Dr内野のおすすめ文献紹介

集中治療関連の文献紹介が主な趣旨のブログ。
しかし、セミリタイアした人間の文献紹介なんて価値があるのか?

近況報告

2024年04月01日 | ひとりごと
完全に私事ですが。いろいろ変わるので。

・JIPADを先月いっぱいで辞めました。
設立当初(2011年)からやってきましたが、今後の発展には世代交代が必要と思い、3月いっぱいで辞めることになりました。我ながら良くやったと言いたいところですが、13年で日本の全ICUの20%しかカバーしていない、それでnational databaseと言えるのか、というお叱りの言葉もあるかもしれません。今後の更なる発展に期待です。

・ICUのデータを標準化して生データを集めて利用することを主目的とした、集中治療医学会のワーキンググループに参加することになりました。ただしこちらはまだ活動が始まっておらず、どうなるかは未知数なのですけどね。潜在的に非常に重要(と言うか将来的にはあって普通のもの)だと思うので、楽しみです。

・バイト、辞めました。
これで医師免許を使うことは生涯ないかも。

・自治本院に週1回行くことになりました。
昨年の讃井先生の異動に伴って本院にもチョコチョコ顔を出していましたが、さいたまでやってきたこと(主にデータ解析とその利用)を本格的に本院でもやっていくことになったので。ちなみに自治さいたまは今後も週2で行きます。

ICU患者の予後予測の仕組みがACSYSでリアルタイムに利用可能に
これまでは平日の朝に1回共有するだけだったのですけど、もうすぐいつでも見られるようになる予定。実際にどう臨床に影響を与えるか、患者さんのためになるのか、の評価はまだまだこれから。

・フィリップスと開発しているアプリがもうすぐ臨床応用
患者安全および業務負担軽減を目的としたアプリを3年前から開発していて、それがもうすぐ実際に使えるようになる予定。詳細はひ・み・つ、知りたい人はさいたまに見にきてね。

・次のプロジェクト
予後予測もアプリも、もうすぐひと段落。さて次はどうしようかなと模索中かつ勉強中。一生勉強一生青春
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ブラウザの和訳機能

2024年03月28日 | AI・機械学習
この半年で、一緒に研究をしている若者3人に同じことを言った。
「投稿規定を読むときは、和訳機能を使わずに英語のまま読んだ方がいいよ。」

典型例はこれ。
Critical Careのcorrespondenceの投稿規定
"Correspondence articles should be a maximum of 800 words with no more than 5 references. They can include a Table or a Figure. Abstracts and keywords are not required for this article type."
これをSafariの和訳機能で和訳すると、
「通信記事は、5つ以下の参照で最大800語でなければなりません。テーブルまたは図を含めることができます。この記事タイプには、要約とキーワードは必要ありません。」
となる。そもそも日本語がイマイチなだけでなく、これだと図表をいくつまで載せられるか分からない。答えは"a Table or a Figure"だからどちらか一つ。

同じ文章をDeepLに入れても、
「表または図を含むことができる」
ChatGPTで和訳しても、
「表または図を含めることができます」
なので、現状でのAI和訳の限界を感じる。まあ普通は冠詞は訳さないもんね。

これは簡単な例だけど、やはりニュアンス的なものは訳すのが難しいから、読める言語はそのまま読んだ方がいい。英語のウェブサイトを読むときは、僕は和訳ボタンを押したくなるのをグッと堪えて英語で読むようにしている。読めなくなっちゃうと悲しいから。
少なくとも、正確性が要求されるときは和訳せず原文で読みましょう。

と思ったら。
なんとGemini (無料版)もClaude 3 (無料版)も、
「表または図を1つ含めることができます。」
と訳した。
きっとすぐにChatGPTもSafariもちゃんと訳せるようになるに違いない。

もう無理して英語読むのやめようかしら。。。
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ピヴラッツのREACT trialの結果

2024年03月26日 | 神経
この件ですが、なんと、知らぬ間に発表されてました。
製造・販売会社( IDORSIAIDORSIA Japanそーせい)のウェブサイトにも書いてないし、ピヴラッツのサイトにもないし、Googleと旧twitterで日本語と英語で検索しても出てこない。
ほぼ誰も知らないのではないか??

発表されたのは文献ではなくClinical Trials.govの中。
PubMed検索していてリンクに飛んで気がついた。

NCT03585270

知らなかったのだけど、Clinical Trials.govって、こんなに詳細に結果が載っているんだね。現在進行中の研究を調べる時にしか訪問しないからかな。

Participants:
・Males and females aged 18 to 70 years
・Ruptured saccular aneurysm, successfully secured within 72 hours of rupture, by surgical clipping or endovascular coiling
Primary Outcome: Occurrence of Clinical Deterioration Due to Delayed Cerebral Ischemia (DCI) From Study Drug Initiation up to 14 Days

