デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

ブルーに生まれついたチェット・ベイカーがバードランドで見たもの

2016-12-11 09:21:02 | Weblog
 「俺とマイルス、どっちが好き?」とファンに聞く。「ブルーに生まれついて」のワンシーンで、俺とはチェット・ベイカーだ。話題の映画は多くのレヴューがネットを賑わしているので、内容はそちらをご覧いただきたい。また、ベイカーとその音楽、ジャズと麻薬は研究し尽くされているので、こちらも文献を参照してほしい。こう言ってしまうと書くことがなくなりそうだが、いい作品はどのアングルから見ても楽しめる。

 これから鑑賞する方のためにネタバレしない程度に書こう。まず映画なので史実と違うところがある。映画「セッション」のようにこの点を指摘する輩がいたら無視してほしい。映画なので美化されたり誇張するのは当然だ。次にバードランドに始まりバードランドで終わる。ブレイキーのライブ盤等でお馴染のジャズクラブだが、このステージに立つ意味は実に大きい。そしてパシフィック・ジャズの社長リチャード・ボックが出てくる。ここではディックの愛称で呼ばれているボックの器の大きさも見逃せない。小さなレコード会社をウエストコーストの名門レーベルに育てただけのことはある。

 タイトルの「Born to Be Blue」は、1947年にメル・トーメが友人のドラマー、ロバート・ウェルズと共作したもので、日本ではトーメ本人のものよりヘレン・メリルで有名な歌だ。歌詞の内容はネットで紹介されているので省くが、ベイカーが歌ったのはライムライト盤に収録されている。度重なるドラッグ問題でヨーロッパに逃げたものの、そこでも一悶着あり、結局60年代初めに本国に戻る。この「Baby Breeze」は少しばかり落ち着いた65年に録音されたものだ。「A Taste of Honey」の作者として名高いボビー・スコットのキンキンしたピアノと憂鬱そうなベイカーの声が重なり、映画同様ブルーな空気が漂う。

 この映画はR-15指定されている。性描写より麻薬を打つシーンが検閲にかかったと思われるが、会話も過激だ。ベイカーは自分を監視する保護観察官に「あんたのような人がビリー・ホリデイを殺した」と言う。差別問題をえぐっている。マイルスの「女と金のために演奏しているヤツは信用しない」は問題ないとして、「バカな白人女にジャズがわかるか」は時代が時代ならR-18指定、いやカットされたかも知れない。
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8 コメント

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ボーン・トゥ・ビー・ブルー・ヴォーカル・ベスト3 (duke)
2016-12-11 09:24:37
今週もご覧いただきありがとうございます。

ボーン・トゥ・ビー・ブルーはメロディーが美しいのでインストで人気があります。ヴォーカルは愚痴っぽい歌詞のせいか多くはありませんが、名唱が揃っております。今週はこの曲のお気に入りをヴォーカルでお寄せください。インストは機を改めて話題にします。

管理人 Born To Be Blue Vocal Best 3

Helen Merrill with Clifford Brown (EmArcy)
Chet Baker / Baby Breeze (Limelight) ‎
Beverly Kenney / Born To Be Blue (Decca)

他にも本家のメル・トーメをはじめナンシー・ウィルソン、最近ではジェーン・モンハイトも録音しております。今週も皆様のコメントをお待ちしております。

Born to be Blue - Helen Merrill
https://www.youtube.com/watch?v=SvoKBMB7vuI

ブルーのジャケットの色っぽさはありませんが艶は変わりません

映画『ブルーに生まれついて』予告編
https://www.youtube.com/watch?v=ysXU-9eiINA

マイルス役の俳優さん、雰囲気ばっちりです
パツキンチャンネー (宵闇散歩)
2016-12-13 02:00:00
の歌も、小さくても強力な圧力団体ゴスペル主婦連と同じく苦手な私(どちらも夜のお店にはありがたい)。

こんばんは、dukeさん。

イーサン・ホークいいですね!マイルス役もドン・チードルより似てます(笑)隣のメガネ(笑)ありゃリトル・バークス(笑)。二ーナ、チェット、マイルスと映画が続きますね、昔からトランペッターは映画化されやすい波乱万丈なのか来年はリー・モーガンのドキュメント公開が楽しみです。

Born To Be Blue / Anne Phillips (Roulette)
苦手とはいえジャケで買うわけです。ビヴァリーより好みの声というぐらいの比較でしょうか、バックもAクラスです。

Hellen Merrill with Crifford Brown (EmArcy)
ちっとも好きになれない1枚です、ブラウニーとジミー・ジョーンズのソロ(ユービソーにおける)が神ってる程度です。
約40年後に同曲を最前線のリズムセクションと最前線の4人のペッターのブラウニーソロコピーアンサンブルで聞かせるも、ますます主役不要に感じるだけでした、が、当時の女性シンガー、ビックバンドシンガーは今どきのR n Bネーチャンよりは素晴らしいわけです。

Clap Hands , Here Comes Charlie ! / Ella Fitzgerald (Verve)
エラはいつでも可愛くて最高です。

次点

翼 / Mizuho (house of jazz)
札幌にいた頃、よく見に行っていたもので、ヤハラさんの奥様ですね…しかしR n Bなんかは発音でもリズムでもそれなりに聞けるのに、ジャズスタンダード、アメリカンスタンダードになるとなんで我々日本人にはこんなに難しいのでしょうか、ギターとベースをバックにエクセレントなヴォーカルですが一切ジャズではないし、ま、本人もジャズだとは思ってないでしょうからいいんです、応援の1票でした。札幌では玉ちゃん(男性)が抜きん出て好みです。
マイルス役 (duke)
2016-12-13 18:20:45
宵闇散歩さん、こんばんは。

