真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「痴漢股ぐらのぞき」(2003/製作・配給:新東宝映画/監督:深町章/脚本:かわさきりぼん/企画:福俵満/撮影:清水正二/編集:酒井正次/助監督:佐藤吏/録音シネキャビンスチール津田一郎現像東映ラボ・テック出演:麻白・山口玲子・水原香菜恵・なかみつせいじ・山名和俊・かわさきひろゆき)。を、プロジェク太上映の地元駅前ロマンにて、「股ぐらを見せる女」といふ新題の2007年新版、ではなく、2009年にインターフィルムよりリリースされたDVD題、「肉体の悶」として観戦。色々やゝこしい。
 戦後さう遠くない山梨の温泉町、敵対する新興愚連隊のリーダー・佐々木(名前しか登場せず)を刺殺した罪で服役してゐた檜垣貞男 (なかみつ)が、五年ぶりに娑婆に戻つて来る。組から唯一人出迎へた弟分の冴島雅人(山名)は、檜垣の情婦・真澄(麻白)にスカートを自ら捲らせた上女陰を覗き込み遊んでゐた。当然激昂する檜垣ではあつたが、女は真澄ではなく、真澄とソックリの頭の弱いパン女・憐(いふまでもなく麻白の二役)であつた。真澄の所在に関しては冴島が口を濁す一方、佐々木の元情婦・雪(山口)を現在囲ふ組長の内藤(かわさきひろゆき)は、帰つて来たばかりの檜垣に纏まつた金を投げ寄こすと無下に厄介払ひする。檜垣のやうな狂犬を手元に置いておくと面倒が多い、檜垣が塀の中に居る間に、世間は変つてしまつてゐた。そんな檜垣に、冴島が追ひ討ちをかける事実を伝へる。敵の女と愚連隊のメンバーに追はれた真澄は、冴島の実兄(一切登場せず)が営む温泉旅館に一時匿はれる。檜垣が臭い飯を喰ふ五年の間に、二人は結婚してゐた。冴島を殴り飛ばし、内藤とも喧嘩別れのやうな形で飛び出した檜垣はひとまづ佐々木の墓参りに向かつた墓地で、憐と再会する。母親と幼い弟達に呉れてやれと、内藤から渡された金を蓮に与へた檜垣は、憐を伴ひ真澄の暮らす旅館を目指す。
 時代に自然にフィットする容姿と妖艶な色香とが素晴らしい水原香菜恵は、檜垣が真澄と兄を殺害するのではないかと危惧した冴島が雇ふ、女殺し屋・幸子。他二名(何れも不明)の客も見切れる居酒屋にて食事を摂る檜垣と憐に、他二名の目を引きつつ幸子が接触。その際に幸子が発する第一声が、中々にダイナマイトな珍台詞。「アンタいい男ねえ、アタシにも一杯呉れない?」、女連れの男を捕まへて、幾ら何でもいきなりその切り口はあんまりだらう。もしかするとVシネ版のクレジットは、ピンク時よりも若干情報量が少ないのかも知れないが、他にオーラス直前に憐の客役としてもう一名登場。
 深町章定番の戦中戦後昭和シリーズから、今回猟奇風味は全く差し引いた今作は、勇猛果敢に譬へるならばサム・ペキンパー映画の如く、勝手に移ろひ行く浮世に身の丈を合はせ損ねた、アンチェンジドな男のドラマである。入念な演出と出色の撮影とによつて、傑作と手放しの快哉を叫びたくもなるところでもあつたのだが、物足りなさを強く感じさせる部分もなくはない。三人のエキストラを除けば、総勢僅か六名に止(とど)まる登場人物が互ひに殺し合ひ、少なくとも半数が死んで行く現代ピンクにしては極めて稀に見る展開の中で、檜垣がキチンと辿る呆気ない運命と、ラストを叙情豊かに締め括る儚い寂寥とは、素晴らしく完成されてゐる。ただその二つを繋ぐ、一手間二手間に欠いてもゐまいか。所詮一人では生きて行けさうにはない、さりとて自分のやうなヤクザ者と一緒にしておく訳にも行かない、憐を真澄の旅館で住み込みの女中として面倒見て貰はうとした、兄貴分の意図を知つた冴島が愕然とする、新美南吉の『ごん狐』風のショットや、あるいは檜垣と内藤を始末し、組の実権― と、この際ついでに雪も―を握らうとした冴島のありがちな権謀術数なりを盛り込んでおいた方が、より一枚も二枚も物語が分厚くなつたのではなからうか。リアルタイム当時に既に語られてゐるやうに、佐々木殺害時の状況に関するブレ等、脚本上の粗は顕在的にも散見される。今一つのところで頑丈な娯楽映画への扉を開けることが叶はなかつた、惜しさも残す一作である。そこに敢て詰め切らなかつた余裕を見る向きに対しては、殊更に異論を唱へるつもりはない。

 ただ、ここは私的な嗜好にも依るが、憐のヴィジュアル的な造形は、流石に少々散らかし過ぎでもあるまいか。そのムチャクチャな頭は、パンパンといふよりは寧ろルンペンだ。ここはもう少し小奇麗にしておいた方が、素直に画になつたやうに思へる。


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