真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「日本夜伽話 パコつてめでたし」(2017/制作:多呂プロ/提供:オーピー映画/監督・脚本:荒木太郎/撮影照明:飯岡聖英/編集:酒井正次/現場演出:若月美廣/撮影助手:宮原かおり・岡村浩代/照明助手:広瀬寛巳/演出助手:三上紗恵子/製作:佐藤選人・小林徹哉/ポスター:本田あきら/音楽:龍宮首里音楽協会/応援:中西さん/亀捕獲:三上紗恵子/タイトル協力:ヴィッケ/セッティング協力:コポンチ・ミニコ/録音:シネキャビン/仕上げ:東映ラボテック《株》/カラコレ:石井良太/協力:福島清和・首里劇場/出演:麻里梨夏・塚田詩織・愛野ももな・西藤尚・本木幸世・淡島小鞠・平川直大・夕須虎馬・冨田訓広・小篠一成・稲葉良子/特別出演:牧村耕次)。出演者中、西藤尚・本木幸世と冨田訓広は本篇クレジットのみ。牧村耕次の正確なビリングは冨田訓広と小篠一成の間で、荒木太郎の俳優部に関してはオミットされる。
 可動ギミックを仕込む形で進化を遂げた多呂プロ立体ロゴと、亀の甲羅にタイトル開巻。国民年金を受け取りさゝやかにホクホク帰宅する浦島才蔵(小條)は、あちきなヒャッハー造形の不良少女三人組(西藤尚×本木幸世×淡島小鞠)が、亀を苛めてゐる現場に遭遇する。ここで、ともに銀幕初陣の小篠一成と本木幸世は黒テント一派。といふか、遅れ馳せながら今回初めて辿り着いたのだが、多呂プロでのキャリアをぼちぼち積み上げる冨田訓広がそもそも黒テント。この御三方、小篠一成は創立メンバーで、本木幸世と冨田訓広はそれぞれ2000年と2010年の入団。そして改めて声を大にして訴へたいのは、何がそんなにいゝのか個人的にはてんでピンと来なかつた、アイドル扱ひで持て囃されてゐた現役時代よりも、西藤尚は顔の線がリファインされた現在の方が絶対に美人である、である(ドン!   >強く机を叩いてみる
 収拾のつかなくなつた感情の発露は兎も角、亀を助ける引き換へになけなしの泪金を巻き上げられた才蔵は、亀を川に逃がしたのちとぼとぼとまさかのシネキャビンに帰宅。浦島家のロケーションは、荒木家を巧みに兼用してるかも。軽く呆けた妻のさなえ(稲葉)は困窮した事態を理解しない中、長い付き合ひの大家の、ドライな息子(平川)が滞らせた家賃の催促に現れる。突きつけられた猶予は、非情か非常識にも二日、といふかそもそも違法である。何も出来ない一昼夜を通過した、シネキャ最後の夜。若き日のさなえ(塚田)の幻影に誘き寄せられ、自身も若返つた才蔵(夕)が騎乗位を完遂した淫夢明け、娘が満額家賃を払つて行つたと、ナオヒーローが領収書を手に現れる。謎の恩人を捜しに家を飛び出した才蔵は、川のほとりにてこの人?が金を出して呉れてゐた、助けた亀の化身・アンモナイト麻美(愛野)と出会ふか再会する。むかしでないけど浦島は、助けた亀につれられて。豪快にハンドメイドな紙細工と、要は夕須虎馬が愛野ももなを後背位で突くイメージを通して、亀の背中に乗つた才蔵は、琉球建築を王宮に模した竜宮エレン国に到着する。
 配役残り満を持して登場する麻里梨夏が、暗殺された国王に代る事実上の女王として、竜宮エレン国を統べる王女・エレン。散発的に名曲「恋情乙女」(2010)が劇伴にも使用される牧村耕次と、冨田訓広にコバテツがエレンの従者。華麗に二役を務める淡島小鞠は、竜宮エレン国に侵攻する隣国のAve Maria少年総統、荒木太郎が配下。その他景色的に、首里劇場館長が見切れる。
 関東近郊だけでなく、沖縄・大阪ロケをも謳つた荒木太郎2017年第二作。尤も、沖縄に渡つたのは恐らくカメラを持つた荒木太郎と亀を持つた三上紗恵子(=淡島小鞠)のみで、多分大阪も、出張つたのは塚田詩織と夕須虎馬の二人きりか。そして、あるいはそんな。正直何気に意義が微妙な大阪パートを、生存が確認されるレベルで久ッし振りに名前を見た若月美廣が仕切つた格好なのか?
 映画の中身に話を戻すと、性愛によつて発生するエネルギーで文明を回す―図らずも、山﨑邦紀と荒木太郎が近いタイミングで同じやうな話を書いてゐるのが興味深い―竜宮エレン国では、正装がいはゆるバカには見えない服。日常の各挨拶も愛撫諸々とかいふ、如何にもピンク映画的なユートピア設定。兎にも角にも特筆すべきは、さういふ方便で荒野に於けるAve Maria少年総統との対峙時以外には正真正銘の全篇をトップレスか全裸で通す麻里梨夏が、荒木太郎前作に続くピンク第二戦で代表作の貫禄を以て撃ち抜く、たをやかにして弩級のエモーション。飯岡聖英デジタル時代も必殺のカメラの力も借り、時に美しく時に気高く、濡れ場に入るや問答無用にどエロい麻里梨夏が叩き込み続けるショットの数々は、要は浦島太郎に二三本毛を生やした程度に過ぎぬ他愛ない物語をも、主演女優の一点突破で堂々と支へきる。エレンの背景で、如何にも竜宮城的な舞を舞ふ役を担ふには、表情に限らず体も硬い三番手に、荒木太郎が我慢しきれない、表層的なアクチュアリティ。こちらもピンク第二戦で、闇よりも暗い第一戦では唯一人気を吐く輝きを誇つた塚田詩織の、実質締めの濡れ場でこゝぞと再び「イン・ザ・ムード」を鳴らさない超絶のロスト画竜点睛。猥雑な昭和を懐かしんでばかりの荒木太郎には、これから自分が描く世界にも目を向けなよと声をかけたくもならうところではあれ、万事些末とさて措いてしまへ。麻里梨夏だけ見てればいゝ、それだけで戦へる。いや、それだけでもないもう一点。一人づつだと映画的にはクドさも否めない小篠一成と稲葉良子が、二人見事に噛み合ふとシークエンスが芳醇な香りを放ち始める、滋養深いケミストリーは裸を離れた見所。もしかすると、演劇畑でもこの二人の共演は何気にエポックたり得るのか。


コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )