ラムの大通り

愛猫フォーンを相手に映画のお話。
主に劇場公開前の新作映画についておしゃべりしています。

『この自由な世界で』

2008-06-17 21:51:55 | 新作映画
(原題:It's a Free World)

----これ、ケン・ローチの映画だよね。
以前、誰だったか
ケン・ローチのこと「イギリスの山田洋次」と
言っている人、いなかった?
「う~ん。
確かに、彼の作品は労働者階級に
スポット当てていることが多いからね」

----これもそうニャの?
「うん。さらにつけ加えれば今回は
『ブレッド&ローズ』や『やさしくキスをして』などと同じく
移民問題をも扱っている。
ただ、この映画、
これまでケン・ローチを応援してきた人たちにとっては、
かなり戸惑うかもしれないな」

----どういうところが?
主人公が女性だから?
「確かにそれもあるけど…。
これまでケン・ローチといえば
労働者の立場に寄り添うのが特徴。
そのおかれた状況の悲惨さともあいまって、
観る人の感情を激しく揺さぶってきた。
ところがこの映画のヒロイン、アンジーは同じ労働者階級でも
相当な反感を買う可能性がある。
彼女、アンジーは33歳のシングル・マザー。
ルームメイトのローズと暮らしている。
ところがいま働いている職業紹介所の仕事をクビに。
それまでにも散々辛い目を味わってきた彼女は、
もう人に使われるのはイヤと、
ローズを誘い、自分たちの職業紹介所をスタート。
とはいっても建物はなく広場で…。
そう、そのほとんどが日雇い労働者への斡旋なんだ」

----いまの日本と似ているニャあ。
「そうなんだよね。
イギリスは、日本より早く新自由主義が定着。
しかも、移民労働者へ市場開放したということもあって、
労働者にとっては賃金を安く叩かれる素地ができ上がってしまったわけだ。
そんな“自由主義社会”の中に生きるアンジーは、
他人を踏みつけにしてでも、自分がのし上がっていこうとする。
いままで自分が搾取される側だったわけだけど、
もう、そうはいかないぞというこの決意が、
彼女の上昇志向に拍車をかけていく。
さらに言えば
金持ちが勝ちで貧乏人は負けというこの価値観は政府のお墨付き。
怖い者なしってわけだ。
そしてついに彼女は、ある一線を越えてしまう」

----ニャに。その“一線”って?
「この“一線”というのは実は
プレスに書いてあった言葉。
ぼくは“一線”って何だろう?と思いながらこの映画を観ていた。
最初は、偽造パスポートを使っての不法移民への仕事の世話---
このことかと思ったけど、
彼女は、もっととんでもないことを次々とやってしまう」

----ニャに。それって?
「これはあえて言わないでおこう。
この映画を観ていて、
彼女の行動に対してどこで歯止めをかけたくなり、
どこで怒りを覚えるか、
それによって同じく今の日本=
『この自由な世界』における
自分の立場、距離も分かってくる。
そう、自分が勝ち抜くためなら
どこまで人を蹴落としていいのかということも含めてね」

----そ、そんなシビアな映画ニャんだ。
確かにこれは反発が大きそうだニャあ。
「でも誤解を恐れないで言えば、これは
『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』タイプの作品。
あえてモンスター的なヒロインを作り出し、
それが生まれた背景と、その社会を告発とする。
『この自由な世界』では、
彼女のようにタフに生きないと、
いつの間にかおいていかれるのは確か。
でも、そんな世界でほんとうにいいのか?とね」




                    (byえいwithフォーン)

フォーンの一言「この人、顔からしてタフなのニャ」身を乗り出す

※『グロリア』のジーナ・ローランズ、そのワーキング版みたいにタフだ度

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2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
こんばんは (カオリ)
2008-09-10 02:19:29
えいさんこんばんは。

「一線」って、プレスにあった言葉なんですね・・・。私は自然に使っていたのですが、その一線を越える境地とはどんなものだったのだろう?と考えます。

ある意味、人間の生きるための強さというか、サガのようなものも感じました。

返信する
■カオリさん (えい)
2008-09-10 20:56:05
こんばんは。

はい。プレスからいただきました。
ぼくにとってはインパクトある言葉でしたが、
カオリさんは、
映画からその言葉を思い浮かばれたのですね。

しかし、それにしてもこれはヘビー級の映画。
ヒットしているのかなあ?
返信する

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