江戸前ラノベ支店

わたくし江戸まさひろが書いた中二マインド溢れる小説の置き場です。

斬竜剣外伝・赤髪のセシカ-第29回。

2016年10月13日 23時32分00秒 | 斬竜剣
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-遺る物-

「──こうして、セシカは私の部下になったのよ」
「あっ、ハイ」
 得意げな調子で長々と語られていたシグルーンの思い出話はついに終わりを迎え、それをぼんやりと聞き流していたフラウヒルデとアイゼルンデは、居住まいを正した。
 何故、彼女達がシグルーンの昔話に付き合っているのかというと、2人が図書室でセシカの伝記を読んでいた所をシグルーンに見つかってしまい、結局は押しつけられるように直接昔話を聞かされることになってしまった為だ。
 それから約5時間が経過しており、子供達の集中力はとっくの昔に尽きていた。頻繁に脱線を繰り返し、なかなか話の本筋が進まない昔話を延々と聞かされるという、ある種の拷問を受け続けてダレ切っていた子供達も、昔話に集中していたシグルーンの意識がこちらに向いた以上、しっかりと相手をしなければ不興を招きかねない。
(本当に年寄りは昔話が長くて困る……!)
 そんな子供達の内心のウンザリ感を知ってか知らずか、シグルーンは──、
「ここまででが、全30章の内の第1章って所ね」
 衝撃の発言。
「そ、それはまた後ほどにしましょう! そろそろ夕食時ですし!」
 必死にこれ以上シグルーンに語らせまいとする子供達であった。
「え~、これからセシカは私が作った義手で大活躍するのに……」
「……その義手、砲弾のように撃ち出せたりするのですよね?」
「なんで分かったの?」
 フラウヒルデの半ば冗談であって欲しいという願いを込めたツッコミは、無情にも的中した。まあ、シグルーンの性格を考えると、別に意外でも何でもないが。
(玩具にされているじゃないですか、セシカ様……)
 子供達はセシカの気苦労を想うと同情せずにはいられなかった。そしてだからこそ、偉大な先人への尊敬よりも、親近感の方が先立つ。
「なんだか他人事とは思えませんわね……。さすが我がご先祖様」
 どちらかといえば苦労を背負い込む性質のアイゼルンデは、確かにセシカの血が自らの身体の中にも流れていることを実感するのであった。
「ああ、でも、アイゼはどちらかというとリリィに似ているわよ?」
「は? どういうことですか、それは?」
 シグルーンの言葉にアイゼルンデは怪訝な表情となった。
「だってリリィの娘とセシカの息子が結婚しているし……。つまり、リリィもあなたのご先祖様ってこと」
「そうだったのですか!?」
 完全に初耳となる新事実に子供達は驚愕した。そして、歴史の中には書物にも残らない事実が沢山隠されているのだということを知った。
「リリィもセシカの副官として、一生涯私に仕えてくれた腹心の1人だったわ」
「へ~」
 シグルーンの昔話は長く、それを聞くのは苦行のような部分もあるが、その一方では直接歴史を見て来た者にしか分からない情報も多く含まれている。結果的に、それらの事実を知ることが出来て良かったと子供達は思う。
 そしてシグルーンも、自らの昔話で子供達が喜んでくれるのならば、それは嬉しい。そして彼女達のような存在がいるからこそ、今の自分自身を保っていられるのだと思う。
(これもセシカのおかげかしらね……)
 と、シグルーンは遠い日のセシカの姿に想いを馳せた。

 薄暗い部屋のベッドの上で、彼女は身を横たえていた。その呼吸は浅くて速い。やや苦しげである。
 だが、それも当然。彼女はかなりの高齢であり、その寿命も残り少なくなっていたのだから。かつての燃えるような赤毛も今や完全に白髪と化して見る影もない。
「あ~……左手の古傷がしんどい……。そろそろリリィがお迎えに来ましたかねぇ……」
「セシカ……そういうことは言わないの……」
 セシカの弱気な発言を、ベッドの脇に座るシグルーンが窘めた。しかし、1年前に仲の良かったリリィが老衰で亡くなって以来、セシカは目に見えて弱って行った。そもそも、彼女はリリィよりも10歳近く年上であり、年齢的にはいつ何があってもおかしくない老体になっている。
 シグルーンもそれは承知していた。それにセシカとはもう70年近い付き合いだ。彼女が弱気な発言をするということは、本当にそう思っているであろうことも分かる。
 だからこそシグルーンもここにいる。セシカの最期を見届ける為に──。


 次回へ続く(※更新は不定期。更新した場合はここにリンクを張ります)。
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