ラムの大通り

愛猫フォーンを相手に映画のお話。
主に劇場公開前の新作映画についておしゃべりしています。

『日本の悲劇』

2013-07-01 22:28:55 | 新作映画
----この映画、
観たときからとてもプッシュしていた映画だよね。
父親の年金を頼りに暮らす失業中の息子――
あまり、好きそうな映画には見えないけど…。
「う~ん。
確かにそのアウトラインだけを聞けば
観るのに二の足を踏んでしまうかもしれない。
でも小林政広監督のこの映画は、
それこそ“映画とは何か?”を
あらゆる角度から考えさせてくれる作品なんだ」

----それはまた、大きく出たニャあ。
「じゃあ、まずここから説明しようか。
この映画は、ほぼ全編モノクロームで描かれる。
そこでぼくたちが目にするのは映画が生まれたときの始原の姿。
そう、<光と影>によって語られるドラマ。
一見、重厚な社会派作品のように見えて、
フレームの中に切り取られる構図は極めて大胆。
たとえば、とあるカットにおいては
光のあたる空間は左隅1/4のみ。
残り3/4は闇なんてのもあるんだ。
そして例によって小林政広監督作品らしく過剰な音楽がない。
セリフにしろ電話のベルにしろ、
映画が次の段階で獲得した表現手段<音>として、
この作品の構成要素となっていくんだ」

----へぇ~っ。
音楽を使わない監督って
ベルギーかどこかにもいたよね。
ダルデンヌ兄弟だね。
彼らの作品も嫌いじゃないけど、
根本的なところでこの映画とは違う…
それってどこだろう
と、考えてみて気が付いたのはスゴく単純なこと。
これは日本映画ということなんだ。
フォーンは日本映画と洋画の決定的な違いって何だと思う?」

----言葉の違いかニャあ?
「そう。
どうしても、そこで字幕または吹き替えになる。
ぼくは
吹き替えはオリジナルを手掛けた監督が演出してないから問題外との考え。
観るときは常に字幕を選ぶほうだけど、
それにしてもまったく問題がないというワケじゃない。
セリフではその字幕に目がいき、
表情などの細かいところを見逃してしまうことだってありうる。
これはツイッターで2013年度上半期の振り返りをやってみて気づいたことなんだけど、
ぼくは、日本映画では作家性の強い作品が好きなのに対して、
洋画ではエンターテイメント大作の方を楽しんでいる。
つまり、それはぼくみたいに外国語を理解できない場合、
映像で一気に乗せていく映画の方が受け入れやすいということなんだ」

----でも、話聞いていると、
モノクロでサイレントの日本映画であれば
なんでもいいってことになんニャい?
「いやいや。
与えられたものが少ないだけに、
それらを使って作品を作り上げることには
細心の注意を払わなくてはならなくなる。
たとえば<音>にしても
どの<音>をどのタイミングでどの大きさで使うかとかだね」

----そろそろお話の方も聞かせてよ。
これって
2010年7月に起こった、
父親の年金が生活のよりどころだった長女が
父親の死後もその死を隠し続け、
年金や給付金を不正に受け取っていたという事件でしょ。
けっこう叩かれていたという記憶があるけど…?
「そこなんだ。
『映画とは何か』のその2。
果たして映画とは何のために作られるのか?
ぼくは、それは映画に携わる監督一人ひとり、
それぞれの答があっていいと思う。
自分がどうしてもこれを映画化したい、
あるいはこのことを訴えたい。
その入り口は自由だと思う。
この『日本の悲劇』に即して言えば、
あるひとつの事件があり、
それにインスパイアされた小林監督が
『こういうこともありうるのではないか?』と、
まったく新しい物語、
そこから生まれるドラマを紡ぎあげたワケだ。
この映画に対するもっとも不適格な意見、
それは『事実はそうではない』…というヤツ。
それこそ映画への冒涜だと思う」

----ニャるほど。
「いくら映画を<光と闇、音の芸術>として
取り組んだとしても、
そこに自分が描きたい、伝えたいものが強く込められていないと、
それはスタイルだけの作品となる。
実は、この映画はある瞬間でカラーとなる。
それは、まるでルノワールの絵画のように
暖かく幸せな色感。
この瞬間、ぼくはワッと声をあげそうになった。
というのも、このモノクロ映画に色彩を自分で想像しながら観ていたから。
あの瞬間を味わうためにだけでも、
もう一回、観てみたいと思うよ」



「ところでこれはNIPPON NO HIGEKI?それともNIHON NO HIGEKI、どちらなのニャ?」悲しい


※『お、とうさん』(北村一輝)、『でんわ』(仲代達矢)このふたつのセリフに注目だ度

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「スウィング・ジャズ」(小林政広)※YOUTUBE