Dr. Mori Without Borders / Mori-san Sans Frontieres

森 一仁が医学・国際政治経済金融・人文教養教育など関心問題を国際的・学際的に考える。

オセロー。

2012-07-17 12:16:39 | 総合芸術論:音楽・演劇・笑い
前々から書こうと思っていた記事があったのだが、一連の事件と妙な符号をした事で配信を遅らせてしまった事柄がある。それは我がアパートに住むヤモリの物語になる筈だった。色の黒いヤモリと色の白いヤモリが我が家に出入りしていたのである。黒い方をナカジマ、白いほうをマツシマと名付けて(笑)可愛がっていた。えさをあげる訳ではない。野生のヤモリであるから、自分達でえさを取って生活しているのである。我が家には住居だけを求めて遊びに来ているような感じすらあった。医局に籍だけを置いて、食い扶持は自分でバイトをしてかせぐ医師のような感じで、彼ら気ままな独立独歩のヤモリ達は我が家の住人となったのである。

大学の授業を終えて夕刻に家路に着くと、だいたいどちらかが出迎えてくれた。マツシマの方が好奇心旺盛で活発であったので、よくマツシマに出会った。ナカジマはと言うと遅い時間に時折顔を見合わせるぐらいで、シャイな性格なのかだんだんと引っ込み思案になっていった。もっとも擬人化して記述しているようだが、行動パターンは概ね記述どおりである。それでも擬人化だと言う人は西洋かぶれ、否、西洋仕込みのエソロジーの影響が強いのかも知れない。日本の霊長類学の行動記載を模して言えば黒い方が引っ込み思案、白い方は活発と言えるであろう。

さてある日の事、いつものように家路に着くと、しばらくしてマツシマが出てきたのである。ここまでは良かったのだが、その日はナカジマを見なかった。次の日もナカジマを見なくなってしまったのである。妙な心持にとらわれたが、そうして週末を迎えた。その週の週末は掃除に当てていたので、部屋掃除となったのであるが、なんとここで第一のシェークスピア的悲劇が起きた。隙間からナカジマが、干乾びた浅黒い体が発見されたのである。

この日の脳内では2時間サスペンスドラマが展開されていた。『写真を撮る鑑識。状況報告をする刑事。「ガイシャは独り暮らし、近所に尋ねてみましたが、詳しい事を知る者は居ないようです。発見される前に何度かこの付近で目撃されています。死亡推定時刻ですが、遺体の乾燥が激しい事から死後の時間の経過を伺わせています。」・・・と此処で無線連絡が入ったと別の刑事より報告、覆面パトカーから本庁に連絡を入れる・・・』と考えている間にも「はやく片付けねば」と現実原則の自己が蘇ってきた。

そんなこんなで、これからはマツシマと同居だなと思っていた矢先に、日本でくだんの事件が発生したのである。我が家でヤモリのナカジマが鬼籍に入ったその時に、大好きな女芸人さんが洗脳され拉致されてしまったと言うのである。こちらは冗談ではないので、多少は縁起を担ぐ人間としてはヤモリ物語の発表を控える事にしたのである。フィリピンのみならず、インドネシアに滞在していた友人もヤモリはごく頻繁に目撃したと語っていた事から、熱帯地域ではよく見られる生き物なのかも知れない。

しかし今回の事件は私の家の中のヤモリ物語よりも、もっと深い符号に驚いたのである。色の浅黒い方(オセロー)が第三者(イアーゴ)に唆されて、色白の相方(デスデモーナ)を疑い、憎むまでに至る過程が何ともシェークスピア悲劇ではないか!!!女芸人さん達はシェークスピアを読んで芸名を付けた訳ではなかろうが、偶然にしては全くの奇妙な重なりに本当に驚いている。しかしシェークスピア悲劇とは違うのは、色白の相方が死に至る前に現実の方では色の浅黒い方が救出されたと言う事である。全く安堵に胸をなで下ろした瞬間であった。

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