせて、二人は距離をとる。
「今日は目をあんま開かへんのやな?」
「えぇ、前回でネタがバレていますから♪」
何処か楽しそうな響きを秘めながら、パティは小さく拳を構える。その一撃はよく覚えている。恐らくは何よりもパティが信じる、己が身を振るうまさに一撃必殺の拳。それを今まで防ぎきってきたのは、彼女自身の技量と経験に他ならない。
「最後の最後まで、必要ならば切らない。下手をすればただの捨て札にもなる。ゆえに、切り札。違いますか?」
「あぁ、全く持って同感や」
低く構える魔人を前に、真紅の刀身が魔人の肉を欲して震える。それを正中線に構えながら、涼香は笑う。
「自分とうち、変なところで似とるわ」
「えぇ、そう思います」
パティも笑っていた。恐らくは次の一撃で決まるであろうその勝負を、名残惜しむかのように。
そして、拳が爆ぜた。
この世の暴力全てを体現したかのようなその一撃。光のような、という言葉があるなら、まさにそれを現す一撃。
展開された銃弾どころか爆撃ですら防ぎきる符の防護壁を超えて、全てを破壊しつくす拳が涼香を襲う。
拳が着弾し、全ては決した。そう思われたその瞬間、
(違う、何かがくる…!)
勝者たるパティの全感覚が、そう叫びを上げた。
ビキリと、骨が軋む音。涼香を吹き飛ばすべき拳は、その脇腹のところで止まっていた。
その音、その感覚。恐らくは肋骨が数本折れたはず。
しかし、その程度のはずがない。本来ならば、涼香の全身すら消し去るほどのものだ。
「ざーんねーん…」
拳の前に、十数枚の符が重なっていた。
「あれは目隠し…」
そこでパティは理解する。事前に展開された防護壁は、その実目くらましであったことを。拳が防護壁を破るその刹那、涼香は着弾点に持っていた全ての符を重ねて受け止めて見せたのだ。
素晴らしき機転と反応。それは、パティを驚かせるに足るものだった。しかしそれでも殺しきれなかった威力は、涼香へ確実にダメージを与えている。このまま続ければ、程なくして涼香は倒れるだろう。
負けは必須。しかし、それでも涼香は笑う。
「今度はうちの切り札見せたるわ…!」
涼香の金色の瞳が揺らぐ。禍々しい月を思わせる光が、その瞳に宿る。
まずい、まずい、まずい!
本能がそう告げる。
恐らくは『切り札』が発動するのは一瞬だ。そう、自分の瞳と同じように。
似ている。彼女はそういった。それはつまり、そういう意味だったのか!
残された余裕は、僅か刹那の瞬間。拳を引いている時間などない。そう、そんなことをしている暇などない。
本能が叫ぶままに、パティはその足で大地を蹴る。それと同時に、涼香の『切り札』が発動した。
弱点がないわけではない。寧ろ使えば使うほど、そのデメリットは顕著となる。
だが、それを補って余りあるその威力。ゆえにジョーカー、ゆえに切り札。
誰がその瞳をそう言ったのか。人の身には決して宿らぬ、その異形の瞳を。
多くのものをかなぐり捨ててまで手に入れたそれは、発動するたびに嗤いながらこう呟く。
曲がれ曲がれ、狂狂(くるくる)と。
曲げる曲げる、狂狂と。
さればその眼、凶り眼(まがりめ)也。
そして、螺旋が荒れ狂う…!