N=406(日本のRCTとほぼ同じ人数)。
Primary outcome: 32/202 vs. 35/204, p=0.7338

脳梗塞の発生頻度やmRSが有意差のないレベルで治療群の方が良かったりするけど、それを言ったら有意差のないレベルで治療群の方が合併症が多くて死亡率が高い。
批判的吟味をするほど熟読していないけど(結果を公表したのだから文献にもなることを期待したい)、これで十分。FDA通過を諦めた理由がよく分かった。

そうそう、この結果をIDORSIAがClinical Trialsに投稿したのが去年の11月(掲載されたのは今年の1月)、そして韓国でピヴラッツの販売が認可されたのが12月。
可哀想な韓国。。。
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生成AIモデルによる心停止後の転帰予測

2024年03月25日 | AI・機械学習
Amacher SA, Arpagaus A, Sahmer C, et al.
Prediction of outcomes after cardiac arrest by a generative artificial intelligence model.
Resusc Plus. 2024 Feb 22;18:100587. PMID: 38433764.


ほお。
こういう使い方はしたことがなかったし、読んだこともなかった。
既存の予測スコアと同程度かそれ以上の精度ですか。ふーん。

確かに、例えばNEJMのImage Challangeを文章だけコピペしてChatGPTに聞いてもだいたい正解するし、どの専門医試験もだいたい合格する。でもLLMに予後予測してもらうというのは初めて聞いた。

でも、なんか気持ち悪い。それが紹介の理由。
それって生成AIに聞くことか?AIを使うなら予測モデルに聞いたほうがいいんじゃないか?

なんて疑問も、いろいろ統合されて数年したら疑問として成立しなくなるかもしれないけど。

ーーーーーーーーーー
追伸。
こんなのもあった。こっちはAUROCが0.62で悪かった。
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ICUにおける血糖コントロールを科学する、浮き沈みしながらの旅

2024年03月24日 | その他
Van den Berghe G, Vanhorebeek I, et al.
Our Scientific Journey through the Ups and Downs of Blood Glucose Control in the ICU.
Am J Respir Crit Care Med. 2024 Mar 1;209(5):497-506. PMID: 37991900.


1990年代に重症患者の血糖についての研究を始め、Intnesive Insulin Therapyが2001年にNJEMに発表されて喝采を浴び、NICE-SUGARでボコボコにされながらも、2023年に多施設RCTをまたNJEMに載せるまでの過程、というか旅を、Van den Berghe先生本人が書いたレビュー。

ほんと、すごいエネルギー。
知り合いにもいるけれど、何かを成し遂げる人はこういう人なんだなー、とつくづく思う。
エネルギーだけでなく、もちろん頭脳も必要だし、さらには周りを納得させる人格も必要。
ただただ尊敬です。
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「外減圧」は日本語です。

2024年03月22日 | ひとりごと
単なる雑学ですが、知らない人もいそうなので。

一般的な単語は「減圧開頭」です。
実際、PubMedで調べると、"decompressive craniectomy"は3372件ですが、"external decompression"は137件のみで、中を見ると著者はほぼ日本人。なので文献を検索したり書いたりするときはdecompressive craniectomyを使いましょう。

脳外科医や麻酔科医に「外減圧した」と申し送られても、ICUカンファで「減圧開頭した」と言うと、「こいつ分かってる」感が出せるのでオススメ。

過去ログ
悪性脳梗塞とstrokectomy
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人工呼吸を要する重症患者における酸素目標の個別化治療効果

2024年03月21日 | AI・機械学習
お、またICUの機械学習文献がJAMAに載ったぞ。
熟読、熟読。

Buell KG, Spicer AB, Casey JD, et al.
Individualized Treatment Effects of Oxygen Targets in Mechanically Ventilated Critically Ill Adults.
JAMA. 2024 Mar 19. Epub ahead of print. PMID: 38501205.


なるほどー。うーん。。。

やっていることは、
Sp02のターゲットを高くするか低くするかのRCTのデータを2つ(PILOTICU-ROX)使って、
・まずPILOTのデータで28日死亡率を予測するモデルを作って、
・それをICU-ROXに当てはめて、
この方法でICU-ROXの症例を3群に分けたところ、
・ある群では低SpO2に割り付けた方が6%死亡率が低く、ある群では高SpO2に割り付けた方が13%低かったと。
結論として、こんな感じで酸素化のターゲットを個別化すれば予後は改善するかも、と。

主な研究の問題点(パラレルワールドじゃないんだから無理でしょとか、MEGA-ROXを待とうよとか)については、EditorialでAngus先生がお書きになっている。
なので僕は機械学習的に気になったところを。

まず、PILOTで作ったモデルをICU-ROXに当てはめるためには同じ特徴量(統計用語で言うところの説明変数、ただし細かいことを言うとこの二つは違うという話もある)を作る必要がある。でも使用された重症度スコアが2つの研究で異なる(PILOTはSOFA、ROXはAPACHE II)ので、これを換算する必要があった。いろいろ方法はあると思うけど、この研究では、SOFAを2点ずつ、APACHE IIは5点ずつに群分けして、それぞれの群の実際の死亡率を計算し、その値を"predicted risk of 28-day mortality"という名前の特徴量として利用している。
さて、これは情報のリークではないか?死亡率を使って死亡率を予測しちゃダメなんじゃないか?SOFAとAPACHEの関連を示した研究はいくつかあるだろうから、それを使う方が妥当では?

