しんくうかん

この地とともに。

第148話 「根を張る」

2017-04-21 09:26:03 | 日記


「もし もぉ~し。どこかギョウジャニンニクの出ているとこ教えてェー」。午睡から覚めて、
頭がまだぼーとしているとき、風の音まじりの声が携帯をとおして届く。

どうやら庭に植えてあったものが訳があって芽が出なくなり、“移植”と前々から目を付けていたところへ行ったもののすでに採られて後の祭り、で、その場から電話したらしい。
「まだそんなに出ていないべ」と云ったものの大の山菜好き、一気に火が付いた。
山菜は同じ個体でも、地域や地形で発生時期や大きさに差異がある。
ところが、思い出そうとしても道順とか同じようなデータがふくそうして、仕舞い込んだ引き出しの情報が探るほどにこんがらがって、頭の中では辿り着かない。「まあいい、とにかく行ってみよう」。
次の休日は絶好の山菜採り日和、ふやけている脳みそでつながるままに車を走らせる。すると、橋から見る河畔は、昨年の災害でどこもかしこも大きく変わっている。
「コリャー ワシの秘密の場所は全滅だワイ」。
なんとかたどり着いたとおもったが、「確か柳の大木の根元に群生が…。」しかし肝心のその大木が見当たらない。ウロウロと、上流から運ばれた泥が厚く覆い、まるで稲妻が走ったようにひび割れた地面を歩き回る。
大きくえぐりとられた川岸の上の林は、ところによって、なぎ倒された泥ヤナギなどの樹木がバタバタと折り重なっている。くぐったりまたいだりと、病み上がりの身体で難儀しながら目の前の藪を抜けた。と、ひび割れた土の上に、ひときわ濃い緑の葉が群れて風に揺れている―、近づくとやはりギョウジャニンニクだった。しかも結構な群生で、その周りには飛散した種子から芽を出したとおもわれる、二枚葉の若芽もかなりあった。点々と、ピンクのテープが藪の枝に結ばれている。
“測量だ!”やがてこの小さな野生も、改修工事で消えてしまうのだろう。
「感染症の多くは土いじり―」と注意されているので、ゴム手袋をつけ、「4.5本あれば―」という仲間の分は、茎が数本寄り添ったものを手で掘る。山野の土中はふわふわで柔らかいものの、植物の根が絡み合い肝心の根株になかなかたどり着かない。10㎝ほど掘って指先が株に触れる、でもひげ根がガッチリ横に広がっている。その周囲を拡げてようやく掘り出す。その深さ約20㎝。か弱い植物の秘める生命力とそれら生き物を育む大地、それぞれが必死に生きる切磋琢磨が野性本来の持続可能性なのだろう。
その夜、ギョウジャニンニクの卵とじをおかずに夕食に箸をつけるが進まない。たぶん胃から腸への出口がまた縮んできたのだ。
主治医が、「あなたの癌はスキルス性で、根を深く張って進行していくのです―」と。

癌の君よ、必死に生き延びようとこのワシの体内に根を張ったのか!?
でも、この大地を殺し君が生き延びるのは無理、元も子もないのだぞ。いま主治医は君だけを殺そうとしているが、根絶は難しいだろう。共に生きるか、う~ん…。

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