グチャ、バキ、メキャ…。
先ほどの骨が鈍く折れる音とは違う、まるで全てを折りながらそれでもさらに折り続けるような嫌な音。
「…はっ、あの状況でよぅそれだけで済ませられたなぁ…」
ふらつき、涼香は紅蓮を地へと刺して身体を支えた。
呼吸が荒い。瞳が霞む。眼を使った代償として内部から発せられる痛みに、すぐにでも嘔吐しそうになる。
それを必死に我慢して、その瞳をそこへと向けた。
「なるほど、それが貴女の…」
そこには、変わらず佇む白い髪の女。しかし、彼女の右足は、まるでそのまま何かに轢かれ続けたかの如く、もはや原形をとどめないほどに変形していた。引き千切れていないいないことがおかしく思えるほどに、ただ無残に。
「…で、どないする? うちとしてはこのまま痛み分けで終わってほしい訳なんやけど…」
ふらつきながら、涼香は言った。とてもではないが、お互い戦えるような状態ではない。
「私としては、このまま続けてもよいのですが…」
「それは勘弁。やって…」
一旦言葉を切って、涼香は振り返った。
「…そこの女医さんが、マジギレしそうやから」
そこには、これ以上はないというほど笑顔を浮かべた恵那が立っていた。
* * * * *
「言っただろうが、やりすぎるなと」
「ごめんごめん、ついやりすぎてもぅていたたたたたた」
反省の色が見えない彼女の脇腹を、恵那は軽く叩いてカルテを書いていく。
「大体私の前であの眼を使うとはいい度胸をしているな、ん?」
「せやからごめんて言ぅとるの痛い痛いってぇ!」
三人がいるのは、白い壁に区切られた一室。恵那の経営する病院の一室だった。
二人を問答無用で急患として運んだ彼女は、看護師たちに言って自分だけで治療を施していた。
涼香は兎も角、パティは人間ではない。しかし、そんな彼女でも関係なく恵那は治療を行っていた。曰く、
「目の前に怪我人がいるのに、放って置くほど医者として腐っていない。それが人間でなくとも、だ」
治療が終わり、二人が病院を出る頃には既に朝日が昇っていた。
「いやーえぇ朝やなぁ」
「全く。いい朝です」
そんなことを言う二人はボロボロだった。パティにいたっては松葉杖をついている。
彼女自身は松葉杖は使わないといったのだが、恵那にこう言われたのだ。
『入院するかそれをつくか。どちらがいい?』
有無を言わせぬ、とはまさにこのことだろう。結局パティは松葉杖を選んだ。入院もそれはそれで面白そうだったのだが、彼女もそれほど暇ではない。それに、この病院では恵那に勝てるものはいない。それは涼香であっても、パティであっても例外ではない。まさに最強なのだ。単純な強さという意味ではなく、他の色々な意味で。
「さぁて、帰るかぁ…」
「そうですね。それでは」
夜までのことは何もなかったかのように、二人は別々の道を歩み始めた。
と、涼香が歩みを止め、振り返る。
「今度はちゃんと勘定払ったってや」
それに、パティも振り返って答えた。
「えぇ、殺し合いにならなければ♪」
肩を一つ竦めて、二人は歩き始める。
「それやったら、一生あんたツケっぱなしやん」
そんな呟きを残して。次に出会うときは、また殺しあうことを約束して、二人は別れたのだった。
**********
無茶苦茶でもあまり気にしないでくださいませ。所詮妄想の産物さ!(笑
っていうか、パティさんの右足無茶苦茶にしちゃってごめんなさい…(土下座
今回の出演メンバーは、←この人と←この人。それからこの間のお返しとしてこのお方にご出演いただきました。例の如く無許可だけど、ごめんなさい!(お前
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「うちなぁ、前からずっと思とることが一つあんねん」
蒼い髪の女が、なんとも残念そうに呟く。
「何を?」
カウンターには、黒い髪と白い髪の女が二人。お猪口を傾けつつ、黒い髪の女が聞き返す。
「うちって、ホンマはモテモテちゃうんやろうか、って」
「それはいいことじゃないか。些か自意識過剰が過ぎる気もするがな」
笑いを含んで答える女に、彼女は溜息一つ。
「人間やったらそれでもえぇわ。問題は、人間以外に…っちゅうところやし」
溜息の先には、変わらず瞳を閉じたままの白い髪の女がいた。
「それは災難なことで…一つ滅すれば問題もないのでは?」
白い女が、刺身へと箸を伸ばしながらそんなことを言う。脂ののった極上の鰤を口へと運ぶ彼女に、また一つ。
「当の本人がよぅ言うわ」
蒼い髪の女と、白い髪の女。
二人の出会いは、半月ほど前になる。
片や居酒屋の看板娘(というには年齢が行き過ぎているのだが、見た目は若い)にして退魔士。片やマフィアの頭目。恐らくは、探せば二人に関する情報など、その世界では幾らでも出てくるだろう。要するに、その筋では有名な二人。
出会った瞬間に悟った、決して相容れぬお互いの関係。
人と妖、退魔士と魔人、護ろうとする者と滅ぼそうとする者。友峨谷涼香とパティ・ガントレット。
昔であれば何処か似ていた二人ではあるが、今は何から何まで正反対。共通することといえば、女であることくらいのもの。
下手をすれば、出会った瞬間にお互いの首が飛んでいそうな、そんな関係。当然の様に出会った二人は、当然の様に斬り結びあい、当然の様に別れた。
その二人が、あの日出会った居酒屋で、再び対峙していた。
あの日との違いといえば、涼香の親友である恵那がその場にいたことくらいだろう。親友である彼女は、親友であるがゆえに看板を下ろしても堂々と入り込んでくる。医者である以上、中々時間に自由がないというのが彼女の言い分ではあるのだが、涼香からすればいい迷惑である。
そんな二人が看板を下ろした店内で賑やかにやっていたところに、パティは再び現れた。あの日と同じように、まるでその時間を狙いすましたかのように。
「…もう看板なんやけど?」
一瞬ではあったが緊張を隠そうともしなかった涼香を見て、恵那は全てを悟った。非現実的なものを信じない彼女ではあるが、涼香のやっていることはよく知っている。二人の出会いも、やはりこういう場面だったのだから。
そして、恵那はふと笑い言った。
「いいじゃないか、私もいるんだし。今更一人くらい増えたところで問題もないだろう」
そうして、歪な時間が過ぎていく。
まるでお互いに真剣を喉元に当てあいながら酒を酌み交わすようなおかしな時間。
油断はない。あるのは恐らく、お互いに殺気のみ。
それでも三人は笑いながら、酒を酌み交わす。まるで長年の親友の様に、身を刺す殺気すらも酒の肴と言わんばかりに。そして恵那は、そんな二人を眺めながらまた小さく笑う。
大きく、時計が三つ鳴った。時はまさに丑三つ時、いわば彼女達にとっての時間。
「ほな、いこか」
「そうですね」
「どうでもいいが、やりすぎるなよ」
交わす言葉は、最低限。
* * * * *
舞いの舞台となったのは、以前と同じ小さな公園。この時間帯、通りかかる人もいない。
言葉はなかった。余計な言葉を交わすくらいなら、剣を交わしたほうがいい。
前回の戦いで、二人の間には決定的な違いしかないことは分かりきっている。ならば、それ以外のものは不要。静寂と闇が支配する観客のいない舞台で、二人の舞いが激しさを増していく。
一つ、剣を斬り結び。
二つ、拳を重ねた符で受け止め。
三つ、放たれた雷を開いた瞳が殺す。
抜き身の二人が交わす一合一合は、全てが一撃で相手を屠ることが可能な煌き。それゆえに、例えようもないほどに美しい。
恵那は、少しでも近付けば自分自身が鱠きりとなりそうなその演舞を見つめる。今まで見たどのようなミュージカルよりもリズミカルで感動的なその演舞は、一種の芸術とも言えた。
軽い金属音を響かせて、二人は距離をとる。
「今日は目をあんま開かへんのやな?」
「えぇ、前回でネタがバレていますから♪」
何処か楽しそうな響きを秘めながら、パティは小さく拳を構える。その一撃はよく覚えている。恐らくは何よりもパティが信じる、己が身を振るうまさに一撃必殺の拳。それを今まで防ぎきってきたのは、彼女自身の技量と経験に他ならない。
「最後の最後まで、必要ならば切らない。下手をすればただの捨て札にもなる。ゆえに、切り札。違いますか?」
「あぁ、全く持って同感や」
低く構える魔人を前に、真紅の刀身が魔人の肉を欲して震える。それを正中線に構えながら、涼香は笑う。
「自分とうち、変なところで似とるわ」
「えぇ、そう思います」
パティも笑っていた。恐らくは次の一撃で決まるであろうその勝負を、名残惜しむかのように。
そして、拳が爆ぜた。
この世の暴力全てを体現したかのようなその一撃。光のような、という言葉があるなら、まさにそれを現す一撃。
展開された銃弾どころか爆撃ですら防ぎきる符の防護壁を超えて、全てを破壊しつくす拳が涼香を襲う。
拳が着弾し、全ては決した。そう思われたその瞬間、
(違う、何かがくる…!)
