しんくうかん

この地とともに。

第136話 「純粋でなければ」

2017-01-04 17:23:50 | 日記


「いや俺さ、この前見たんだ!」と、テーブルの上に人差し指で何やらなぞり話す此奴は、嘘をついたり人を騙すという事を知らないまま大人になった、馬鹿が付くほど真面目で純粋な奴だ。


わたしには、二人の実弟と義弟、そして三人の義妹がいるが、「こんな形をしていて―」と、もごもご不器用に話す此奴は、その義弟の一人である。
「お前ぇちゃんと筋道を立てて云え」と、すぐに乱暴に言い放ってしまう一昔前のわたしも、今は違う。ある時(いつからかは忘れたが)を境に、そういう言い方がまったく口をついて出なくなった。自分でいうのも変だがひとが変わったのだ。不思議なことである。
彼が社会人になるまでは、まわりの皆が“此奴はしゃべることができないんでないかい”というほど話をしない少年だった。それが今や子ども3人に孫4人で、務める会社では「定年後も頼む」と、社長の信頼厚い販売部責任者だ。人間とはわからないものである。
はじめは皆目見当がつかないまま、うんうんと頷きながら聞くとはなしに聞いていたが話が進むとだんだん見えてきて、そのばらばらの内容をつないでいくとこうなる。
2人目を出産した次女が、孫を連れて里帰りしたので居間で煙草が喫えない。しかたなく2階にあがり、窓を開けて夜空を眺めながら煙草を吸っていた。
その夜は満天の星、すると、先が尖った台形のかたちをした物体が目に入った。物体の縁は、ピカピカと輝く星のような光が等間隔に縁取っていて、先端の尖ったところにはそれより一回り大きな光が時どき点滅している。アレェ!!
そして、すうっと左がわに一瞬で移動したと思うと今度は、ものすごぉい速さでジグザグに移動し消えた、というのだ。
どうやらテーブルに指先でなぞったのは、その物体の具体的なかたちを示したかったらしく、すなわち「未確認飛行物体を見た」というのだ。
彼の眼はかなり良い。ただ、想像力のきわめて乏しい現実的な人間である。だから見間違えることはまず考えられない。
わたしはこれまで、“霊”らしきものを見たり“闇の声”を聞いたことはあるが『未確認飛行物体』は、らしきものも、見たことはない。
「兄貴!!あれは何だべ」と、真顔で問う彼に応える術が思いつかなく「よし!時どき見るという姪っ子もいる。身内でUFO研究会を立ち上げろ」。

そのUFOを見たことがあるという姪っ子が、入院中見舞いに来た時のこと。
ひと月の間、院内を歩き回ったが不思議な現象に出会うことはなかったと云うと、顔から笑いが消えて、「おいちゃんそれ違う。わたしの友達がこの病院にいるんだけどぉ。よく見るんだって」。
わたしからはもう、“純粋”というものはなくなっているのかもしれ

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