ハリウッドは層が厚いので似たような俳優がいるものです。ドン・チードルはサングラスをかけるとそれらしいですが、このマイルス役は威圧感があって雰囲気ばっちりです。「ストックホルムでワルツ」に出てきたマイルス役もそれらしかったですね。本人かと思ったのは「Ray」に出ていたアーメット・アーティガン役です。

トレンチコートが似合うアン・フィリップスがありましたね。ストリングスをバックにじっくりと歌詞を味わいたい方には堪らん1枚です。

そしてメリル、あまりヴォーカルを聴かない人でもこのレコードに入っている曲は知っているようです。その意味でも名盤です。

エラは何を歌っても上手いですね。チュニジアナイトにやられます。

ライブ情報誌Audienceで名前を見かけたことはありますが、Mizuhoさんは聴いたことがありません。機会があればライブに出かけましょう。玉川健一郎さんは上手いですね。DAY BY DAYで修行中の平部健吉君も上達しましたよ。辛口の川田貞家さんが珍しく褒めておりました。機会があればお聴きください。
好みはあっさりめ (azumino)
2016-12-14 21:01:20
こんばんは

長野も寒くなってきて、エアコンだけでは寒いので、とうとう今晩から石油ストーブを使っています。寒い時にはヴォーカルもいいですが、この歌は暗めなので、粘るものより、あっさりめの歌を好んでいます。とはいえ、トップは、

Helen Merrill with Clifford Brown (EmArcy)
Beverly Kenney / Born To Be Blue (Decca)
Jane Russell / Jane Russell (MGM)

ヘレン・メリルの歌については、賛否両論あるようですが、このアルバムに関しては、伴奏・編曲も含めて名盤ですね。ビヴァリー・ケニーのアルバムの中でも好きな一枚で、ほどよい感じです。たまには、女優さんを入れてみました。ジェーン・ラッセルは歌も上手ですし、編曲もいいです。

あと、アン・フィリップスもいいですね。テリー・ソーントン(「Open Highway」)とナンシー・ウィルソン(「Save Your Love for Me」)も聴きましたが、この曲に関しては、もっと押さえてほしかった。ジェーン・ラッセルとテリー・ソーントンはレコードで聴いたので、結局片面まるまる聴きました。ヴォーカルはCDで持つことが多くなっていますが、たまにはレコードもよいです。
ジャケットの楽しみ (duke)
2016-12-15 18:20:46
azumino さん、コメントありがとうございます。

寒くなってきましたね。これからますます温度が下がりますので温かい鍋と熱いジャズが欠かせません。

トップに私と同じくメリルがきましたね。B面の収録ながら印象的な歌唱です。ジャズヴォーカルのレコードを語る時、真っ先に出てくる名盤です。

そしてビヴァリー・ケニー、内容よし選曲よしジャケットよしの三拍子です。「Again」が入っているからではありませんが、もう一度聴きたくなります。

ジェーン・ラッセルは「Fine And Dandy」を話題にしたとき、このアルバムを紹介しましたがジャケット同様妖艶です。当時のハリウッドスターの歌唱力は凄いですね。

テリー・ソーントンもありましたか。ルート66を走るコンバーチブルが洒落ております。

ナンシー・ウィルソンはテンポが速いですね。声質からいうとバラードでは絡みつきますのでこの方がいいかも知れません。

メリルをはじめビヴァリー・ケニー、ジェーン・ラッセル、テリー・ソーントンはジャケットの楽しみもあります。30センチ角でなければ本物の味は伝わってこないでしょう。
本日決定!ボーン・トゥ・ビー・ブルー・ヴォーカル・ベスト3 (duke)
2016-12-17 12:18:57
今週もご覧いただきありがとうございました。

Born To Be Blue Vocal Best 3

Helen Merrill with Clifford Brown (EmArcy)
Beverly Kenney / Born To Be Blue (Decca)
Anne Phillips / Born To Be Blue (Roulette)

多くの投票はいただけませんでしたが、メリルが広く聴かれているようです。他にもベイカーをはじめエラ・フィッツジェラルド、ジェーン・ラッセル等が挙がりました。それぞれ個性際立つ名唱ばかりです。今宵はお気に入りのボーン・トゥ・ビー・ブルーをお楽しみください。
毎度遅ればせ (A.tomy)
2016-12-18 11:25:27
dukeさん、こんにちは。

作曲者自身のアルバムが出てないようですね。

“MY KIND OF MUSIC / Mel Torme”(Verve)

自作とアーサー・シュワルツ曲から成るロンドン録音盤。
これからの季節は自作の「The Christmas Song」ですね。

明朗すぎて翳りがないのが日本でウケない理由でしょうか?
本家登場 (duke)
2016-12-18 16:25:22
A.tomy さん、コメントありがとうございます。

本家は挙がりませんでしたね。トーメ・ファンはどちらかというとポピュラー・ヴォーカルのファンですので出てこなかったのでしょう。「The Christmas Song」が話題になるアルバムですが、軽快な貴方と夜音楽もいいですね。

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