勝者たるパティの全感覚が、そう叫びを上げた。
ビキリと、骨が軋む音。涼香を吹き飛ばすべき拳は、その脇腹のところで止まっていた。
その音、その感覚。恐らくは肋骨が数本折れたはず。
しかし、その程度のはずがない。本来ならば、涼香の全身すら消し去るほどのものだ。
「ざーんねーん…」
拳の前に、十数枚の符が重なっていた。
「あれは目隠し…」
そこでパティは理解する。事前に展開された防護壁は、その実目くらましであったことを。拳が防護壁を破るその刹那、涼香は着弾点に持っていた全ての符を重ねて受け止めて見せたのだ。
素晴らしき機転と反応。それは、パティを驚かせるに足るものだった。しかしそれでも殺しきれなかった威力は、涼香へ確実にダメージを与えている。このまま続ければ、程なくして涼香は倒れるだろう。
負けは必須。しかし、それでも涼香は笑う。
「今度はうちの切り札見せたるわ…!」
涼香の金色の瞳が揺らぐ。禍々しい月を思わせる光が、その瞳に宿る。
まずい、まずい、まずい!
本能がそう告げる。
恐らくは『切り札』が発動するのは一瞬だ。そう、自分の瞳と同じように。
似ている。彼女はそういった。それはつまり、そういう意味だったのか!
残された余裕は、僅か刹那の瞬間。拳を引いている時間などない。そう、そんなことをしている暇などない。
本能が叫ぶままに、パティはその足で大地を蹴る。それと同時に、涼香の『切り札』が発動した。
弱点がないわけではない。寧ろ使えば使うほど、そのデメリットは顕著となる。
だが、それを補って余りあるその威力。ゆえにジョーカー、ゆえに切り札。
誰がその瞳をそう言ったのか。人の身には決して宿らぬ、その異形の瞳を。
多くのものをかなぐり捨ててまで手に入れたそれは、発動するたびに嗤いながらこう呟く。
曲がれ曲がれ、狂狂(くるくる)と。
曲げる曲げる、狂狂と。
さればその眼、凶り眼(まがりめ)也。
そして、螺旋が荒れ狂う…!
グチャ、バキ、メキャ…。
先ほどの骨が鈍く折れる音とは違う、まるで全てを折りながらそれでもさらに折り続けるような嫌な音。
「…はっ、あの状況でよぅそれだけで済ませられたなぁ…」
ふらつき、涼香は紅蓮を地へと刺して身体を支えた。
呼吸が荒い。瞳が霞む。眼を使った代償として内部から発せられる痛みに、すぐにでも嘔吐しそうになる。
それを必死に我慢して、その瞳をそこへと向けた。
「なるほど、それが貴女の…」
そこには、変わらず佇む白い髪の女。しかし、彼女の右足は、まるでそのまま何かに轢かれ続けたかの如く、もはや原形をとどめないほどに変形していた。引き千切れていないいないことがおかしく思えるほどに、ただ無残に。
「…で、どないする? うちとしてはこのまま痛み分けで終わってほしい訳なんやけど…」
ふらつきながら、涼香は言った。とてもではないが、お互い戦えるような状態ではない。
「私としては、このまま続けてもよいのですが…」
「それは勘弁。やって…」
一旦言葉を切って、涼香は振り返った。
「…そこの女医さんが、マジギレしそうやから」
そこには、これ以上はないというほど笑顔を浮かべた恵那が立っていた。
* * * * *
「言っただろうが、やりすぎるなと」
「ごめんごめん、ついやりすぎてもぅていたたたたたた」
反省の色が見えない彼女の脇腹を、恵那は軽く叩いてカルテを書いていく。
「大体私の前であの眼を使うとはいい度胸をしているな、ん?」
「せやからごめんて言ぅとるの痛い痛いってぇ!」
三人がいるのは、白い壁に区切られた一室。恵那の経営する病院の一室だった。
二人を問答無用で急患として運んだ彼女は、看護師たちに言って自分だけで治療を施していた。
涼香は兎も角、パティは人間ではない。しかし、そんな彼女でも関係なく恵那は治療を行っていた。曰く、
「目の前に怪我人がいるのに、放って置くほど医者として腐っていない。それが人間でなくとも、だ」
治療が終わり、二人が病院を出る頃には既に朝日が昇っていた。
「いやーえぇ朝やなぁ」
「全く。いい朝です」
そんなことを言う二人はボロボロだった。パティにいたっては松葉杖をついている。
彼女自身は松葉杖は使わないといったのだが、恵那にこう言われたのだ。
『入院するかそれをつくか。どちらがいい?』
有無を言わせぬ、とはまさにこのことだろう。結局パティは松葉杖を選んだ。入院もそれはそれで面白そうだったのだが、彼女もそれほど暇ではない。それに、この病院では恵那に勝てるものはいない。それは涼香であっても、パティであっても例外ではない。まさに最強なのだ。単純な強さという意味ではなく、他の色々な意味で。
「さぁて、帰るかぁ…」
「そうですね。それでは」
夜までのことは何もなかったかのように、二人は別々の道を歩み始めた。
と、涼香が歩みを止め、振り返る。
「今度はちゃんと勘定払ったってや」
それに、パティも振り返って答えた。
「えぇ、殺し合いにならなければ♪」
肩を一つ竦めて、二人は歩き始める。
「それやったら、一生あんたツケっぱなしやん」
そんな呟きを残して。次に出会うときは、また殺しあうことを約束して、二人は別れたのだった。
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無茶苦茶でもあまり気にしないでくださいませ。所詮妄想の産物さ!(笑
っていうか、パティさんの右足無茶苦茶にしちゃってごめんなさい…(土下座
実に近いですね、隠し能力。
眼で螺旋に曲げる。実はよく似た能力を知っているのですがいわないほうがよかんべかなあ……。
足だけで済ませてくださってありがとうございます。
「なるほど、これはいい人間です。
あなたのような方がいればこそ、この帝都もまだすてたものではない。
わたくしを屠るとは、つまりそういうこと。
『人の敵を調伏する』まさにわたくしの目的そのものです。
人が人の知恵と勇気で脅威を克服する、それが真の姿。あなたは『それ』で、わたくしはその『敵』。
何となれば、わたくしなど用無しなのやもしれません、ね♪」
似たような人がいるなら、教えていただきたいような秘密にしておいてほしいような(どっち
「そらまぁうちは生粋の人間やし。
自分と違ぅてちょっとしたことで死んでまうからなぁ。色々知恵絞らんとあかんわけよ。
まぁそういうことやから、ある程度数減らすのは頑張ってやーそれまでは用なしとか言わんし。
つーかツケ払ってもらわんとあかんからな」