真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「サイコ・ドクター 白濁のしたたり」(2001/製作:TMC/監督:サトウトシキ/脚本:今岡信治/撮影:広中康人/照明:高田賢/助監督:女池充/出演:中川真緒・中原翔子・佐々木ユメカ・小林宏史・諏訪太朗・桂木宣・伊藤猛・佐野和宏・高山兄弟・NERVOUS)。
 吹溜りのゲーセン。虚ろな目で、ゲームに没頭する黒田(小林宏史)。同じくゲーセンを根城とする小生意気なガキ供(高山兄弟か)からは、下手糞な関西弁で「大人が他にすること無いんか!」と揶揄される。
 トボトボと家路に就く黒田は、マンション二階のベランダに女物の下着が干してあるのを見てとると、やをら奮起。外壁を二階へと連なる配管をよじ登り始める。黒田は窃盗を日課とする、女の下着マニアであつたのだ。ベランダに到着、お目当ての下着を手中にして黒田がほくそ笑んだのも束の間、カメラが左に動くと、ベランダの内側、片隅には裸で両膝を抱へ、まるで生まれたての小鹿のやうに無防備な女(中川)が。女は下着ドロであることなど忘れて、黒田に訴へる、「助けて」。「誰か居るのか?」カーテンを動かす男の気配に、黒田は慌てて姿を消す。
 黒田は、婦人科の医者であつた。ある日黒田の医院に、膣内を酷く傷付けた女が診察に訪れる。女・純子は、黒田にベランダで救ひを求めた女であつた。
 信者かあるいはアンチかの、最も不毛な二枚の肩書きの何れかを選べと強ひられたならば、どちらかといはなくともファック国映な当方ドロップアウトとしては、サトウトシキといふ名に、特段の訴求力を喚起されることは別段ない。Vシネとはいへ、観てしまふと感想を書かなくてはならないので寝過ぎる予定であつたものだが、観初めてしまふと案外なのか矢張りなのかは兎も角殊の外面白く、最後までまんじりともせず観たものである。同居する異常な幼馴染のDVに苦しむ主人公が、偶さか出会つた別の異常者に救ひを求める、救ひがあるのだか無いのだかよく判らない物語である。
 黒田は実は窃盗で一度臭い飯を喰ひ、医師免許は失つてゐた。過労の末に男性機能まで含めて下半身の自由を失つた吉岡(諏訪)の医院で、黒田は無免許ながらに医師を務めてゐたのである。電動車椅子をガチャンガチャンとあちこちに錯綜させつつ、吉岡が最早繰言とでもしかいひやうのないよく聞き取れないダラダラとした会話を黒田と延々続けるシーンや、医院の看護婦、兼吉岡の歳の離れた妻・エリ(中原)との三人での、吉岡の不能も絡めた倒錯的な濡れ場は作り手が変に気合も乗つて撮つてゐるのはよく伝はつて来るが、その実話の本筋には舞台立て以外の面からは殆ど関係無い。冒頭クレジットでは“特別出演”とクレジットされる割には、中原翔子は中川真緒よりも余程脱ぎまくる。その癖エンド・クレジットでは、特別出演の縛りは外れてもゐるのでよく判らないところではあるが。
 桂木宣は、純子の暴力的な幼馴染。幼少期に性的な悪戯をした純子の叔父を、彼女の目の前で刺した過去を持つ。純子を勝手に俺が救ふと盛り上がつた黒田に迫られるも、空手二段の実力で難なく撃退する。
 順番前後して佐野和宏は、過去に黒田を検挙し、現在も明確に異常者と蔑視した上で黒田の周囲にまとはりつく刑事。伊藤猛は、今作最強のポイント・ゲッター。伊藤猛の存在が、今作をヌキ目的にも供し得ない空振りした駄作Vシネから、青春映画のスタンダードにも似たキラキラと時を越えてもその輝きを失ひはしないであらう、決定力のある傑作へと昇華せしめた。改めて伊藤猛は、黒田とは腐れ縁で同好の士の、こちらは靴マニア。酒を飲ませて呉れと黒田の部屋に転がり込んでの、互ひの異常な性癖を包み隠すことも無い、盗んだ獲物を用ゐての自慰の方法を披露し合ふシーンは正しく今岡信治の真骨頂。盗んだ靴を一物の先に引つ掛けてグルングルン振り回す・・・・・わはははは!よくそんなこと思ひ付いたものだと感心したのも束の間、「実は俺、今も履いてるんだ」と黒田が純子の下着を身に着けた下半身を露出し、身悶えしながら床を転がるに至り伊藤猛が引いてしまふ件は抱腹絶倒。不意に手に入れた“力”を、桂木宣にボコられた黒田に差し出すシーンにはフィクションの豊かな翼が力強く羽ばたき、最後の登場では、ダチの窮地に己が身を晒す真正面のエモーションをモノにする。
 例によつて、桂木宣をブチ殺した黒田と純子との、この期に地獄の逃避行を望んだ私の時代錯誤も甚だしい希望は通る訳もなく、それとはいへ純子のアクションに見られる展開の凡庸さにヤキモキしてゐたところ、続く展開には言葉を失ひ、心を洗はれた。合理だの整合だのと瑣末は雄々しく放棄した、履き捨てられた者に降り注ぐ慎ましくも美しき救済。伊藤猛の靴男も含めて、今作はダメ人間に捧げられた必殺のファンタジーである。俗なことをいふやうだが、吉岡絡みのシーンを必要最小限に抑へれば、尺は恐らく六十分以内に納まる(元尺75分)。今からでも遅くはないので、フィルムで撮り直してピンクにといふのはどうであらうか。昨今のどうにもかうにもしやうがない壊死寸前の国映にとつては、正しく起死回生の一撃たり得ると思へるのだが。

 佐々木ユメカは名も無き患者A役。もう一人登場する患者Bは佐々木麻由子だつたやうな気がするのだが、クレジット無し。出演者の中に“NERVOUS”と表記されるのが、何を、あるいは誰を指してゐるものなのかは全く不明。ユメカには、下半身のみとはいへ脱ぎあり。
 今作に関して少しく調べてゐたところ、中原ではなく中川翔子出演作との誤認で、山程アドレスがヒットした。そこはかともなくながらに愉快な、御愛嬌である。看護婦役の中川翔子がVシネで脱ぎ倒してゐたら、それは大事件ぢやろ(笑)。


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