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第153話 「夜明け」



ついさっき寝たばかりなのに、と、おもった。小便もしたくないし―、薄目を開けたり、つぶったりうつらうつらと。「いまは何時だろう」

頭の上には目覚まし時計がおいてある。だが、見たくない。
ぼーとしていた頭が、少しはっきりしてくる。寝返りを打って時計を見ようとする。と、窓のカーテンの隙間がぼやっと薄明るい。
あれ!時計の針はなんと3時を指しているではないか。
昨夜は、ついついテレビを見入ってしまい、寝たのは9時すぎ。ということはもう6時間もたったのか?
カーテン超しの薄明は、まぶたを開けるたびに明るさを増し、どんどん部屋中に広がる。
「早くも空がしらけて来ている―、夏至かぁ~」。

10数年前、毎年この時期に2泊3日の釣りキャンプに出かけていたことを思い出した。
萌える緑で溢れる山野は、厳しい冬を乗りきった生き物たちが繁殖期を迎え、活発に活動するときでピークはほんの一時、その出合を求めてのキャンプであった。
川底の巣を離れた水生昆虫たちは競って水面を目指す、蛹となり、流れに身を任せ背中が割れ飛び立つ成虫は、次代につなぐ相手を求め空中を乱舞する。それを待ちにまった小鳥たちが捕食する。「バシャ、バシャ、ドボンドボン」と、派手な水音を立て飛び跳ねるのは、水面に漂う虫を食べる魚たち。「ドボン」またひときわ大きな音、“大物だ!”
陽が沈み真っ暗になっても生き物たちの活動は止まない。次つぎとふ化する成虫は、ぶんぶんと羽音をたてて暗闇の川面を飛び交う。流れに抗って立ちこみ竿を振る私たちの手、顔にもバチバチと当たる。流れの音に交じる、甲高い鳴声はコウモリだろう。
「ジャバジャバジャバ、バシャ」それはまるで、川面を叩く夕立の音。盲滅法(めくらめっぽう)に毛鉤を流すだけでバシャン、ググッと来る。もう入れ食いで、竿を握る腕と流れに耐えてふんばる足はパンパンだ。生き物すべてが我を忘れて夢中なのだ。
ベースキャンプに戻り夕食を食べ終えると夜中、寝袋に潜り込んだ数時間ご、空は白け、小鳥たちの半端でない囀りに目を覚ますのだ。
水生昆虫のふ化は早朝からも始まる。あわただしく朝食を済ませ、また竿を手に川面に立つ。そして年一回の、寝不足と疲れでヘロヘロの3日間は、あっという間に終る。
目が覚めると、もうじき古希。「あっという間だったなぁー」。

そんな思いに更けボリボリと尻を掻いていると、割れ目付近にぽろっと米粒ほどの突起が???「あ゛ぁぁ またか」女房に見てもらうと「あー揖保だ!年取るとあちこちに出るんだわ―」。一気に目が覚める。

 

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