6つの機械学習モデルから、RBoostというのが選ばれている(XGBoost的なやつらしい、Rの言葉で書いてあるからよく分からない)。ハイパーパラメータをいろいろ調整した結果、このRBoostが一番だったということだけど、パラーメータ調整をするためのデータセットが用意されていない。普通はPILOTのデータを少なくとも二つに分けてパラメータ調整するはずが、どうもやっていないらしい。

この二つはPILOTのデータに対して過学習の原因になりそう。
まあ、それでもROXのデータでも臨床的に妥当な結果(脳損傷では低SpO2の方がいいとか)になっているのでOKでしょう?と言われたら、反論はしにくいけれど。

酸素化のターゲットの話はMEGA-ROXを単に待つ、でいいでしょう。
Nが馬鹿デカいから、それを使っていろいろ遊ぶ人も出るだろうし。
それに、どんな手法で仮説を立てても、結局はその仮説を検証するRCTが必要なわけで、普通のサブグループ解析でも分かる仮説の検証ではなく、複雑な予測による個別化を検証するRCTって、将来的に行われるのだろうか。
やるなら見てみたい気もするけれど。

なんか、批判的吟味的なことをしてしまった。恥ずかしい。
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人型ロボットが作業しながら自然に会話

2024年03月19日 | AI・機械学習
ICUとは関係ないのですけど、
動画がSF映画並みでビックリ。

人型ロボットが作業しながら自然に会話--OpenAIと提携するFigureが動画を公開

もうちょっとしたら、CV挿入も挿管もロボットがやる時代が来そう。
診断も治療方針の決定もAIがしちゃったら、ICUの医者は何をするんだろう?
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ノルエピネフリン製剤の報告について

2024年03月17日 | 循環
この件、ESICMとSCCMからポジションペーパーが出てましたね。

Wieruszewski PM, Leone M, Kaas-Hansen BS, et al.
Position Paper on the Reporting of Norepinephrine Formulations in Critical Care from the Society of Critical Care Medicine and European Society of Intensive Care Medicine Joint Task Force.
Crit Care Med. 2024 Apr 1;52(4):521-530. PMID: 38240498.


Table 2のガイダンスをDeepLで和訳:
1. ICUにおけるノルエピネフリン投与量および製剤の統一的な世界標準として、ノルエピネフリンベースを採用すべきである。
2. 病院の処方と薬局は、各国で統一された報告方針を採用すべきである。
3. ベッドサイドの看護師、薬剤師、臨床医を含むがこれらに限定されないICUワークフローチームは、ノルエピネフリンをノルエピネフリンベースとしてカルテ、調剤システム、輸液ポンプに報告し、記録すべきである。
4. 研究者および研究文献は、調査に使用したノルエピネフリン製剤を明記し、分析のためにノルエピネフリンベースへの換算を含めるべきである。
5. 製造者は、薬剤バイアルにノルエピネフリン製剤をノルエピネフリンベースとして明示すべきである。
6. ノルエピネフリン製剤の表示と報告を世界的に統一することは、患者の安全を確保し、臨床ケアと研究を最適化するために緊急に必要である。このタスクフォースによって作成されたガイダンスの実施を遅らせる理由はない。

でも過去は変わらないので、以前の文献を読むときは(そしてこれからもしばらくは)、ノルアドの量は半分くらいかもしれないと思いつつ読みましょう。
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補液反応性とうっ血シグナルの共存

2024年03月10日 | 循環
Muñoz F, Born P, Bruna M, et al.
Coexistence of a fluid responsive state and venous congestion signals in critically ill patients: a multicenter observational proof-of-concept study.
Crit Care. 2024 Feb 19;28(1):52. PMID: 38374167.


補液反応性があるから補液しよー、とか、
補液反応性があるということは溢水ではないはずだ、とか。
そういうことを言う人がいるから、それは本当か検討してみたよ、そしたら溢水シグナルの有無と補液反応性は関係がなかったよ、という研究。

実際そういうことを言う人はいるので、大事な研究だと思いつつ。
それよりも面白いなと思ったのは研究デザイン。
”溢水”とか”うっ血”とかって、まあそれを言ったら”脱水”とかも、極端な場合を除いて診断するのはすごく難しい。ICUにいる間は極端な状況にはならない(はずだ)から、その難しいことをいつもしていることになる。臨床診断ですら難しいのだから、それを研究にする、つまり定義を決めるのはもっと難しい。

で、この研究は”venous congestion"というものを対象としているので定義が必要なのだけど、明確に定義するのではなくて、CVPとか心エコー所見とか、複数の”うっ血”っぽいシグナルを測定して、そのシグナルが陽性になる数が多ければ多いほどよりうっ血の可能性が高くなるという仮定のもので、その陽性シグナル数と補液反応性の関連を検討している。

うまいやり方でしょ。
研究しようと思ったけど定義が難しいから諦めようかな、という時はこういう手法も検討してみては?
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