プロメテウスの政治経済コラム

プロメテウスは人間存在について深く洞察し、最高神ゼウスに逆らってまで人間に生きる知恵と技能を授けました。

平和的生存権・共存権―憲法前文の世界史的意義

2006-01-30 18:58:48 | 政治経済
1月27日静岡地裁で自衛隊イラク派遣違憲差し止め訴訟の第六回口頭弁論が開かれ、原告側証人として、山内敏弘・一橋大学名誉教授が証言を行いました。原告が憲法が定める「平和的生存権」の侵害を理由に自衛隊派遣差し止めを求める主張には具体的権利侵害から保護されるに値する利益が存在すると証言しました。
山内氏は、平和的生存権について「狭義では、平和のうちに生存する権利を意味し、広義では戦争または戦争の脅威にさらされることなく、諸々の人権を享受する権利」との見解を表明し、とくに狭義の平和生存権は「憲法13条が保障する生命権(人格権)の一種として具体的権利性、裁判規範性をもつ」と指摘。「自衛隊が具体的にイラクに出兵して戦争加担行為を行い、その結果として日本国民もテロの脅威にさらされている。そこには、具体的な権利侵害あるいは少なくとも法律によって保護されるに値する利益が存在する」「生命は現実にそれが奪われてからでは回復不能。未然に生命の危険のよってきたる原因を取り除くことが必要」で差し止め請求には訴えにたる法益があるとしました。
日本国憲法は、日本人だけでなく「全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免れ、平和のうちに生きる権利を有する」と、誰にも「平和的生存権・共存権」があることを認めています。日本国憲法の前文には、憲法制定の歴史的経緯や理由はもちろん、それにたいする国民の決意とその中身、憲法全体をつらぬく基本精神まで詳細にのべられています。「平和的生存権」のように、条項には、具体的な規定のない重要なことまで書きこまれています。こういう前文をもつ憲法は日本の憲法だけです。
いま世界でさまざまな国家間紛争や国内紛争に悩む人々にとって、日本国憲法は、平和秩序をつくるうえで、「土台」「基盤」「模範」「法的な原理」など普遍的価値をもつものであるとして共通して注目され評価されています。ところが自民党新憲法草案の前文はなんと現憲法の平和主義を「日本国民は、帰属する国や社会を愛情と責任感と気概をもって自ら支え守る責務を共有し、・・・」と「国防の義務」に代え、「全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する」という平和的生存権の規定を全部削除してしまいました。「政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起こることのないやうにすることを決意し」た過去の戦争への深い反省と不戦を誓う文言がこれまた削除されたことは言うまでもありません。
民族自決権と他国の主権を厳格に尊重すること、諸国家・諸民族の平和的共存を追求することを、万国に共通する「政治道徳の法則」として尊重しよう ── わが国の憲法は、このような壮大な世界史的な展望に立ったものです。憲法改定をめぐるたたかいは、21世紀の日本の進路を左右するばかりでなく、世界とアジアの平和秩序にもかかわる歴史的意義をもつものです。日本国憲法は自公民の改憲勢力がいうような時代遅れの古い憲法ではありません。21世紀の世界の羅針盤として憲法の完全実施こそが求められているのです。日本国憲法は「いまこそ旬」です。


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